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厄災到来編
312.それは嵐の前の静けさのように……
しおりを挟む「違う……違うんじゃ……。ワシの記憶にある花畑は、まさにこれなんじゃよ……」
そう言うと爺さんは静かに涙を流した。
これが爺さんの覚えてる花畑ってわけか……さっきまであった花畑と比べると、遥かに小さい。
俺はもっと凄いものを想像していただけに、肩透かしを食らった気分だ。
おっと……人の思い出にケチをつけるのは駄目だよな。
爺さんはしばらくすすり泣き、涙を拭うと立ち上がった。
「どうやらワシは、思い出を美化し過ぎていたようじゃな」
そう言うと小屋へ向かい、振り返らずに告げた。
「少し待っておれ、準備をしてくるからのぉ」
◇
しばらくママと待っていると、爺さんが小屋から出てきた。
マントを身に纏い、何処かへ旅立つような恰好をしていた。
その姿を見て、俺は理解した。
どうやら爺さんはこの村を離れる決心がついたようだ。
「……いいんですか?」
俺の問いに爺さんは答えた。
「ああ、もう心残りはない。この年じゃが、ワシも前に進もうと思っての」
爺さんは花畑の隅にある、墓石のような石を見つめた。
「あそこに、眠っているんですか?」
「……いや、あの下には何も眠ってはおらんよ。結局何も見つけることは出来んかった」
そう言って胸に下げている木製のペンダントを手で触る。
思い出の品なのだろうか。
そう思っていると、爺さんはペンダントを引きちぎった。
「――え?! ちょっと!!」
俺が驚いているのを無視して、爺さんは墓石の側にペンダントを置いた。
「いいんじゃよ。村に帰るとき、弟子に買わせただけのもんじゃ。手土産ぐらいはと思ったんじゃが……ワシ自身は選びもせんかった。そんな代物じゃよ……」
そう答えた爺さんの顔は後悔に満ちた表情をしていた。
爺さんは俺に近付くと、頭を下げた。
「ありがとう。お前さん方が来なかったら、ワシはこの村で朽ち果てるだけの存在に成り下がっておった」
頭を下げる爺さんに向けて、何かを言おうと思った。
言おうと思ったが、言葉が出て来ない。
爺さんの願いを叶えたといっても、それは下心があったからだ。
爺さんを街に連れて帰って、俺たちのランクを上げる為の――。
だが爺さんはそんな俺の心の内を見透かしたのか、こう言った。
「理由はどうであれ、お前さんはワシの願いを叶えた。それは普通の人間ではなしえぬ事じゃ、胸を張りなさい。今まで何人も達成できなかった”ワシを街に連れて帰る”という依頼を達成したんじゃからのぉ」
爺さんは笑いながら俺の前を離れ、ママの前に立ち膝を折り頭を下げた。
「ワシの願いを叶えてくれたこと、心より感謝しておる。たとえ言葉が届かぬとしても――ありがとう。本当に、ありがとう」
ママは爺さんの頭をひと撫でし、俺と爺さんを抱き上げた。
……あ、やばい。
直感でそう確信した。
「ママちょっとま」
ママの腕に抱かれながら、一気に上空へと舞い上がった。
◇
「あばばばばばばば」
「あばばばばばあば」
俺と爺さんは共に、上空へと舞い上がっていた。
心の準備とかそんなの一切無視してママは空を舞い上がる。
雲一つない快晴。
目的地である街道沿いに停止している馬車目掛けて、ママは根っ子を伸ばす。
まるでスパイダーマンのように、体を手繰り寄せて目的地へ一瞬で移動する。
その動きはとても静かで、優しかった。
俺と爺さんに外傷はない。
ママが移動の振動をほとんど抑えてくれていたのだろう。
だが、風の抵抗や瞬間移動に伴う恐怖心によって、俺と爺さんの心身は深く削られていた。
本日二度目の移動により、俺の足腰は生まれたての小鹿のようになっていた。
爺さんも四つん這いになり、「お、おおぉぉぉ……」と声を漏らしている。
ぶっちゃけた話。
爺さんが街に行くかどうかの最終確認をする暇もなくここへ来たのだ。
余韻もへったくれもない。
爺さんがなんかいい感じの空気感を出していたのに、ママはガン無視で運んでくれた。
突然帰って来た俺たちに、三人は驚きながらも割と軽い感じで迎え入れた。
「おかえりー、早かったねー」
「ソラ大丈夫? 膝枕しようか?」
「思ったよりも速かったですね~。このままお昼にしますか~?」
俺はアナの膝の上で疲れを癒すことにした。
そんな中、シャロとマリアがせっせとお昼の準備を始める。
爺さんが俺とアナの隣に腰を下ろし、口を開いた。
「まったく。お前さん方はいつもこんな感じなのか?」
「いつも……と言われれば違うかな?」
さすがに今回はママというイレギュラーキャラが居るので、ハチャメチャなことになっている気がする。
……気のせいかな? そう思うことにしよう。もう何も考えたくないや。
「ご飯できたよー」
シャロの言葉に俺は身を起こした。
本音を言えばアナの膝枕をずっと堪能したい。
正直な話、クマさんに事前に話していた、今回の依頼の日程を大幅にオーバーしている。
さっさと帰らないと心配されてしまう。
俺たちは昼食を食べると、ドレスラードへ向けて出発した。
◇
爺さんを回収してから一日が経った。
街道沿いの風景も見覚えのあるものに変わっていった。
そう、ドレスラードまでもう少しだ。
この傾斜を登ると、ドレスラードが見える丘に出る。
そう思いながら馬車を進ませ、丘の頂上へと辿り着いた。
そこで奇妙な物を見かけた。
「……アナ。あれってなんだ?」
隣に座るアナに問い掛ける。
「うーん。なんで厳戒態勢になってるんだろうね?」
「理由はわからんが、早く戻った方が良さそうだな」
そう、ドレスラードの城壁の前に、遠目からでもわかるくらいの布陣がひかれていた。
まさか……何か不測の事態でも起きたのか?
そう思い、手綱に力を籠め、馬車の速度を速めた。
何か胸騒ぎがする……。
俺たちが帰りつくまで何とか持ちこたえてくれ……!
そう思いながら、俺たちと”ママ”はドレスラードへの道を突き進んだ。
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そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
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