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16章 タイストの叔父
戦場で探していたアルヴィ・キュトラは、誰もが思いもしなかった場所で見つかった。
「言い方を変えれば、それだけあの者を信じる者がこれだけいたという事だよな。城を預かっていた者として面目ない」
キュトラ一族から謀反人が出たという衝撃に揺れ静まり返った廊下で、ヴァイノは深々と頭を下げた。アルヴィが見つかった場所は使用人達の憩いの場で、アルヴィは気心知れた側近や使用人に囲まれながら談笑をしていた。その報告を受けたタイストの行動は早かった。兵士達が一斉にアルヴィ達を囲み、共にいた使用人達は人質になる覚悟があったようだった。
「現在あの者は共にいた者達は何も知らないと釈放を求めているんだ。確かに使用人達に一世一代の侵略行為の詳細を話すとは思えないけどな」
捕らえた使用人達の他にも騒ぎを聞きつけ集まった者達が、アルヴィがそんな事をするはずがない。捕まるのは何かの間違いだと、よりにもよってタイストに懇願し始めたのだ。タイストはそんな使用人達を捕らえるような事はしなかったが、それでも城内ではアルヴィ派とタイスト派の派閥が出来てしまうという思いもしない方向へと流れ始めていた。
「元々叔父はこの城で育っているし、顔見知りも多い。それに人望を集める性格だからこそ前陛下から他国との外交を任されてもいたんだろう」
「……今更情が湧いたなんて言わないで下さいよ」
わざと言った言葉は、タイストの視線で制された。
「申し訳ありません」
「共に捕らえた使用人達は事情を聞いたのち解雇だ。紹介状も出すな。だが領地内に留まる事は許そう」
「城から追い出すのか? 貴族の血縁者もいるんだぞ。もちろんスラッカ家の縁者もだ」
「なんだ、情は沸かない方がいいんだろう?」
「でも以前のお前なら巻き込まれた使用人達の事は許したはずだぞ」
そしてヴァイノは気が付いたように瞠目した。
「もしかして奥様の為か?」
薄い唇を横に引いたタイストは、読み取れない表情で中庭を見た。
「この城でイレネが安全でない場所があってはならない。お前も肝に命じておけよ」
ヴァイノはごくりと息を呑んで頷いた。
✳✳✳✳✳
「久しいな、タイストよ。何年振りだろうか」
縄で腕を後ろで縛られたアルヴィは、牢の格子の間から薄ら笑みを浮かべてタイストを見上げてきた。顔立ち自体はあまり父親には似ていない。数年振りに会う叔父は少し痩せて焼けていた。タイストは冷静にその視線と視線を合わせた。
「あなたの処遇については陛下より一任されています」
「ハハッ! それで私を人知れず闇に葬るつもりか? そんな事をすれば私の同胞達がお前に牙を向くぞ。このキュトラ領などひとたまりもないわ!」
顔を真っ赤にしたアルヴィは格子ギリギリでタイストの前に立った。
「仲良しこよしの王政などすぐに潰れる。他国がこの国を狙っていないとでも思ったか? 私が手を下さなくても他の誰かがお前達から政権を奪うぞ! 王も王妃も王都の人間も、私から奪ったお前の妻もだ!」
その瞬間、タイストの手が格子の間からアルヴィの胸倉を掴んだ。大きな音を立ててアルヴィの頭が格子にぶつかる。そしてギリギリと服を握り締める手に力を込めた。
「貴様ッ、はな、せ」
力の抜けていくアルヴィはタイストが掴んでいる服だけで立っている状態になっていく。それでもタイストはその手を緩める事はなかった。
「旦那様、このままではキュトラ子爵が死んでしまいます」
「グ、ガッ」
「タイスト様!」
ヴァイノと兵士に止められ、タイストはようやく手を離した。
「ガッ、がハッ! お前達親子は、その地位が自分のものだと信じて疑った事はないのか。ただ奪われようとしているとしか思わないのだな」
「何が言いたいのか分かりません。それにどんな事情があったとしてもあなたを許す気はない」
