5 / 18
皇帝陛下は逃さない 5
しおりを挟む「もう勘弁してくださいっ! 皇帝陛下ぁぁーぁ!!」
「何を?」
ようやく侯爵の申し込みに応じ、謁見の時間を取ったアンドリュー。彼はニヤニヤと嗤い、白銀の狼を足元に侍らせている。
虚ろな眼差しで長い睫毛を伏せる狼。それを見た侯爵の顔が、みるみる憤怒に染まっていった。
めらめら燃え上がるのが眼に見えるほど激昂する侯爵に首を傾げる周りの人々。それに軽く手を振って周りの者を下がらせると、皇帝陛下は侯爵と二人きりになった。
途端に飛び交う火花の応酬。バチバチ爆ぜる剣呑な空気を裂いて、侯爵が口火を切る。
「どういうおつもりかっ! 我が領地に勝手に押し入り、さらには狼を捕縛して帰られるとはっ!」
「はあ? 領地は国が貸しているに過ぎん。いつでも取り上げられるんだぞ? 取り上げてから捕まえるべきだったかな? なあ?」
父親から領地を取り上げるとの言葉に驚き、思わず顔を上げた狼の鼻面をアンドリューは押さる。そして彼は躊躇うこともなく、ちうっとキスをした。
ちゅっ、ちゅっと唇を鳴らし、べろりと狼の牙を舐める。
その淫靡な光景は相手が狼にもかかわらず、侯爵を固まらせた。まるで秘め事のように淡く火照る狼の瞳。それを愛でるように熱く見つめるアンドリュー面持ち。
ちらりと流された視線に心臓を射貫かれ、侯爵は言葉もなく狼狽えた。
「……こういうことだ。オルフェウスが男だろうが女だろうが、ましてや狼であっても俺には関係ない。愛せるし、抱けるし、離さない。分かったか?」
「だ……、抱くっ?!」
ぎょっと眼を剥く侯爵を見て、オルフェウスは慌てて皇帝から離れようとした。……が、時すでに遅く、冷酷な顔で見下ろすアンドリューに首筋を掴まれる。
ギチギチと食込む強靭な指先。それがオルフェウスの身体を床に押し付けて動かせない。魔力の高い者は、それで身体を強化するため、魔獣だろうと素手で縊り殺せるのだ。ただの狼など物の数にも入らなかった。
そして最後の皇帝が微かに身じろぐのを察して、オルフェウスの紅い眼が恐怖に見開く。
「……動くなよ。見せつけてやろうぜ、父親にさ」
そういうとアンドリューが興奮気味にべろりと唇を舐め、臍に届くほど反り返った猛りを力一杯オルフェウスの中に撃ち込んだ。
「ヒャイィィーーーンっっ!!」
どちゅっと音をたてて捩じ込まれた一物に、狼が絶叫する。それを聞きつけ、何事かと飛び込んできた侍従や護衛達。
彼らも、狼を犯す皇帝陛下の姿に、喉を凍りつかせた。
客観的に見ても悍ましい光景。情欲に塗れ、獰猛な眼を血走らせて嗤う皇帝陛下より、はらはら泣き伏す狼の方がまだ人間らしく見える。
「……出ていけ」
ぎらりと眼を剥くアンドリューに怯え、飛び込んできた人々は即座に部屋を出ていく。
信じられない光景に絶望的な顔をする侯爵だけを残して。
そんな侯爵の視界の中で、皇帝は狼を犯し続けた。……ぬちゅ、ずりゅっと濡れた音をたてて、何度も突き上げるアンドリュー。
「悦ぃ…… さあ、もっと乱れてみせろ。いつもみたいに。……なあっ?!」
譫言のように呟き、どちゅ、ばちゅと腰を打ち据えていたアンドリューは、一際大きく深々穿つ。そして恍惚と蕩けた眼差しのまま、彼は狼の中で爆発した。
途端に空気に霧散する白銀の体毛。
そこに現れた全裸の息子を見て、侯爵は息を呑む。
「オ、オルフェウスっ? なぜっ?」
「なぜだろうなぁ? ふはは、捕らえてからずっと、オルフェウスは俺に可愛がられている。毎日、毎日な。狼になろうが、人間に戻ろうが…… これは俺のモノだ。そうだろう? な?」
ぬちぬち動く猛りが与える激痛。それに泣き濡れて、オルフェウスは絶望的な顔を父親に向けた。
「痛……っ! 痛い……ぃ…… も、申し訳あり……っ、ひっ! ありませ……ん、父親ぇぇ……」
力なく揺さぶられるオルフェウスの苦悶に満ちた顔。治癒の加護で慣れることなく、毎日引き裂かれる痛みに泣いているのだと説明され、父侯爵こそが顔面蒼白。
「……そ、そんなつもりでは。森の中は危険だし、人間が獣化して不具合が起きたら大変だと…… そう思い、かけた加護が…… すまん、オルフェウスっ!」
