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始まりの森 7
しおりを挟む「なぜだい? アツシ」
きょんと呆ける男性に、敦はナズナを檻から出してくれるよう御願いする。
「だって、あれじゃあ可哀想だよ」
ナズナは畳一枚ほどの広さの檻に全裸で入れられ、その首に太い首輪がつけられていた。
中には毛布一枚と深めの皿に水があるだけ。
檻の床は一角に鉄棒のはまった穴があり、用足しはそこでするよう言われている。
精神的疲労からだろうか。ナズナは日々無気力で、精を取るとき以外は檻の中で寝そべっているばかりだった。
まるで家畜のような扱いに、敦は酷く憤慨する。
敦自身は男性の細々とした日常を手伝うため檻の外にいた。檻から出ると服を与えらる。敦が全裸で歩き回っていたら、なぜか男性に不具合が起きるらしい。
まあ、敦に一目惚れした彼が劣情を抑えられなくなるだけなのだが。少年は知らない。
それでも欲望に負けた男性に何度も抱き潰された敦。そういったことを少年は深く考えてはいなかった。単なる性欲処理くらいに思っていたのだ。奴隷という立場なのだし、性欲処理につかわれるのも仕方ないと。
ラノベやそういった十八禁物語では定番の扱いだからだ。妙な知識があるゆえに少年は今の現実を従容と受け入れる。
男性側にしたら、これ以上ない高待遇を与えているため、なんの疑問も持たない。この世界の奴隷といわれる生き物の現状を敦達は知らなかった。
だから少年の懇願に男性は首を傾げる。
「うーん。奴隷だよ? 檻に入れられてるだけなんて幸せだと思うけど?」
困ったような顔の男性をポカンと見上げる少年。そこでようよう、金髪の男性は、敦らが異世界の常識しか持っていないことを思い出した。
出逢ったころの二人の様子は極普通の子供。半陰陽とか単体とかの差別もない世界のようで、同等の小綺麗な服装をしていたし、単体に人権がないという説明に驚いてもいた。
御互いの齟齬に思い至った男性は、あまり気乗りしないが、二人を街に連れて行こうと考える。
「そうか。君らは知らないものね。じゃあ少し街に行こう」
そう言うと、男性は敦にも首輪をつけ二人を鎖に繋いで外へ出た。
二人が着ているのはスモックのようにシンプルな上衣一枚。膝上丈だが下着を穿いていないため、すーすーして心許ない。
前に着ていた制服は目立つので男性が処分してしまい、檻から出される時の二人は、いつもこの格好だった。
……何日ぶりの外出だろう。
日光浴や散歩と称して外に出されることはあったが、本格的な外出は初めてな二人。
敦はナズナの手を握り、金髪の男性に鎖を引かれて森の中を歩いていった。
かなり歩いて着いたのは森裾にある馬小屋。ここには男性の馬車と馬が用意されていて、普段は近くの農家に世話を頼んでいるという。
「まあ借りているようなモノかな。前にも言ったけど、この世界で単体な男の私は立場が弱い。金子にモノを言わせて用意してもらっている感じ」
購入したのも所有も彼なのに、普段は世話をしている農家が我が物顔で使っているらしい。そんな横暴がまかり通るほど、単体と呼ばれる片性の者は虐げられているのだ。
それでも自由民であれるだけマシなんだよ? と、金髪の男性はシニカルに笑う。
そして馬車に乗って揺られること二時間以上。やってきたのは高い壁に囲まれた大きな街だった。
入り口あたりに兵士っぽい人物がいて、男性と二言三言交わすと、そのまま入り口を通してくれる。
見た感じ、地球のファンタジーで知るような定番の街だ。
高い壁は石造り。兵士と思しき者は軽鎧を装備して槍を携えている。だが一見した街並みは洗練されており、お洒落なカフェっぽい建物も見えた。敦が思うより文明は進んでいるのかもしれない。
この男性の研究室に並んでたのもガラス製品など多種多様だった。きっと地球とは違う種類の高度な技術があるのだろう。
物珍しげにキョロキョロする二人を微笑ましそうに眺め、男性は鎖を引いた。
「散策しよう。薬の納品もしたいしね」
撓んだ鎖に連れられ、二人は街の中に足を踏み入れる。
そして数歩も歩かぬうちに、突如として敦は現実を理解した。
周囲に歩く鎖持ちな人々。その鎖の先には全裸で四つん這いな奴隷達が繋がれていたからだ。その姿は異様の一言。どの奴隷も尻尾を生やし、女は股間から何かをぶら下げていた。
……なんだろ? 石?
