The アフターゲーム 〜色映ゆる恋〜

一 千之助

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 〜相談〜

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「……というわけで、柏木さんに侍ることになったんだけど」

「良いんじゃねぇの? 愉しんでこいよ」

「………………」

 ユートピアにバイトでやってきた雅裕は、きょんっと惚ける毅に眼を据わらせる。

 いや、お前、柏木さんの恋人だろ? 良いのか? ……いや、こいつには嫁がいるんだっけ。そっちが本命? 柏木さん、遊ばれてる? あ…… そういや、セフレとか言ってたっけ? 両者合意? 柏木さんも、それで良いの?

 ぐるぐると雅裕の頭の中を巡る多くの疑問。

 今日は柏木ことブギーマンからの依頼で、雅裕は雌犬として侍ることになっていた。太客相手の接待だ。それぞれ持ち寄った雌犬を鑑賞し、愛でて愉しむ集まり。
 御主人様に突っ込まれるペットは性別問わず雌犬と呼ばれる。連れてきた犬の雌と雄を番わせたり、仲間同士でペットを交換して味見をしたりと、和やかな乱交のようなもの。

 ……俺は嬉しいけどさ。柏木さんに可愛がってもらえるし。でも、これって浮気な気もするんだけどな。こいつ、平気なんだな。

 ユートピアで苛烈な洗礼を受けたにもかかわらず、未だに無垢なドギー。ここに巣食う獄卒どもが、浮気などという可愛らしい感情を抱くわけがない。
 ブギーマンや毅の中の常識と、一般人な雅裕の常識には、マリアナ海溝よりも深い隔たりがある。
 遊びと本気は別物だ。心が伴わない限り、彼等は浮気と思わない。むしろ、一緒に愉しむくらい性に奔放である。以前、雅裕を調教していた時のように。
 ただブギーマンのみは、毅をスポイルして抱き込みたい雄の独占欲全開だ。毅が嬲るのは良いが、毅が嬲られるのは許しがたいらしい。
 指一本触れさせまいと、常に鬣を逆立てている。
 これは円香に対する毅も同じ。どうやら、庇護すべき雌に対してだけ、彼等は獰猛なケダモノに変化するようである。
 
「そうか…… うん、ありがと」

 力なく返事を返し、雅裕は毅の部屋から出ていく。
 
 それを無言で見送る毅が、辛辣な笑みを浮かべたとも知らずに。



「うん、綺麗ですよ、ドギー。きっと君が一番可愛い雌犬です♪」

 満面の笑みなブギーマン。彼の前には、革のベルトで拘束された雅裕がいた。
 全裸に革のハーネスだけな姿。その股間はしっかり貞操帯で固定され、お尻にはふさふさな尻尾が生えている。もちろん、深々と捩じ込まれたバイブに連結した尻尾だ。
 ブギーマンは何度もスイッチを入れて、その尻尾の振られ具合を確認した。バイブの強弱に合わせ、ふりふりと振られる可愛い尻尾。

「ん……っ、んん……っ、ふあっ!!」

 尻尾の揺れが大きくなるにつれ、雅裕の顔が淫らに歪んでゆく。中でごちゅごちゅ暴れる玩具が少年を酷く昂らせていった。

「うん、いつもながら良い感度ですね。……そろそろ、フィストも覚えてみませんか?」

 ねっとり絡みつくブギーマンの言葉。それにゾクリと肌を粟立たせ、雅裕は必死で頭を横に振る。
 そんな少年を仕方なさげに眺め、彼は片手で雅裕の乳首を摘み、その根本にきらびやかなイヤリングをはめた。
 大きな宝石のついたイヤリングは重く、留め金のキツい締め付けに耳まで真っ赤に震わせる仔犬。ちぎれそうなほど引かれる乳首が、堪らなく気持ち悦い。
 はあ……っと蕩けた吐息を零す唇に指を這わせつつ、ブギーマンが優しく囁いた。

