異世界転移は草原スタート!? 勇者はお城でVIP待遇、俺は草原でサバイバル

ノエ丸

文字の大きさ
263 / 321
厄災到来編

312.それは嵐の前の静けさのように……

しおりを挟む
 
「違う……違うんじゃ……。ワシの記憶にある花畑は、まさにこれなんじゃよ……」

 そう言うと爺さんは静かに涙を流した。

 これが爺さんの覚えてる花畑ってわけか……さっきまであった花畑と比べると、遥かに小さい。
 俺はもっと凄いものを想像していただけに、肩透かしを食らった気分だ。
 おっと……人の思い出にケチをつけるのは駄目だよな。

 爺さんはしばらくすすり泣き、涙を拭うと立ち上がった。
「どうやらワシは、思い出を美化し過ぎていたようじゃな」
 そう言うと小屋へ向かい、振り返らずに告げた。

「少し待っておれ、準備をしてくるからのぉ」


 ◇

 しばらくママと待っていると、爺さんが小屋から出てきた。
 マントを身に纏い、何処かへ旅立つような恰好をしていた。
 その姿を見て、俺は理解した。
 どうやら爺さんはこの村を離れる決心がついたようだ。
「……いいんですか?」
 俺の問いに爺さんは答えた。
「ああ、もう心残りはない。この年じゃが、ワシも前に進もうと思っての」
 爺さんは花畑の隅にある、墓石のような石を見つめた。
「あそこに、眠っているんですか?」
「……いや、あの下には何も眠ってはおらんよ。結局何も見つけることは出来んかった」
 そう言って胸に下げている木製のペンダントを手で触る。

 思い出の品なのだろうか。
 そう思っていると、爺さんはペンダントを引きちぎった。
「――え?! ちょっと!!」
 俺が驚いているのを無視して、爺さんは墓石の側にペンダントを置いた。
「いいんじゃよ。村に帰るとき、弟子に買わせただけのもんじゃ。手土産ぐらいはと思ったんじゃが……ワシ自身は選びもせんかった。そんな代物じゃよ……」
 そう答えた爺さんの顔は後悔に満ちた表情をしていた。

 爺さんは俺に近付くと、頭を下げた。
「ありがとう。お前さん方が来なかったら、ワシはこの村で朽ち果てるだけの存在に成り下がっておった」
 頭を下げる爺さんに向けて、何かを言おうと思った。
 言おうと思ったが、言葉が出て来ない。
 爺さんの願いを叶えたといっても、それは下心があったからだ。
 爺さんを街に連れて帰って、俺たちのランクを上げる為の――。

 だが爺さんはそんな俺の心の内を見透かしたのか、こう言った。
「理由はどうであれ、お前さんはワシの願いを叶えた。それは普通の人間ではなしえぬ事じゃ、胸を張りなさい。今まで何人も達成できなかった”ワシを街に連れて帰る”という依頼を達成したんじゃからのぉ」
 爺さんは笑いながら俺の前を離れ、ママの前に立ち膝を折り頭を下げた。
「ワシの願いを叶えてくれたこと、心より感謝しておる。たとえ言葉が届かぬとしても――ありがとう。本当に、ありがとう」
 ママは爺さんの頭をひと撫でし、俺と爺さんを抱き上げた。


 ……あ、やばい。
 直感でそう確信した。

「ママちょっとま」
 ママの腕に抱かれながら、一気に上空へと舞い上がった。

 ◇

「あばばばばばばば」
「あばばばばばあば」
 俺と爺さんは共に、上空へと舞い上がっていた。
 心の準備とかそんなの一切無視してママは空を舞い上がる。
 雲一つない快晴。
 目的地である街道沿いに停止している馬車目掛けて、ママは根っ子を伸ばす。
 まるでスパイダーマンのように、体を手繰り寄せて目的地へ一瞬で移動する。

 その動きはとても静かで、優しかった。
 俺と爺さんに外傷はない。
 ママが移動の振動をほとんど抑えてくれていたのだろう。
 だが、風の抵抗や瞬間移動に伴う恐怖心によって、俺と爺さんの心身は深く削られていた。

 本日二度目の移動により、俺の足腰は生まれたての小鹿のようになっていた。
 爺さんも四つん這いになり、「お、おおぉぉぉ……」と声を漏らしている。

 ぶっちゃけた話。
 爺さんが街に行くかどうかの最終確認をする暇もなくここへ来たのだ。
 余韻もへったくれもない。
 爺さんがなんかいい感じの空気感を出していたのに、ママはガン無視で運んでくれた。

 突然帰って来た俺たちに、三人は驚きながらも割と軽い感じで迎え入れた。
「おかえりー、早かったねー」
「ソラ大丈夫? 膝枕しようか?」
「思ったよりも速かったですね~。このままお昼にしますか~?」

 俺はアナの膝の上で疲れを癒すことにした。
 そんな中、シャロとマリアがせっせとお昼の準備を始める。
 爺さんが俺とアナの隣に腰を下ろし、口を開いた。
「まったく。お前さん方はいつもこんな感じなのか?」
「いつも……と言われれば違うかな?」
 さすがに今回はママというイレギュラーキャラが居るので、ハチャメチャなことになっている気がする。
 ……気のせいかな? そう思うことにしよう。もう何も考えたくないや。

「ご飯できたよー」
 シャロの言葉に俺は身を起こした。
 本音を言えばアナの膝枕をずっと堪能したい。
 正直な話、クマさんに事前に話していた、今回の依頼の日程を大幅にオーバーしている。
 さっさと帰らないと心配されてしまう。

 俺たちは昼食を食べると、ドレスラードへ向けて出発した。

 ◇
 爺さんを回収してから一日が経った。
 街道沿いの風景も見覚えのあるものに変わっていった。

 そう、ドレスラードまでもう少しだ。
 この傾斜を登ると、ドレスラードが見える丘に出る。
 そう思いながら馬車を進ませ、丘の頂上へと辿り着いた。

 そこで奇妙な物を見かけた。

「……アナ。あれってなんだ?」
 隣に座るアナに問い掛ける。
「うーん。なんで厳戒態勢になってるんだろうね?」
「理由はわからんが、早く戻った方が良さそうだな」

 そう、ドレスラードの城壁の前に、遠目からでもわかるくらいの布陣がひかれていた。
 まさか……何か不測の事態でも起きたのか?
 そう思い、手綱に力を籠め、馬車の速度を速めた。

 何か胸騒ぎがする……。
 俺たちが帰りつくまで何とか持ちこたえてくれ……!


 そう思いながら、俺たちと”ママ”はドレスラードへの道を突き進んだ。
 
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!

霜月雹花
ファンタジー
 神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。  神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。 書籍8巻11月24日発売します。 漫画版2巻まで発売中。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。