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四、蓋を開けると。

四、蓋を開けると。②

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昨日、身だしなみを整えていた美鈴ちゃん。
幹太と何を話したのか分からないけど、あの子なら私みたいに幹太と喧嘩ばっかしないよね。

「『っす』ばっか五月蠅いわよ! さっさと仕事仕事!」
「ないんだ……」

咲哉くんの発言に、思いっきり睨みつける。
桔梗ちゃんなら分かるかな?

詮索とかはしたくないけど。
……別に知りたくないから良いけど。


***


今日は予約の和菓子も一件で数も少なく、お店に和菓子を買いに来てくれる方々も平日だからそんなに多く泣く平和だった。
もう少しでお彼岸だから、おじさん達が餡の仕入れや仕込みで忙しくなるけど、それも数日だし。

私もおはぎを予約しとこう。此処のは人気があるし。

「こんにちは」

自動ドアが開閉して、下駄の音を鳴らしながらやって来たのは、美鈴ちゃんだった。

「いらっしゃいませ。何にします?」

「うふふ。おはぎを。母が定期的に食べたくなるみたいで」
珍しく、着物ではない美鈴ちゃんは、春らしい黄色のワンピースに、髪を下ろして雰囲気が大人っぽくなっていた。
薄いピンク色の唇が羨ましい。

「了解です。あ、幹太! 幹太!」

「……うるさい。そんなに大声出さなくても聞こえてる」

と言いつつも、なかなかこっちには出て来ない。

仕方が無いので、おはぎを包みながらおまけにどら焼きを入れておいた。
「ごめんね。あ、どら焼き入れておくから食べてね」


「あ、……すいません」
一瞬、複雑そうな顔をした美鈴ちゃんが、すぐに取り繕って笑顔を貼りつけた。
この子は、このままでも可愛いけれど、これから経験を重ねていくと、もう少し、嘘が上手くなってしまうのだろうか。
というか、私には作り笑いって、もしかして嫌われてたりして。
思わず乾いた笑いが込み上げてきたが、ナイスタイミングで幹太が暖簾を上げた。

「昨日は、悪い」
「いえ。急にお願いした私が悪いので」

もじもじと下を見る美鈴ちゃんの気持ちは私ですら、照れてしまいそうなぐらい分かりやすい。
なのに、幹太の顔は苦虫を噛み潰したような、暗い顔。
怒っているようにも困惑しているようにも思える。


「お姉ちゃんに、今日は幹太さん午前中だけって聞きました。私、駐車場で待っていていいですよね?」

「わ」
思わず声が出てしまい、慌てて口を押さえてけど、ばっちりと二人がこっちを見る。
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