「残念ですねぇ。覚えてくれたら、それこそ一日中でも可愛がってさしあげるのに」

 ふふっと淡い笑いをもらし、ブギーマンは雅裕の首輪に鎖をつけた。そして四つん這いにさせ、ゆったりと歩いていく。
 同好の士が集まる、宴の間へと。



「ああ、ようこそ。今日は愉しんでいって下さいね?♪」

 にこやかな笑顔で客を迎えるブギーマン。そこは大きな広間で、頭上にはきらびやかなシャンデリア。立食形式の料理と至る所にある応接セット。
 御仕着せを着たメイドやボーイが行き交って飲み物を配り、各応接セットでは品の良い紳士や淑女が談笑している。
 壁側にはソファーや椅子も並び、寛ぐ人々が愛犬を愛でていた。
 だが、頭上のシャンデリアの位置から見て、この広間の半分が重厚なカーテンに仕切られていると分かる。

 あちらは何なのだろう? と、息を荒らげながら、雅裕は、ぼうっと考えた。

 ホストであるブギーマンの横に侍り、客から可愛がりを受ける雅裕はブンブン振らされる尻尾に涙目だ。
 腹の中で暴れる玩具が、否応なしに少年の悦いところを擦り上げる。

「ああ、可愛いね。うん? すごく気持ち悦さそうだ」

 乳首のイヤリングをぬちぬち捻りながら、客の一人が雅裕の頬を撫でた。顔を真っ赤にさせ、ふんふん鼻を鳴らす仔犬が可愛くて堪らないらしい。
 犬座りで耐える雅裕は、貞操帯に固定されて勃つことを阻まれた一物を、痛いくらい膨らませる。
 それを隙間からちゅくちゅく撫でて、数多の客が雅裕を可愛がった。体内で暴れるバイブの刺激も手伝い、雅裕は何度も軽くイってしまっている。
 貞操帯が鈴口を押さえているため吐精も出来ず、甘い雌イキを繰り返す仔犬。
 頭から耳から複数の手に全身撫で回され、少年は息も絶え絶えに熱く高まっている。
 何人もに囲まれ、嬲られる仔犬に眼を細めて、ブギーマンは御満悦だった。

「やっぱり、わたくしのドギーが一番ですねぇ? 可愛らしいでしょう?♪」

「あれは素人なのでは? 素直に反応し過ぎだよ?」

「新鮮ですね。レースのクイーンも、こうなってはかたなしだな」

 雅裕は雌犬レースの常連だ。常に上位に食い込んでいる。リクエストで玩具をつけられた状態でも負け知らず。
 プジーや尻尾付きバイブを捩じ込まれたままで駆け抜ける彼の勇姿に、けっこうな固定ファンがついていた。その御布施で、身悶えるほど玩具のリクエストを入れられるのも御愛嬌。
 まあ、肩書にブギーマンのペットとあるため、手を出す戯け者もいないのだが。

 一夜の遊びで五本払う固定ファンもおり、雅裕はいつの間にかユートピアのアイドルとなりつあった。

 素人っぽいのに鞭や蝋燭でも絶頂する玄人はだしで淫らな身体。雌犬レースのクイーンが平伏す姿に、なんとも言えぬ劣情が湧き上がると評判である。

 実際、今も、ひんひん身悶えながら、身体を捩らせていた。

「眼福ですなぁ…… 今日は遊ばせてもらえるので?」

 情欲にギラつく客らの眼差しに少しだけ考え込み、ブギーマンは花もかくやな笑みを浮かべる。

「秘蔵の仔犬ですけど…… 挿れるだけなら?」

 おお……っと広間の客達がどよめく。

 そんな密談がされているとも知らず、雅裕はチョコラータ撫でされながら、今にも泣き出しそうな顔で喘いでいた。
 
「よーし、よし、我慢だぞぉ? 可愛いなぁ」

「は……っ、ひぅぅっ! ひっ?」

 犬座りのまま動くなとブギーマンに命じられている雅裕を、客らが思う存分弄くり回す。
 ぬちぬち引っ張られるイヤリングや、耳を食んで舐めたり、複数の指が口に差し込まれ、巧みな動きで舌や唇に絡んでくる。飽きることなく弄り倒され、雅裕は腹の奥が疼きまくって止まらない。
 
