延識機兵団 ※SFコメディーです。

甲 源太

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第三話 蒼き剣 (Cパート)

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体育館から出ると、男子生徒は上半身裸になって水浴びを始めた。体育館のすぐ横に水場があり、夏の炎天下に剣道の防具を外したばかりのむさ苦しい男達からすればそこはオアシス、エデン、約束の地である。

女子は別の施設で水泳の授業を行っている。市営のプールは狭くて男女別々になってしまった。女子がプールに行っている間に男子は体育館で剣道。交代で男子がプールの時は女子が体育館でダンスである。

女子のスク水が見れない男子達が反乱を起こしたのは想像に難くないが、体育教師達が総出でねじ伏せた。

紅介はタオルに水を濡らして、硬く絞るとそれで体を拭いている。一部の生徒がびしょびしょのタオルを振り回して遊んでいるが、紅介はそれには参加しない。いつもなら真っ先に飛び込んでいくが、今の紅介にはどうしてもそういう気分になれなかった。

「最後のはいい構えだったよ」
蒼眞が声をかけたのは、紅介が汗を拭き終えた後だった。
「お、おう」
また、絡んで来やがったと訝しみながら、紅介は返事した。
すると、蒼眞も水を流して手を洗い始めた。

剣道の小手は雑菌が繁殖し、悪臭を放つ。そこに入れたてにも同様に匂いがつく。蒼眞が近づいて来た時、その独特の匂いが紅介にその存在を先に教えていた。この匂いはいくら石鹸でゴシゴシ洗ってもなかなか落ちない。

もちろん、その匂いはそれだけ蒼眞が普段から稽古に励んでいる証拠である。紅介含め、生徒はみな防具を学校の貸出品を使っていたが、蒼眞だけは自前のものを使っていた。

「いや、お前から話しかけてきたんだから、トーク繋げろよ」
黙って手を洗う蒼眞に業を煮やし紅介は声を荒げた。こいつにはこれ以上関わらない方がいいと思ってはいるがどうもツッコミに徹してしまう性分なのだ。

「ふむ、トークかいいだろう」
言って、蒼眞は手から石鹸の泡を全て洗い流すと、流しの縁に置いておいた手提げ袋からスプレーを取り出した。
「これは薬局買ったミョウバンの粉末を水で薄めたものだ」
どうだ!と言わんばかりに紅介に見せつけてきた。
「これを小手の匂いで臭くなった手に散布すると...」
言葉通り、シュッ、シュッと手にそれをスプレーした。
「簡単に頑固な匂いが取れるのだ」

「え、なにそれでおれは凄いねとかいえばいいのか?お前、剣道以外に興味ないのか?」
紅介のツッコミが冴える。
「無いな」
蒼眞が即答する。

「ひとつ君に伝えたいことがあるとすれば、最後の反射的な受けだな。あそこまで綺麗に決まることはないものだ」
「ああ、あれはなんだ?裕太は気影術とかスタンドだとか騒でたけど、あんないかがわしい出版社が出した本なんか当てにならん」
「ん? なんの話かよく分からないが...あれはフェイントのようなものだと考えてもらって構わんよ」
「お前は何も動いてなかったじゃないか」
「ああ、体はな。だから気で君を攻めたのだよ、一時的に君の面へ圧を強くした。」
「どういう話だ、それは」
「いきなりこんな話をして怪しむのも分かるが、こうでも言わないと説明が出来ないな。気という言葉以外に適する言葉がないんだよ」
「確かに現在の医学や科学で解明出来ていないことは沢山あるだろうが」
「まあ、そういうことだ。事実、君は私の気に反応したじゃないか。だから、面を守ろうとしたのだろう」
「まあ、そうだな」
「これは君が剣の素人で尚且つ、武道の心得があったからこそあそこまで引っかかったのだよ。武道の素人なら気に反応することなどまず無いのだから」
「ふむ」
「それに君だって、試合で相手からのプレッシャーを感じたことがあるだろう、剣道ではそれが桁違いなのだよ、徒手と剣はそのまま間合いの違いになるだろう。遠くなれば動作に移る前に気のせめぎ合い、探り合いが多くなるのだ。虚を攻めて実を打つとよく表現される。逆に近くなればなるほど現実の動きがダイレクトに作用するから気のやり取りなど余裕がなくてできなくなる。まあ、それも剣道では竹刀による打突に固執し、鍔迫り合いからも気のやり取りをするがね。現実に殺し合いをしたら相手の武器を奪うとか頭突きなどの当身をするとか蹴るとかするだろうに」
いきなり物騒な話に移った蒼眞を、紅介はやや怪訝な顔で見ていたがすぐにそれもなくなった。それが武の本質である。剣道にしろ空手にしろ防具をつけたとて怪我をするときはする。怪我ですめばいいが、それを超えることも可能性としてあるのだ。