それぞれ胸のあたりにも何かをぶら下げており、思わず凝視した敦は、それが何なのかに気づいて顔を凍りつかせた。
尻尾はお尻に捩じ込まれた玩具。どのような仕組みかしらないが、ぶんぶん揺れている。
そして胸の何かは乳首を貫通する輪のようなモノにつけられた重り。綺羅びやかな装飾が施されていたため気づくのが遅れた敦だが、あんな大きな宝石みたいのを幾つも下げられるなんて、どれほどの苦痛だろうか。
女性が多く見えるが、その股間に下がっているのも同じだ。……敏感な陰核を貫く輪に下げられた重りだった。
ぞっと背筋を凍らせる二人を気の毒そうに眺め、御主人様な男性は簡単に説明する。
「これが本来の奴隷の基本。服を着せて二本足で歩かせる主なんていないよ? ホント」
その言葉のとおりなのだろう。周囲の眼が異質なモノを見るように敦達へ注がれ、ひそめられていた。あからさまな悪意のこもった眼差しの集中砲火を受けて怯え竦む二人を、静かに男性が観察している。
………ショックを受けているみたいだなぁ。彼等の世界とやらは、こういう理不尽がない世界だったんだろうね。羨ましいことだ。
奇異の眼にさらされながら進んだ三人は、大きな通りに出た。立ち並ぶ店や賑やかな人々。地球と変わらない喧騒を前にして、少し安堵したのも束の間、敦達はさらなる現実を直視する。
そこかしこで片手間に奴隷を犯す人々。
談笑しながら口淫させたり、モロ出しで貫いていたり。
座る主のモノをテーブルの下で四つん這いに咥え込み、必死に腰を振る奴隷。主は澄ました顔で食事中。
そんなあり得ない光景が当たり前のように展開されていた。
「ここでは普通の風景なんだけど? 何しろ、用を足す感覚でもよおすからね。けっこう奴隷は誰でも必要なんだよ。まあ公衆便所を使えば事は足りるけどさ」
敦は彼に言われた意味が分からない。
用を足す感覚って………? トイレにいくような感じ? そんな頻度で欲情すんの? もよおすの? え? 絶倫どこの騒ぎでなくない?
そこまで考えた敦は、金髪の男性がときおり貪るように自分を抱くことを思い出した。
日に二~三度だが、毎日行われるソレ。どんだけ盛るんだよ、絶倫にも程があるだろうと心で毒づいていた敦。
ねっとり深々と、いつも少年を貪る男性だが、この現実を目の前にしたら、彼はむしろ淡白な方だったのかもしれない。実際、そうなのだろう。
本当に小用でも足す感じに奴隷らを穿つ街の人々を見たら、金髪の男性の行為も生温く思える。
唯々諾々と従い、悲痛に顔をゆがめる奴隷達も。このような扱いが普通の世界なのだ。彼のいう、『檻に繋がれているだけなんて幸せだよ?』の意味が、ようよう理解出来た敦。
こんな奴らが本気で抱こうと考えたら…… そんじょそこらの生温い性交ではあるまい。それこそ本当に人間を壊してしまうような凄絶な宴が予想される。
己の想像に、思わず敦は全身を総毛立たせた。
それをしたり顔で眺め、金髪の男性は愉しそうに微笑む。
街に連れてくのは可哀想かなと思ったけど。現実を自覚させるのも必要だったかもね。……ホント悦い顔するなぁ、……君。
唖然とする二人を連れて、男性は大きな建物に入っていく。看板はあるものの、地球人の二人には読めない文字だった。
中に入った三人を出迎えてくれたのは一人の美女。彼女は金髪の男性を見た途端、喜色に顔をひらめかせる。
「あらぁ、珍しい。ドゥエルじゃない。今日は買い物?」
受付カウンターらしい所で、男性はカバンから出した薬を並べた。
「いや、買い取り。珍しい素材が手に入ってね」
「やだっ!! これ、エリクサーじゃないのっ?」
エリクサー?
不思議物語定番な薬である。
物語によって効果は様々だが、大抵、破格な恩恵をもたらす希少な薬剤だ。
魔術師とか錬金術師とか言っていたけど、彼は本当は薬剤師か調合師なのだろうか。
未だに男性の詳しい素性を知らない敦は、彼の自宅の大きさや研究室のアレコレを脳裏に浮かべ、何となくそう考えた。
名前も尋ねてみたものの、教えてもらっていない。知らない方が良いと言って。
敦が思案に暮れている間に商談は済んだらしい。
買い取りを終えた男性が鞄を持ち上げると、受付の女が艶めかしくしなだれかかる。いや、この世界は半陰陽ばかりだと聞いた。女性に見えるが彼女も股間に一物を持っているのだろう。
「ねぇ? たまには付き合いなさいよ。こうして薬だって買い取ってあげてるんだから。しかも適正価格よ? 単体にはあり得ない厚遇よ?」
不躾に男性の股間を撫でる女。こういったのも当たり前な世界なのか。往来で盛るような連中だ。性的なモラルは皆無に等しいに違いない。
こんなとこで、おっ始めんのかよぉぉ、勘弁してくれ。
だが、そんな敦の内心を裏切り、金髪の男性は微かに眉をひそめて美女から距離を取った。
この世界は残酷だ。奴隷落ちしていた単体を人間扱いはしない。自由民になった今も、世間の風は彼に冷たい。
それでも……
「悪いな。身体は売らない事にしてるんだ。.....俺の薬がなくて、この店は立ちゆくのかい?」
にっこり微笑む男性に、しなを作っていた半陰陽が黙り込む。実際、腕の良い彼の薬は人気があり、この店を盛り立てていた。
彼も自分の薬に自信がある。ゆえに譲れない所は譲らないようだ。
「んっもうっっ! つれないわねぇっ!」
「すまないな」
痴話喧嘩のような光景を見て、敦は金髪の男性が他とは少し違うことに気づいた。なんとなく感じる程度でしかないが、街の連中を見たあとでは彼に対する認識が改まる。
どちらかと言えば敦達寄りのような。ケダモノじみた街の中で、一人だけ理性を持つ人間に出逢えたような。
彼に対して、そんな不思議な感覚が芽生える敦である。
そして、むくれた女性に軽く挨拶し、三人は広い道に戻った。
しかし顔面蒼白で震える二人。ようやく、この世界の現実を理解したのだ。自分達がいかに幸運だったのかを。
そんな悲壮な顔の二人に、ふくりとほくそ笑むドゥエル。
異世界ティモシーの洗礼は、まだまだ続く。
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