「いやになるほど愛らしいね。そんなに泣いて…… 初心だなぁ」  

「仔犬も良いものだ。ブギーマン、まっさらな仔犬はいるかね? 健常で調教されていない子が良いな」

「そうなると…… ちょうど十五歳の仔犬がおりますね。自然飼育で無垢な子が」

 ユートピアでは用途に合わせた奴隷の育成をしている。
 生まれた時から玩具となるよう調教される者もいれば、普通に育てて自我をもたせ、依頼に合わせて育成したりもする。
 我儘にとか、人見知りにとか、お客様のニーズに合わせた子供を育てるのだ。大体はパターンがあるので、定番な子供は常にストックされていた。
 自我や自尊心を持つ者を、いたぶり屈伏させたいという雄の本能。あらゆる客層に応え、満足させる。それがユートピアという伏魔殿。看板に偽りはない。

「良いね。この子のように恥じらう従順な仔犬にしたいな。感度も良さそうだ」

 そこまで聞いて、ブギーマンが軽く天を仰いだ。

「あ~っと…… それは難しいですねぇ。ドギーは特注でして。……毅君の作品なので」

 ざわりと広間の空気がどよめく。

「毅氏か…… なるほど、納得だ」

「良い雌犬の調教師は、大抵、彼ですよね」

「数年先まで予約が埋まっているのだろう? 残念だな」

 羨望の眼差しを一身に受け、誇らしげなブギーマン。
 毅の作品は少ないが、そのひとつを持つのはユートピアでは、とてつもないステータスだ。
 年二人しか調教しない毅。ユートピアのショーと、表向きな会社勤めとで多忙な彼には、それが精一杯。
 
「表向きなど辞めてしまえば良いのに……」

「彼は真っ当でいたいのですよ。完全にこちら側なのにねぇ? 未だ、凡人のつもりでいる毅君が可愛くて」

 ブギーマンの呆れたような台詞で、お客様らから和やかな笑いがもれる。ゲーム時代の凄絶な少年を知る客らにしたら、笑い話にしか思えない。

 愉しそうに談笑する御主人様達。

 おのおの、好きに雌犬を愛でまくり、宴もたけなわになった頃。雌犬達の枷が外され、パーティーに提供された。

「さ、ほどよく熟れたでしょう。皆様、存分に可愛がってやってください」

 ブギーマンが高らかに宣うと、がやがやお客様らが動き出した。

 何が起きたのか分からない雅裕に、複数の手が伸びる。そして、パーティー会場の半分を仕切っていたカーテンが開けられた。

 そこに並ぶのは言語に尽くせぬ淫らな道具。

 まるで毅の調教部屋のごとき見慣れた道具類に、雅裕は身体を凍りつかせた。

「おや? その反応…… 君、これらを知っているね?」

「ほほう。それはそれは。……愉しめそうだ」

 にたりとほくそ笑むお客様達。

 一方その頃、毅はいつも通り、円香の中で至福に浸っている。



「あいつ、今頃、泣いてるんだろうなあ。……ふぅ、気持ち悦い」

 円香に突っ込んで、腰をへこへこさせながら、毅は背筋を震わせて昂る。
 ユートピアの催しに酒池肉林はセットだ。雌犬が、その生贄になるのは当たり前。それも知らず、報告に来た間抜けな姿に、毅は必死で笑いを噛み殺した。

「ふにゃあ…… んぅ…… あいつ…、って?」

 ぶるぶる震えながら快感に身悶える円香を抱きしめ、ことさら甘く毅は微笑む。

「なんでもないよ、さ、楽しもう?」

 ブギーマンがいない分、毅の劣情は円香に向いた。

 二人がイチャコラしている間に始まる、雅裕の拷問。それも、ある意味、愛なのだと、後に仔犬は知る。
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