耽溺の森 〜だから僕らは森から出ない〜

一 千之助

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 それからの森 3

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「はい、これ。ストッパーの空気の抜き方は分かるね?」

 ようやく許しを得て、そそくさとトイレに駆け込む敦。それをニマニマと緩んだ顔で見送り、得も言われぬ愛しさでドゥエルは胸が一杯になる。

 これで、また一歩進めた。いずれは私のモノを呑みくだせるくらい躾けたいね。泣くだろうな。嫌がるよね? ふふ、愉しみ過ぎて、またイキり立ちそうだ。

 調教とは虐げるモノではない。如何にして言いなりにさせるか。従わせられるか。恐怖や暴力で支配するのも良いだろう。逆に快楽漬けにするのもありだ。
 だが、その根本は主従の信頼関係。己の身を任せても大丈夫だと思わせること。依存させ、身も心も委ねさせる。主従を逆転の危険があるので溺愛はしない。していたとしても、ソレを相手に見抜かせてはならない。それが調教だ。
 恐怖や暴力では得られない信頼関係。それがなくば、いつ何時、裏切り逃げ出すか分かったモノではない。甘やかすだけも駄目だ。こちらの情を利用し、つけあがる可能性がある。
 そしてドゥエルは、敦がつけあがったとして、それを律する自信が全くない。惚れた弱みというヤツだ。なので徹底的に主従を叩き込み、愛しい獲物を支配する。

 思う存分敦を蹂躙し、堪能出来る立場を維持しなくては。

 あれやこれやと考えていたドゥエルのもとへ疲労困憊な少年がフラフラと戻ってきた。何時間も己を責め苛んだ腹痛から解放され、ようやく安心したのだろう。力ない虚ろな眼のまま御主人様の足元に崩折れる。
 そんな姿も眼福で、ドゥエルの尽きぬ性欲がムクムクと頭を擡げた。

 だが彼も鬼畜ではない。ティモシーの人間は絶倫も裸足で逃げ出す豪倫だが、愛する者を労る心くらいはあった。

 休息を入れないと敦は簡単に壊れそうだしな。かなり脆いみたいだよね、異世界人って。

「偉かったな。上手に俺を満足させられた御褒美だ。アレに餌をやっても良いぞ?」

 アレと呼ばれたモノを見て、敦は安堵の涙を溢れさせた。ほたほたと落ちる純粋な涙。それを舌で舐めとり、ドゥエルは仄かな嫉妬に炙られる。

 でもまあ、これを見たからこそ、敦の脆さにも気づけたし? 結果、オーライか。

 二人が凝視する檻にいるのは一人の少女。

 彼女は少年にとって唯一無二の存在だった。

 少女を守るため、今の少年はドゥエルにすがる他ない。

 彼女は残酷な世界の洗礼を浴びて、その四肢を失った。もはや奴隷にもなれず、ひたすら懇願する少年に絆された男性のお情けで生かされている。彼の不興を買えば彼女の命はない。

 少なくとも敦はそう思っていた。

 敦を気に入ってくれていて、その願いに頷いてくれるドゥエル。代償に激しい睦みを求められるとはいえ、この世界の他の人間に比べたら優しいモノ。そんな深い情を示してくれる彼に少年は感謝しきりである。

 この異世界ティモシーでは半陰陽な人間達のみが人間としての尊厳を持ち、片方しか性を持たない単体は奴隷に落とされる残酷な世界。
 奴隷は家畜以下な存在で、基本は重労働で使い潰される。見目が良くばペットにもなれるが、その扱いは公衆便所。いたるところで掘られ、嬲られ、重労働とは別の意味で阿鼻叫喚な暮らし。
 さらに役にたたなくなったり、主の不興を買えば、文字通り公衆便所にされる。歯を全部抜かれたうえ手脚を切り落とし、専用の台座に固定。そして生理的な用足や手軽な性欲発散に使われるのだ。俗に公衆便所と呼ばれている。
 そんな暮しで長生き出来るわけもなく、毎月のように多くの奴隷が廃棄されていた。地獄も生温い現実世界。

 運の良いことに、敦達はドゥエルという金髪男性に拾われた。男性である彼は奴隷の過去を持ち、優秀な錬金術の腕で自らを買い取り自由民となった経緯がある。
 そのため、少年と少女が辿るだろう悲惨な未来を説明して、ドゥエルの奴隷に登録してくれたのだ。

 そこには彼の打算も加わっていたが。

 この世界にやってきた途端、幼馴染であるナズナに異変が起きたから。少女であるはずの彼女の股間にそびえる立派な一物。それを見たドゥエルによれば、ナズナはシークレットと呼ばれる稀少な人種だったらしい。
 誰かにイかされることで体内に隠された陽根が発現するタイプの半陰陽。このシークレットの精は、あらゆる薬剤の効果を倍増させる秘薬で、錬金術師であるドゥエルには喉から手が出るほど渇望する代物だった。
 そしてドゥエルの憶測でしかないが、たぶんナズナはティモシーの人間。敦達がこちらにやってきたのと同様に、小さい頃地球へと流れていった可能性が高いらしい。

『シークレットは特殊な半陰陽だからね。話を聞いた限り君等の世界にも半陰陽はいるみたいだけど極少数でしょ?こんな造りの人間がいるとは思えないよ』

 その特殊なナズナを元の場所に戻そうとした因果律。その働きに巻き込まれ、敦もティモシーに連れてこられたのかもしれない。ドゥエルは、そう考えたようだ。
 結果、お互いの利害が一致して、敦とナズナは他の人間の手に渡ることなく彼の奴隷になったのである。
 奴隷の刻印を受けた者は、ソレを入れた主に逆らえない。己の意思を無視して、身体が主の命令に従う。その内部すらも自由自在。

