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23 タカキ
しおりを挟む「そうそう、いい感じ! 次は帽子を両手でおさえる感じで、遠くを見つめてみて!」
綾子は自分のコスプレ姿を撮ってもらうことには興味がないらしい。
ミニスカートを履いているというのにおかまいなしで、地面を這いつくばるような格好でカメラを構えて、必死に凛音と類を撮影している。
類が途中で『スカート大丈夫?』と聞いたが、スパッツを履いているので問題ない、という返答だった。
ちなみにカメラは父親から借りてきたというゴツイ一眼レフだ。
一流のカメラマンよろしく細かくポーズの指示を出してくる綾子は生き生きとしていた。
「……私、カメラマンの才能あるかもしれないわ。今度友達のコスプレの集まりで、カメコしてこようかしら」
撮った写真をその場で確認して、ご満悦の様子だ。
「今度、この写真でフォトブック作って、シュウに渡しましょう!」
「やだよ。ぜったい、やだよ~!」
凛音が叫んだ拍子に帽子から手が離れて、まるでその瞬間を狙いすましたかのように風が吹き抜けてくる。
「あっ」
一瞬にして宙に舞い上がった帽子に手を伸ばしたが、届かない。
しかし、花壇を挟んで向こう側にいた人が、帽子をキャッチしてくれた。
「す、すみません!」
あわてて花壇の花を踏まないように迂回して取りに行けば、その人は帽子を手に持ったまま、呆然と立ち尽くしていた。
「ありがとうございます……!」
なにか様子が変な気がしたが、とりあえず声をかけてみる。
金髪の、綺麗な女の人だった。
白いスカートに青いジャケット、ついでに茶色いブーツ姿には見覚えがあった。
多分、更衣室を出て行く後ろ姿をたまたま見かけたあの人だ。
「…………リンネ?」
「えっ?」
「あれっ、タカキじゃん?」
あとからついてきた綾子の声に、お姉さんの顔が引きつる。
凛音も再度「ええっ!?」となった。
「……人違いです」
あからさまに嫌そうに、視線がそらされる。
そこで気づいたのだが、お姉さんと呼ぶにはあまりにもその人は身長が高く、肩幅があった。
声も、女の人にしては低すぎる。
というか、先日お祭りに行った時に聞いた貴希の声にそっくりだった。
「タカキ!? タカキなの?」
「リンネ……やっぱりリンネだよな!?」
凛音の声を聞いて、貴希が肩を掴んで改めてまじまじと顔を覗き込んでくる。
「……いや、違う。リンネじゃない。でも声が……」
「ほら、こないだ電話で話したじゃん。リンネの生まれ変わりだって子。今の名前は黒崎凛音で、小学一年生の男の子。……お祭りの時、シュウと一緒にいたのを見たことあるんじゃないの?」
「森倉……あいつが連れてた小学生……?」
丁寧な化粧が施された整った顔立ちに、困惑の色がありありと浮かぶ。
そして、ハッと我に返った様子で、白いひらひらのスカートの裾を押さえた。
「待ってくれ、これには事情が……!」
「つーかあんた、なんで女装してんの? そんな趣味あったっけ? オタクキモいって、いっつも私のことバカにしてたよね?」
「ちちちちがう! 趣味なんかじゃない!」
「ふーん……そのわりにはメイクも胸の盛り方も完璧でコスプレ慣れしてるみたいだし、友達の付き合いとかでもなさそうだよね?」
綾子は意地悪く、じろじろと値踏みするような眼差しを貴希に送っている。
これには、以前からの恨みがこめられていそうな気配だ。
「ヴィヴィアンちゃん、好きなの?」
「違う! 別にそんなんじゃ……リンネが成長してたらあんな感じになってたかな、と勝手にオレが思っているだけで……ヴィヴィアンがどうとかじゃ……」
「…………」
綾子は、汚物を見るような目で貴希を見た。
「……ごめん、凛音、類、こいつに話があるから、ちょっとの間、二人だけで適当に遊んでてくれる? ……ほら、あそこのカフェのケーキ美味しいから、食べに行くといいわよ。おねーさんがお小遣いあげるから」
凛音と類に愛想よく笑いかけながら、財布から取り出した数枚の千円札を凛音に押しつけたあと、綾子はおそろしい顔をして貴希をどこかに連行していった。
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