異世界転移は草原スタート!? 勇者はお城でVIP待遇、俺は草原でサバイバル

ノエ丸

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新生活スタート編

272.新たな日常

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 第2部スタート。
 ――――――――――――――――――― 

  雫がこの世界から消えて、もう10日ほどが経っていた。

 あの場にいたメンバーはいつもの日常を過ごしていた。
 そう――俺以外は。
 自分でもビックリするくらい影響を受けていた。
 正直な話、自分の手で知り合いを殺したようなものだ。その次の日からいつも通りに過ごせと言われても無理がある。俺の神経はそこまで図太くないし、サイコパスでもない。

 俺は、一般的な高校生だ。
 仲間が消えたんだ……しばらくの間は喪に服してもいいじゃないか。
 実際俺はあのあと、部屋に戻り1人で涙を流した。
 アイツの魂が完全に消滅したということは、もう二度と会うことが出来ないということだ。

 今でも雫が居た腰の辺りを、何気なく触ってしまっている自分がいる。
 もうそこには何も無いというのにな。

 ……今度本でも買って代わりにしようか。いや、あんな傍若無人な本の代わりなんて、この世界のどこを探しても見つからないだろう。

 俺はこの10日間ずっとこんな感じだ。
 テンションが上がらない。何をするにしてもやる気が出ない。飲んだくれになっていないだけマシか。

 まあそんなわけで、俺は街をブラブラ散歩する日々を送っている。
 幸い金なら有る。
 アウラお嬢様から、アラクネの布の残りの代金を受け取ったので懐は温かいままだ。
 金はある、といってもパーティの運営資金のようなものなので無駄遣いはしない。
 俺の右手にある酒瓶はちゃんと個人の貯蓄から買ったものだ。お酒美味しい。

 駄目だな。
 これじゃあ消えた雫に示しがつかない。
 そろそろ俺も巣立つ時がきたかもしれない。

 シャーリー亭を出て、家を借りよう。

 もちろん理由もある。
 何故かクマさんは俺の部屋で寝泊まりをしている。正直あの部屋のベッドで2人で寝るのは狭すぎる。
 なぜ俺の部屋に居るのかと、理由を聞いても「シズクとの約束だ」としか言わないので、あまり強く言えない。
 死んだ人間の約束を持ち出すのはズルいと思う。そのカードを切られたら何も言えないじゃないか。

 なので、思い立ったが即吉日。
 トリコもそう言っているんだ、早速物件を探そう。シャロの親父さんに相談だ!

 ◇

「家を借りるのか?」

 シャロの親父さんに、かくかくしかじかこしたんたんした。
 俺の決意を聞き、親父さんは少し考えているようだ。数少ない宿屋の客がいなくなるからな。多分俺がここを出るとアナも出ると思う。そうなると、この宿に泊まっている人間はゼロになる。
 因みにロゼさんたちは俺たちが王都に出発してから、結構早い段階でクランハウスを手に入れ、引っ越していったらしい。今度挨拶に行こう。
 なので現在、シャーリー亭に泊まっている宿泊客は、俺とアナとクマさんだけだ。シャロはここが実家だし、マリアは教会に住んでいるので除外だ。

 なんでそうなっているのかって? 理由は簡単だ。

 シャーリー亭夜の部である、酒場が大繁盛しているからだ。
 そっちに人手が割かれるため、宿屋の運営まで手が回らないらしい。
 誰しも儲かる方を優先するのは仕方のないことだ。
 そんなわけで現在シャーリー亭は宿屋でありながら、新規の宿泊客の募集を中止している状態になっている。
 宿屋的にそれはどうなの? と思ったが別にいいらしい。「息子の実力が認められた」と言って喜んでいた。

 そんなわけで、俺とアナが出て言ってもシャロの家族が食うに困るという事はない。
 シャロの親父さんが言った。

「そうだな。お前らもそういう時期が来たのかもしれないな。わかった、知り合いを教えておくから、時間のあるときにでも訪ねてくれ」
「ありがとうございます」

 無事に不動産屋? との連絡手段を手に入れた。この世界の物件事情について何もわからないので不動産屋と呼んでいいのだろうか。別にいいか。
 それでは善は急げという。ふらつく足で早速その不動産屋に行ってみることにした。


「どこいくのー?」

 宿を出て直ぐに、”2人のシャロ”に捕まってしまった。
 今日はシャロ、アナ、マリア、リリアーヌとで出掛けているはずだったんだがな。
 別に隠す事ではないので、ここを出て家を借りることを、何故か2人に分身しているシャロに伝えた。

「えー、うち出るの? ちょっと待ってて、2人を呼んでくるから―」

 何故2人を呼んでくるのか……。
 俺は1人暮らし用の物件を探す予定なんだが……そうか、もしかしたら俺がこの世界の賃貸に詳しくないから、サポートをしてくれるつもりなのだろう。
 シャロの親父さんには俺が異世界人だと打ち明けていないので、この世界の家を借りるときのやり方を知らない。
 もしかしたら不動産屋に、劣悪な環境の部屋を押し付けられる可能性もある。それを4人で防いでくれるのだろう。