「イこうか? ほら」

 何もされていなくとも、その声で囁かれれば、勝手に昂ぶる身体。そして弾ける敦の一物。泣けど喚けど止めようがなく、言われるままその精を吐き出し、中が空っぽになっても脳天を突き抜けていく快感の嵐。
 身体の芯から指先まで、ぞわぞわ内部を撫で回していく悍ましい感触。皮膚の下や骨の周り。臓物の隙間をも這い回る不気味な愉悦に性感帯を掻きむしられて、毎回、敦は絶叫に声を枯らせる。
 末端の神経すら支配する奴隷束縛。これにも抗う術はなく、ナズナの精を搾り取るため、敦は良いようにドゥエルに使われていた。

 ……そう思っていた。自分はナズナのオマケなのだと。

 一見、極悪非道にも見えるドゥエルだが、この世界の他の人間に比べれば随分と優しい。
 彼自身が奴隷だったせいもあるのだろう。他であれば、床に投げ捨てる奴隷の餌。良くても皿から犬食いなソレを、彼はカトラリーつきで渡してくれる。
 テーブルに着かせることはないし、檻の中でだが、それでも街の奴隷に比べれば破格の待遇だった。
 ありがたく受け取りながら、敦は実際に街で目にした奴隷達を思い出す。

 比較的待遇が良いと言われるペットの奴隷でも、男女問わず基本は全裸。四つん這いで首輪をつけ、主に鎖で引かれるのが当たり前。
 気まぐれに殴られ蹴られ、突っ込まれ、生理現象処理用に連れられた専用便器のようなモノだ。
 敦は、ある奴隷の尻たぶに針を刺しているシーンを目撃して顔を凍りつかせた。
 ぷつっと皮膚を貫通し、捩じ込まれる針。それに身悶え、涙目な奴隷。鈴のついた針を何本も挿し込みつつ、ご満悦な主らしい人間。

「ようし、よく声を上げなかったな。御褒美に角砂糖をやるぞ?」

 ぷるぷると痙攣する奴隷の顔が歓喜に色めいた。あれだけの無体を働かれても感謝に咽ぶ生粋の奴隷が恐ろしい。

 角砂糖? そんなもので喜べるのか? 針を刺されても嬉しいのか? 

 奴隷印というモノの本領を知らない敦は、眼の前で展開される光景が信じられなかった。

 そう。少年は知らないのだ。自らの指を折るように命じたり、排泄物を食べさせたり。ナイフを渡されて切腹しろと命じられても抗えない絶対の拘束。それが奴隷印だということを。そして街の人間は正しく邪な目的で奴隷印を使う。
 実際、自ら四肢を切断させるようなショーだって街の歓楽街では行われていた。身体は言うことを利かずとも、本人の意識はある。
 絶叫をあげながら許しを請い、自ら爪を剥がし、指を落とし、断末魔をあげる凄絶な最後。それが通常の奴隷の使われ方だ。日常的な娯楽の一部。性的な使われ方が目立つが、そんなのは当たり前過ぎて鼻白む有り様。

 奴隷の本領は、いかに半陰陽らのために身を粉にして働き、娯楽を提供するかなのだから。

 身体の動きを封じたり、イかせたりすることぐらいにしか奴隷印を使わないドゥエルが特殊なのだ。そういう生易しい使われ方しか知らない敦から見れば、あの惨状は異様だろう。

 さすがにここまでドゥエルは教えない。どうせ森の中に閉じ籠もって暮らすのだ。わざわざ恐怖しか抱けない事象を教える必要はない。
 なので、凍りついたまま信じられない光景を凝視する敦に、ドゥエルはさらりと説明する。

「ああいう戯れは、この世界の人間の嗜みだよ。奴隷を蹂躙するのは当たり前。如何に己の意のままに従わせられるか。試すようにやるのさ。あの奴隷はまだ運が良い。私の時は一物に針を立てられたよ?」

 このくらいの触りは良いだろう。

 ひっと軽く仰け反り、敦は無意識にドゥエルの股間へ視線を動かした。それを見て苦笑するドゥエル。
 なんでも、針を捩じ込むことで、その部位を大きく出来るらしい。損傷した細胞が治癒する際に周りの細胞を巻き込み、大幅な増量が見込めるのだとか。
 同じ理由で、ペットの女奴隷の胸に針を突きたてることも多いという。

「私は男奴隷だったからね。必要なのは一物。立派な大物にするため、執拗にやられたわ」

 この世界の人々は半陰陽が中心だ。男性寄りとか女性寄りとかあるらしいが、総じて一物は慎ましやか。女性である部分を慰めるため、男奴隷の一物は垂涎の的なのだとか。
 完全な男性体の持つ御立派様。大きく太いソレを甚く可愛がられたと、ドゥエルは忌々しげに吐き捨てた。
 彼の一物が巨根である理由の一端を垣間見つつも、敦にはされないだろう虐待に安堵する。もしドゥエルに出逢わなくば、敦もあのような目に遭ったのは間違いない。

 どんな目に遭おうとも、心からドゥエルに感謝しきりな敦。

 そのドゥエルが敦に執着する理由を本人が知るのは、だいぶ先の話だった。
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