「ああ、打突に拘らなくなったら逮捕術になっちまうよな」
「はっはっはっは、君もよく知っているじゃないか」
警察官が習得すべき武道は柔道と剣道だけではない。棒でしばき合いながら殴る蹴るなんとも物騒なものが存在する。武器をつかった総合格闘技である。柔道や剣道とは違い、これは警察関係者のみが習得しているもので、一般人が道場に習いにいくようなものではない。故に認知度は著しく低いのだ。

[紅介君、蒼眞君、聞こえる?]
[宍戸さん、何かありましたか?]
突然、脳に直接響いてくる「声」が2人に届き、蒼眞が答えた。宍戸とはオペレーターの名前である。
[え、なんで蒼眞にも聞こえてるんだ?]
紅介は驚いて答えた。
[蒼眞君、まだちゃんと自己紹介してなかったの?]
[ええ、少し彼のことを知りたかったので素性を隠していました]
[全くもう...どうして男の人っていちいちそういうアニメとかマンガの登場人物みたいなことをしないと気がすまないのかしら。とにかく今迎えを行かせたから公民館の駐車場で待ってなさい]
[ちょっと待ってくれ、セ◯ラさん!]
「その呼び方止めてって何回も言ってるでしょう、でなによ?」
[最初の聞こえる?っていう呼びかけは聞こえて?って言う方がいいかな]
[あんた他に言うことないわけ、蒼眞君のこととかさあ]
[なんかもうお約束過ぎてなんとも思えないっすわ]

通信が切れた後、2人は待ち合わせ場所へ向かった。


[くっそ、だからなんでおれは走らなきゃいけないんだよ、あいつは飛んでんのによ。赤のおれが飛ぶんだろ、それであいつは陸上を高速機動でドリル振り回すんじゃないのかよ、そしておれはトマホークとビームだ、コンチキショー]
[しょうがないでしょ、あれは開発系統が別で技術提供されてないのよ]
[え、そういう企業同士の軋轢とか用意されてんの、このラノベ。あと官と民の対立とか?無理だよ作者の頭パンクしちゃうって、無駄に風呂敷広げて収集つかなくなるって、世の中のロボットアニメは監督とか脚本家とか演出とか色々な人が協力し合ってできてんだよ。それを1人で同じようなことしようとしても見苦しいことになるだけだって]

エンキ1号が道路を破壊しながらダッシュしている。交通規制によって乗用車は一切走っていないが、だからと言って一歩地面を蹴るたびにアスファルトにヒビを入れるのはいかがなものかと、紅介は気にしたが、宍戸オペレーターにとにかく走れと言われて渋々走っている。

[蒼眞が全部倒しちゃうんじゃないの?急いで走っても意味ないんじゃ]
[いいえ、そろそろ2号のエネルギーは切れるわ]
[え、それヤバくね]
[まあ、それで動けなくなるわけではないわ、飛べなくなるだけ戦うことはできるのよ]
[あれだけの質量のものを切り返しの連続で高速移動させれば燃費がとんでもなく悪そうだよな]
案の定、紅介が戦場にたどり着くと蒼眞が乗るエンキ2号はチャンバラをやっていた。

ガキンっ!!

エンキ2号が敵機の美作の胸に刀を突き入れた音があまりにもえげつなかった。そして次の標的に首を向けようとする2号機であったが、虫の息の美作はなんと2号の刀を両手で握りしめて、抑えた。
「死に損ないがっ」
外部スピーカーから蒼眞の怒声が響き渡る。

[あいつ、キレると人格変わるよな、口めっさ悪くなるよな。大丈夫なの、あいつ]
[紅介君も人のこと言えないと思うけど、自分自身を人質にしたりとか]
[......]

「よっしゃー、かかって来いよ!おらーーーー」
状況が悪くなると、むりくり会話を終わらせた紅介は得物を抑えられてピンチの2号を助けに敵に向かって叫びながらダッシュした。

別の美作が2号機に近づいてきてハンドアックスを上段に振りかぶった。
「ちぃっ!」
2号機は咄嗟に刀から手を離すと後ろに飛び退いた。

すると振りかぶられたハンドアックスは刀を断ち切り、激しい衝撃音をたててそれは2つに分かれた。

「敵ながら見事!」
これで自分の力は半減した。そう思いながらも敵の自己犠牲に感服している。蒼眞の心はそれまでの口調とは裏腹に落ち着いているのだ。

「紅介、あとは君に任せるぞ」
「なに?お前敵前逃亡か?」
「僕はもう7機墜した、あと3機君にとっておいたよ」
「いや、刀が折れたからってなんだよ、そこら辺の電柱でも引っこ抜いて振り廻せよ」
「この痴れ者が、電柱一本建てるのにどれだけの金と労力がかかって、そして生活に影響が出ると思っているんだ!」
「知るかーーーーー」
叫ぶと同時に、1号機は刀を折った美作に跳び蹴りを食らわせた。