思わず駆け寄って息子の前に跪いた侯爵は、オルフェウスの頭を抱えて震えだした。
そんな痛々しい親子を無視して、愉しそうに腰を打ち付けるアンドリュー。
「あっ! ひいぃーっ!」
苦しさに呻く息子の声に怒髪天をつき、侯爵が吠えた。
「アンタ、鬼かあぁぁーっ! 息子から離れろーっ!!」
ぷんすこ髭を震わせる侯爵と睨み合い、侯爵は獰猛に唇を捲りあげる。
「上等だあ。お前のかけた呪いが息子を苦しめてんだよ、ああ? 俺は別にこのままでも構わないしな。ずっと念入りに可愛がってやるから安心しろ。狼のコイツも可愛いぜぇ? ふはははっ!!」
全裸で首輪と鎖に繋ぎ、一日中弄んで楽しんでやる。慣れることのない無垢な身体を毎日割り開いて、泣き叫ばせ、愉悦に溺れるまで虐め抜いてやると、さも愉しそうに宣う皇帝陛下。
愉快で堪らないといった感じに腹の底から嗤うアンドリューに屈し、とうとう侯爵も泣き出した。
「後生です…… オルフェウスを解放してください……っ! 差し上げます、妃に差し上げますから…… せめて人間らしい暮らしをさせてやってくださいぃぃ……っ!!」
「父上……っ」
床に額づき、必死で懇願する侯爵。その姿に今までの溜飲をおろし、皇帝陛下はほくそ笑む。
……長かったな。全く。面倒な呪いをかけてくれたものだ。
アンドリューは見つけ出した魔女の説明を思い出していた。
『解けないっ? なんでだっ?!』
『呪いの媒体が公爵の血なのよ。同じものを使わないと解呪も出来ないの。公爵の血と魔力と解呪する意思。この三つが揃わなきゃ呪いは解けないわ』
仮にも皇帝だ。捕まえたオルフェウスにかけられた呪いの根源を見つけるのは容易かった。……が、その呪いの条件付が面倒過ぎた。
これを見越して、侯爵は難解な呪いをかけたのだろう。皇帝の力や権力をもってしても覆せない呪いを。
だが、そんなんで怯むアンドリューではない。
これ幸いと引きこもり、愛しいオルフェウスとの蜜月にいそしんだ。侯爵が折れないならそれでも良い。周りから気違いと思われてもかまわない。
最愛と共にあれるなら、形は何でも良かった。狼のままでも、人間に戻っても、死ぬまで愛する自信はある。あるどころが、満ち溢れている。
『溺れるほど構い倒してやるよ。覚悟しろ?』
オルフェウスを手に入れただけで、アンドリューは、ただただ幸せだった。他に何も要らない。皇帝の座だってくれてやる。
泣き叫ぶオルフェウスを抱きしめ、その声だけでも至福な皇帝陛下は、もはや病気。恋の病につける薬はない。
アンドリューが幸せなら幸せなほど苦しむオルフェウス。辛い絶望に打ちひしがれ泣き伏す青年の姿は、アンドリューにとって眼福でしかない。
そんなアンドリューでも、やはり可愛い獲物を睦みに慣らし、佳がり狂わせたいという雄の欲望があった。癒やしの加護に阻まれて、未だ成せない野望。
それを解消するため、侯爵が折れるのを待っていた。まあ、愉しんでもいたので余録に過ぎないが。
ひれ伏す侯爵を見下ろして、アンドリューは鷹揚に頷いた。
こうして彼は一目惚れした青年を手に入れる。
魔女の下を訪い、オルフェウスの呪いを解呪した侯爵親子は、ひしっと抱き合って号泣した。
その微笑ましい姿を横目に、アンドリューが魔女へ何かを耳打ちしていたことにも気づかずに。
後に発表された二人の関係。
愛し合う皇帝陛下とその恋人の処露わしは、大いに国を賑わわせた。
一人、淫猥にほくそ笑むアンドリューの昏い眼差しに気づく者は誰もいない。
62
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜
紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。
ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。
そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる