貴方との、思い出

鳳凰寺未来

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あなたと出会った、この神社で、思い出す。

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 ミーンミーン。
 暑苦しい蝉の声。
 貴方と出会ったのも、こんな夏の日だったね。
 ねぇ、貴方は元気?
 私は元気。
 でもね、貴方がいなくなっちゃったから悲しいよ。
 だから胸に手を当てて、幸せだったあの頃を思い出す。
 貴方と出会った、この神社で。



「あぁ、暑いなぁ」
 私は散歩の途中にある神社で涼む。
 ここは縁結びの神社。
 私にもそんな縁があったらなー、なんて。
「そんなわけないか」
 私は立ち上がり、散歩を再開しようとした。
 でも、突然現れた貴方に呼び止められた。
「あの、」
 ん?
「あぁ、急にすみません。これ、貴方のですよね?」
 そういって差し出して来たのは私のハンカチ。
「あ、ありがとうございます!」
「いいえ。無事に届けられて良かったです。」
 ふわりと微笑む彼に、私は一目惚れしていたのかもしれない。
「あ、あの……?」
 彼の声にハッとする。
「す、すみません」
「あれ、顔赤いですよ?」
 そういえば、少しフラフラするような……。
「え、ちょっ!」
 彼の顔を見ていたはずなのに、急に空が視界いっぱいに入る。
 あ、これヤバいやつだ。
 そう思った時には、既に意識は無くなっていた。



「ん……」
 目が覚めると、知らない部屋に私は居た。
「あ、目が覚めましたか?」
 声がした方を見てみると、そこには彼が椅子に座って本を読んでいた。
 さっきはかけていなかった眼鏡をかけて。
 うわ、改めて見ると、超美人。
「此処は……?」
「僕の部屋です」
 へ?
 て、ことは、このベット……。
 私は速攻でベットから出る。
「まだ安静にしていて下さい!」
「い、いえ。これ以上迷惑はかけられません。ありがとうございました。失礼します」
 部屋を出ようとすると、手を掴まれる。
「いかないでください」
 え?
「きゅ、急にごめんなさい。でも、どうしても伝えたい」
 真剣な顔をして私を見る彼。
「一目惚れしました。つ、付き合って下さい!」
 その発言からどの位時間がたっただろうか。
 一時間か、一分か。
 そんなことすら分からなくなる程、私の思考はぐちゃぐちゃにかき回されている。
 そして、彼の言葉を理解したとき、私の気持ちも整理ができた。
「よろしくおねがいします」
 バッと頭を上げる彼。
「ほ、本当ですか?」
「はい!」
 それから私達はデートしたり、お泊まりしたり。
 そして、ある日のこと。
 彼、和斗のお母さんから電話がかかって来た。
「もしもし」
「か、和斗が、和斗が!__」
「__え?」
 私は考えるよりも早く家を飛び出した。
 走って走って、息が苦しくなるのも構わずに走った。
「和斗!」
 看護士に教えてもらった部屋に飛び込む。
「瑞樹ちゃん」
 和斗のお母さんとお父さんが気を使って部屋を出てくれる。
 ベッドに駆け寄る。
「た、倒れたって……大丈夫なの?」
「瑞樹……、ごめん。余命宣告、されちゃった。」
 頭が真っ白になった。
 そんな状態でも、私は声を絞り出して聞いた。
「何、年?」
「……一週間。」
 私は膝から崩れ落ちた。
「いっしゅう、かん?」
 唖然とする私。
 その言葉を理解すると同時に、涙があふれてくる。
 泣きじゃくる私。
 俯く和斗。
 しばらく病室には、私の泣く声が響いていた。
 ふと、和斗が私に話しかける。
「僕は、楽しかった」
「止めて」
「瑞樹と会えて、嬉しかった」
「止めてよ……」
「この一ヶ月間、僕は幸せだったよ」
「お願い、止めて」
「だから、笑って。瑞穂、笑ってよ」
 恐る恐る顔を上げると、和斗は泣きながら笑っていた。
 私は涙を拭く。
「私、も、楽しか、ったよ。嬉し、かったよ。幸せだった、よ」
 私は今できる精一杯の笑顔を和斗に向ける。
 いつもは和斗からのハグも、今回は私から。
「み、ずき……。ごめん。ごめんな」
「ううん。大丈夫。和斗の分まで、生きてあげる」
「それなら、安心して、逝ける、ね」
 だんだんと喋るのが辛そうになっていく。
「和斗?」
 返事が無い。
「和斗!」
 私の声を聞いて和斗のお母さんとお父さん、看護士が入ってくる。
「瑞樹ちゃん……」
 看護士が和斗を看ている側で和斗のお母さんが私を抱きしめる。
 その肩は小刻みに震えていた。
 それからは、医者が来て、追い出されて、待って。
 医者に呼ばれた。
 私も着いて行って良いとのことで、一緒に行く。
 部屋に入り、椅子に座る。
「……容態が急変し、我々は手を尽くしましたが、残念ながら」
 そこまで言われれば、嫌でも、分かってしまった。
「そう、ですか」
 俯き、肩を振るわせた和斗のお母さんが、声を絞リ出す。
 医者に礼を言い、病院を出る。
「瑞樹さん。送って行くよ」
「ありがとう、ございます」
 送ってもらい、家に入る。
 もう連絡はいっていたのか、お母さんが抱きしめてくる。
「瑞樹……。大丈夫?」
「……部屋、行くね」
 フラフラと自室に入る。
 ボフンッとベッドに乗る。
 そのまま眠ってしまった。



 あぁ、懐かしい思い出。
 もうすぐ夏が終わる。
 和斗、私は元気に生きてます。
 そっちに逝くのは私がおばあちゃんになってからだね。
 だから、待ってて。
 待っててね、和斗。
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