「僕たちは敵と戦うだけじゃない被害を最小限に抑えて市民の生活も守らねばならん、そして会社のイメージもな」
「ちょっと待て最後のなんだ?」
「君の機体は国のプロジェクトチームに属するが、僕は四菱重工からの出向扱いだ。故に不必要な破壊はあとで請求が来るし、コンプライアンス問題に発展する」
「だから、そういう設定増やすと作者の頭が破裂するだろうがよ!なにその地球防衛企業ダ◯・ガードみたいなやつ」
「君という格闘戦の専門家がいるのにもかかわらず、格闘戦の装備も訓練もしてない僕が無理して殴って壊すとあとで怒られる。できるだけ経費は少なくするよう努めなければならないんだ」
[ちょっとあんた達、外部スピーカー使ってわざわざ相手に情報流してどういうつもりよ]
TCDで宍戸オペレーターが2人を怒鳴りつけた。読者の方々もお気づきのことと思いますが、「」は外部スピーカーで[]はTCDの会話である。

2号機はもう戦えない。それを知った残りの美作2機は案の定、2号機に突っ込んできた。
[不味い、逃げたら逃げたで会社のイメージ悪くなるし、走って逃げれば街に被害が出る]
[しょうがねえな、2機とも瞬殺だ]

1号機が2号機に迫り来る美作2機に近づくとその内の1機が方向転換して1号機を迎え撃った。

ヒュン、ガスッ。

1号機と対峙した美作はハンドアックスをあろうことか1号機に向かって投げた。そして意表を突かれた1号機は避けること適わず、腕で刃を受けた。
「痛ってーーーーな、コンチキショー」
左腕に刺さったハンドアックスを右腕で抜くと、そのまま敵に投げ返した。

見事命中。頭が潰れ、力なく地面に伏した。

よし、最後の1機!と思い、2号機の方を見ると、2号機はマウントをとられてボコボコに殴られていた。一方的にそれはもうボッコボコに。

「蒼眞!」
すぐに助けに行きたかったが片腕しか動かない状況では心許ない。先ほど投げたハンドアックスは頭をかち割った後、美作が倒れた衝撃で刃がボロボロである。

何か武器はと辺りを見回すとひとつだけあった。敵の胸に刺さったままの2号機の折れた刀身である。柄のない抜き身の刃を握ると、それはもう痛かった。

「ふんっ」
と気合を入れて、刺さっている胸を踏みながら一気に引き抜いた。

そして走る。

殴ることに夢中になっていた敵は1号機の接近に気付くのが遅れた。

「おらっ!」
1号機はマウントを取る敵を蹴り転がすと、その勢いで敵が仰向けになった。

「もらった!」
1号機は刀身をその腹に突き入れた。

びくっびくっと動いたのを最後にそれは沈黙した。


「おーい、生きてるか」
1号機が外部スピーカーで呼びかけながら、2号機を起こした。
[ああ、すまん、スピーカーが壊れたみたいだ]
[そうか]

[徒手格闘を学ばなければ今後やっていけないな]
[ああ、そうだな]
[空手、教えてくれないか]
[ああ、いいぜ。おれにも剣道教えてくれよ、っていうか武器が欲しいよ]
[それは僕に言われてもな]
[そうだな]

お互いにハッチを開けて生身を晒すともう日が暮れていた。

沈みゆく夕日が握手をする2人を照らしていた。


次回予告
3人目のパイロット「まったく男同士でなにをやってんだか、70年代のスポ根アニメじゃあるまいし。おれはやっぱり可愛い女の子とのラブコメ展開が希望だ。頼むぜ、作者さんよっ。そんじゃ第四話、雷の閃光、でっかい花火打ち上げるぜい」
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感想 2

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みんなの感想(2件)

関谷俊博
2016.08.30 関谷俊博

戦闘シーン、迫力あります! 興奮するぅ!

2016.09.02 甲 源太

ありがとうございます。
戦闘シーンはあまり多くないんですが、それだけ印象に残ったみたいですね。次回はアクションにもっと力を入れてみます。

解除
関谷俊博
2016.08.15 関谷俊博

設定が本格SFだあ! すごい! 続き、楽しみにしています。

2016.08.15 甲 源太

応援、ありがとうございます。
これから頑張りますので、よろしくお願いします。

解除

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