タイストはそう言い残すと歩き出した。
「お前の両親を殺したのは俺だ」
その場にいた兵士達はびくりとして動きを止めた。離れていく背中に視線が集まる。アルヴィは嬉しそうに笑って言った。
「まさかまんまと崖から落ちてくれるとはな! 崖の下であの男を見つけた時にはまだ息があったぞ」
タイストは拳をきつく握り締めた。
「なんと言ったと思う? “タイストの事を頼む。お前がいれば安心だ”そう言ったんだ。ハハッ! 全くお気楽な奴だよ。自分と妻を殺した相手に息子を頼むだなんて!」
「知っていました」
「……は?」
高笑いをしていたアルヴィの表情は次第に真顔になっていった。
「あなたが両親を殺害した事はずっと前から知っていました。予想が付いていたと言った方が正しいかもしれませんが、今の証言で確実となりましたね」
「なんだと?」
「両親の事故には不可解な点があり、爵位を継いだ後トルスティやヴァイノが調べてくれました。あの日、祖父の容態は急に悪化したそうですね。あなたが帰られた直後だったと当時の屋敷の者達から聞いています。そしてこの城の厩には紫陽花の花弁が落ちていたそうです」
「だからなんだと言うんだ」
アルヴィとの間に開いていた距離を再び詰めるように、タイストが一歩づつ近付いてくる。するとアルヴィは無意識に後ろに身を引いた。
「紫陽花の葉には毒性があります。あの頃は丁度よく雨の降る季節で、両親が屋敷を出た日も小雨が降っていました。連日の雨で道はぬかるみ、いくら訓練を積んでいる優秀な軍馬とはいえ、毒物を食べた状態ではぬかるみに足を取られたか、それとも立っていられなくなってしまったのか、馬は崖から落ちてしまったのでしょう。あなたの知る事実と合っていますか?」
「答えをくれてやる気はない」
「……失敗すると分かっていたはずです。無謀過ぎます。何がしたかったのか分からない」
「お前ごときに分かってたまるか。一生自問自答するがいいさ。俺が死んだ後でな!」
タイストがもうそれ以上問う事はなかった。見張りに目を離さないように言い残すと、静かに牢を後にした。
「言い方を変えれば、それだけあの者を信じる者がこれだけいたという事だよな。城を預かっていた者として面目ない」
キュトラ一族から謀反人が出たという衝撃に揺れ静まり返った廊下で、ヴァイノは深々と頭を下げた。アルヴィが見つかった場所は使用人達の憩いの場で、アルヴィは気心知れた側近や使用人に囲まれながら談笑をしていた。その報告を受けたタイストの行動は早かった。兵士達が一斉にアルヴィ達を囲み、共にいた使用人達は人質になる覚悟があったようだった。
「現在あの者は共にいた者達は何も知らないと釈放を求めているんだ。確かに使用人達に一世一代の侵略行為の詳細を話すとは思えないけどな」
捕らえた使用人達の他にも騒ぎを聞きつけ集まった者達が、アルヴィがそんな事をするはずがない。捕まるのは何かの間違いだと、よりにもよってタイストに懇願し始めたのだ。タイストはそんな使用人達を捕らえるような事はしなかったが、それでも城内ではアルヴィ派とタイスト派の派閥が出来てしまうという思いもしない方向へと流れ始めていた。
「元々叔父はこの城で育っているし、顔見知りも多い。それに人望を集める性格だからこそ前陛下から他国との外交を任されてもいたんだろう」
「……今更情が湧いたなんて言わないで下さいよ」
わざと言った言葉は、タイストの視線で制された。
「申し訳ありません」
「共に捕らえた使用人達は事情を聞いたのち解雇だ。紹介状も出すな。だが領地内に留まる事は許そう」
「城から追い出すのか? 貴族の血縁者もいるんだぞ。もちろんスラッカ家の縁者もだ」
「なんだ、情は沸かない方がいいんだろう?」
「でも以前のお前なら巻き込まれた使用人達の事は許したはずだぞ」
そしてヴァイノは気が付いたように瞠目した。