 まったく……いい仲間を持ったもんだ。
 俺は酒瓶の中身をグイッと飲み。改めて仲間の偉大さに心打たれた。

 少しだけ待ち、シャロがアナとマリアを連れてきた。
 リリアーヌは帰ったらしい。

 ◇

「ソラ。家借りるってホント?」
「ああ、そろそろ宿屋暮らしも卒業しようと思ってな」

 アナが真っ先にそんなことを口にしたので、俺は答えた。
 俺の言葉を聞き、アナは考える仕草をし、言った。

「……わかった。それじゃ早速行こ? この世界の物件何もわからないでしょ?」
「そうだな。一応親父さんに教えて貰った人に会ってからでもいいか? その人が物件を扱ってるらしいんだ」
「ん、わかった。シャロちゃんにマリアも行こ」
「「おー!」」

 流れで一緒に物件を探すことになった。
 足元のふらつくを俺をシャロが支えながら、教えてもらった不動産屋へ向かった。

「酒瓶は置いていってねー」
「あ、はい」

 さようなら俺の相棒……。
 俺は〈収納魔法アイテムボックス〉に酒瓶を仕舞い、シャーリー亭をあとにした。

 ◇

「間取りが気に入らない。次」
「そ、そうですか……で、では次の物件に参りましょ」

 あれから俺たちは、シャロの親父さんの紹介してくれた不動産屋に色々と物件を紹介してもらっていた。
 因みにこれで10件目だ。
 ほとんどアナが「気に入らない」と言って却下しているので、こんな件数になっていた。

 おかしい……俺は1人暮らし用の部屋を探していると伝えたはずだ。
 なのに最初の1件目から一戸建てを紹介されている。なぜ?

 なぜ? っという思いもあるが、殆どアナによって却下されるので、未だに契約までいたっていない。
 そして11件目の物件に来た。

 ……いいんじゃない? 俺の正直な感想はそれだった。

 街の城壁に近いが、2階建ての一軒家で庭付き。
 1階部分には4人で過ごすには十分な広さのリビングに、キッチンとトイレが1個づつと、小さめの部屋が2つある。
 2階には同じ間取りの部屋が4部屋あり、俺以外の3人が泊りに来てもそれぞれの部屋が用意できる。

 正直1人で住むには広すぎるが、3人からは意外と好評だった。

「いいんじゃない?」
「だねー、部屋も広めだしー」
「ココなら問題ないですね~」

 何かここで決まりそうな気配がしてきたので、俺も口を挟んだ。

「いやーでもこんないい物件だとお値段、お高いんでしょ?」
「いえいえ、実はこの物件。これくらいの費用になります」

 そう言って不動産屋が提示した額は、それなりに安い。
 マジ? この間取りでこの値段? ダメダメ、絶対ダメだ。
 俺の勘が警報を鳴らした。こんな物件でこの値段なんて絶対に事故物件だ。絶対訳アリだって。やめとこ?

 俺の反応を見て、不動産屋は聞いてもいないのに語り始めた。

「実はこの物件……夜な夜な庭に、何かの影が蠢いておりまして……借りる人がいないんですよ」
「ふーん。それなら私が結界を張れば問題ないかな」
「それよりも、イザベラ様にお祓いしてもらいましょう~。その方が確実です」

 アナとマリアがそんなことを言っているが、俺は心霊物件に住みたくない。

 ……実は庭に黒い人が居るのは見えていた。

 見えていたうえで見ないふりをしていた。

 以前俺の部屋に居た、あの黒いヤツと同じ見た目をしたヤツらだ。

 ココだけの話。
 俺らが王都から戻って来た時点で、ヤツらの数が増えていた。
 今までは俺の部屋に居たヤツ――面倒なので黒いから「闇の眷属」と呼ぶことにしよう。
 その闇の眷属……面倒だ「やみけん」でいいや。

 やみけんは最初1匹しか居なかった。俺の部屋に居たあの剣を背負っているヤツだ。
 でも今は、何故か数が増えていて、市場や冒険者ギルドにまで居る始末だ。
 別に悪さをするわけではないのだが、俺はホラーが苦手だ。不意に視界に真っ黒な人が映るだけでも心臓に悪い。
 心臓に悪い――そんな風に言っているが、ぶっちゃけ最近は慣れてきた。無害だというのが一番の理由だろう。

 市場に居る連中は店を開いている人の真似をしている者や、通行人のあとをついて行き、一定の距離になると定位置に戻るという動作を繰り返す者、道路に寝転びスカートの中を覗いてるのもいる。
 そんな光景を王都から帰って来てから、日常的に見ていると、正直言って慣れてしまう。
 怖いという感情よりも「……何コイツら」という感情の方が強く出てきてしまう。なので庭に居た連中も怖いというよりも、「何コイツら」という思いの方が先に来てしまっていた。

 いけるか? でも夜になったら現れる連中がコイツらだとは限らない。
 試しに1日だけ泊まれたりしないかな。それで判断ができる。3人に一緒に泊まってもらうか? 聞いてみるか。

「ところで、ここに試しに1泊するとかってできますか?」
「1泊ですか? 本来は駄目ですが……」

 そう言ってアナをチラリと見て。

「今回は特別ということで、明日の朝お迎えにあがる形でよろしいでしょうか?」
「ありがとうございます。それでお願いします」

 そんなわけで、心霊物件で1泊することになった。

 ―――――――――――――――――――
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