小説の世界に入った私~子爵令嬢ポピーとして物語を楽しませていただきますわ!~

オケラ

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#12 現場

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 ドアの開く音が聞こえ、私は咄嗟にしゃがんで身を隠した。

(……はっ! しまったわ! どうして隠れてしまったのかしら!?)

 誰かが部屋の中に入り、ドアが閉まった。
 足音が近づいて来る。

(ど どうしましょう!)

 冷や汗をかいていると、運良く足音が止まった。
 その誰かは、私がいる方とは反対の、真ん中の机を挟んで向かいの場所で足を止めた様子。

(……どなたかしら……?)

 心拍数が高まる中、同様に好奇心も高まっていった。
 少し顔を上げ、机の上に置かれてある物の隙間から覗き見る。
 目に映ったのは一人の女子生徒だった。
 胸のバッジは紫色だ。

(2年生だわ! 初めてお見かけする人だわ……)

「はぁ~~……まだかしら~~……」

 彼女の言葉に、一気に焦りが増した。

(誰かを待っていらっしゃるんだわ! つまり、こちらにはまだそのお相手がいらっしゃるということ……! どうしましょう! 今すぐ立ち上がるべきかしら……!?)

 決断できないでいると、

ギィ……

「!!」

 もう一人の誰かが現れてしまった。

(ひゃぁ! どうしましょう……!!)

「やっと来てくれたのね~待ちくたびれちゃったわ~」

「ごめんよ。抜け出すのも簡単じゃないんだ」

 男性の声が聞こえ、私は耳を疑った。
 聞き覚えがあったのだ。

(…………え…………?)

 隠れているのが見つかったらどうしようといった焦りは一瞬で消え去り、別の焦燥感に駆られた。

「うふふ~。本当は私も今来たところなの~」

「知ってるよ。君はすぐそうやって嘘を吐くからね」

「早く撫で撫でしてっ」

 甘い声を出す二人。
 理解が追い付かず、できることなら嘘であってほしいという思いが心の中で広がっていった。

(うそだわ…………そんなはず……ないわ…………)

 予想が現実になってしまうのがこわくて、私はその男性が誰かを確認することができないでいた。

「んふふ。くすぐったいわ」

 女性が嬉しそうに笑う。
 私は口をぎゅっと閉じ、恐る恐る物の隙間から向こう側を覗いた。

「……!!!」

 予想が現実になるのと同時に、私の目は、彼らの唇が重なっている姿をはっきりと捉えてしまった。
 沸き上がる感情をなんとか寸前で抑える。
 喉の奥がくっとなるような、苦しい感覚に襲われた。

 少しの後、彼らは時間をあけ、一人ずつ部屋を出て行った。

 一人になった途端、抑えていたあらゆる感情が一気に押し寄せ、涙が溢れ出た。

「うっ……うぅっ…………」

 泣きながら、エミリーのことを考えた。
 エミリーの嬉しそうな笑顔を思い浮かべるとどんどん涙が溢れて止まらなかった。

 先ほど目に映った男性は、間違いなくアルザ様だった。

(エミリー……エミリー…………!!)

 部屋にあった手鏡を見ると、私の顔は泣いたことが一目でわかるほど瞼が赤くはれていたので、できるだけ人に見られないよう注意を払って寮に戻った。
 自室に着くなりすぐに着替え、着ていた制服ドレスを早めの洗濯に出した。
 最悪の現場を目撃し、最低の気分を綺麗に洗い流したいという衝動に駆られたのだ。

 大きく深呼吸をした後、机に向かい、これからどうするべきかを考えた。
 着替えたおかげか、時間が経ったおかげか、冷静になることができた。

 すぐにでもエミリーにアルザ様の本性を伝えたかったが、そうすればエミリーは深く傷つくことになる。
 それだけは絶対に避けたい。

(本来なら学園祭以降、エミリーがアルザ様と距離を置き始めるから、その頃に浮気が発覚する可能性が高いのよね。遅い……遅すぎるわ! 学園祭は秋よ? それまでに夏祭りが開催されてしまう!)

(夏祭りでエミリーはアルザ様とファーストキスを……そんなの……そんなの嫌……!!)

(そうはさせない……エミリーの唇を浮気者に奪われるなんて……絶対にあってはならないこと……)

 私は無意識にぎゅっと拳を握っていた。

(必ず……必ず阻止してみせるわ!!!)
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