「もしかして奥様の為か?」
薄い唇を横に引いたタイストは、読み取れない表情で中庭を見た。
「この城でイレネが安全でない場所があってはならない。お前も肝に命じておけよ」
ヴァイノはごくりと息を呑んで頷いた。
✳✳✳✳✳
「久しいな、タイストよ。何年振りだろうか」
縄で腕を後ろで縛られたアルヴィは、牢の格子の間から薄ら笑みを浮かべてタイストを見上げてきた。顔立ち自体はあまり父親には似ていない。数年振りに会う叔父は少し痩せて焼けていた。タイストは冷静にその視線と視線を合わせた。
「あなたの処遇については陛下より一任されています」
「ハハッ! それで私を人知れず闇に葬るつもりか? そんな事をすれば私の同胞達がお前に牙を向くぞ。このキュトラ領などひとたまりもないわ!」
顔を真っ赤にしたアルヴィは格子ギリギリでタイストの前に立った。
「仲良しこよしの王政などすぐに潰れる。他国がこの国を狙っていないとでも思ったか? 私が手を下さなくても他の誰かがお前達から政権を奪うぞ! 王も王妃も王都の人間も、私から奪ったお前の妻もだ!」
その瞬間、タイストの手が格子の間からアルヴィの胸倉を掴んだ。大きな音を立ててアルヴィの頭が格子にぶつかる。そしてギリギリと服を握り締める手に力を込めた。
「貴様ッ、はな、せ」
力の抜けていくアルヴィはタイストが掴んでいる服だけで立っている状態になっていく。それでもタイストはその手を緩める事はなかった。
「旦那様、このままではキュトラ子爵が死んでしまいます」
「グ、ガッ」
「タイスト様!」
ヴァイノと兵士に止められ、タイストはようやく手を離した。
「ガッ、がハッ! お前達親子は、その地位が自分のものだと信じて疑った事はないのか。ただ奪われようとしているとしか思わないのだな」
「何が言いたいのか分かりません。それにどんな事情があったとしてもあなたを許す気はない」
タイストはそう言い残すと歩き出した。
「お前の両親を殺したのは俺だ」
その場にいた兵士達はびくりとして動きを止めた。離れていく背中に視線が集まる。アルヴィは嬉しそうに笑って言った。
「まさかまんまと崖から落ちてくれるとはな! 崖の下であの男を見つけた時にはまだ息があったぞ」
タイストは拳をきつく握り締めた。
「なんと言ったと思う? “タイストの事を頼む。お前がいれば安心だ”そう言ったんだ。ハハッ! 全くお気楽な奴だよ。自分と妻を殺した相手に息子を頼むだなんて!」
「知っていました」
「……は?」
高笑いをしていたアルヴィの表情は次第に真顔になっていった。
「あなたが両親を殺害した事はずっと前から知っていました。予想が付いていたと言った方が正しいかもしれませんが、今の証言で確実となりましたね」
「なんだと?」
「両親の事故には不可解な点があり、爵位を継いだ後トルスティやヴァイノが調べてくれました。あの日、祖父の容態は急に悪化したそうですね。あなたが帰られた直後だったと当時の屋敷の者達から聞いています。そしてこの城の厩には紫陽花の花弁が落ちていたそうです」
「だからなんだと言うんだ」
アルヴィとの間に開いていた距離を再び詰めるように、タイストが一歩づつ近付いてくる。するとアルヴィは無意識に後ろに身を引いた。
「紫陽花の葉には毒性があります。あの頃は丁度よく雨の降る季節で、両親が屋敷を出た日も小雨が降っていました。連日の雨で道はぬかるみ、いくら訓練を積んでいる優秀な軍馬とはいえ、毒物を食べた状態ではぬかるみに足を取られたか、それとも立っていられなくなってしまったのか、馬は崖から落ちてしまったのでしょう。あなたの知る事実と合っていますか?」
「答えをくれてやる気はない」
「……失敗すると分かっていたはずです。無謀過ぎます。何がしたかったのか分からない」
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