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五、乱入者。
五、乱入者。⑬
しおりを挟む「別に貴方が邪魔だから御見合い写真を押し付けていたわけじゃないわ。ただ、晴哉の時間は止まったままだけど、――貴方は時間を刻んでいるんだもの。貴方を見守っているのは、幹太君だけじゃないからね」
「何でその名前を」
今、一番聞きたくなかった。
家に帰っているはずなのに、今日、私と巴ちゃんが消えた件について尋ねてくるわけもないし、昨日の件を謝る素振りもない。
ただ、私が縁側でぼうっと眺めていても、幹太からは近づいてこないんだもん。
私だって今は、近づきたくないって、関わったらいけないって思ってるもの。
「貴方は小さな頃から、はっきりと形に現れる方を単純に選んでいたわ。シャボン玉より風船、月さまより太陽、熱い視線より真っ直ぐな笑顔」
クスクスと笑う。
「その選択を間違いだとは言わないけれど、でも私たちももう二人の問題だろうから何も言わないつもりだけどね」
――あの子が春月堂を大きくしようと頑張って働いている姿はいじらしいわ。
そう笑う。
分かっていた。
分かっていたのに、この場に踏みとどまる私がいる。
月を見上げて咲き揺れる桔梗。私はこの位置で良い。
この距離がいい。
この位置から動きたくないの。
「私がはっきりすれば、月は元の位置に戻ってくれるかな」
今にも落っこちてきそうな月に、その距離で留まってとお願いすれば。
桔梗が咲き乱れる中、息を吸うのも面倒になった私の上に落ちてくるのを止めてくれるかな。
「どうして、私なんだろう」
「まあまあまあ! ソレ、私も気になるわ。ちょっと聞いてきなさいよ」
ちょっと哀愁を漂よわせて言っていたのに、この義母は。
雰囲気ぶち壊しだ。
「私、器量よしの美女のお見合いを、何回もセッティングしたのよお?」
やはりか。私に勧めるぐらいだもの。幹太にだってするよね。
でも幹太が唯一お見合いした相手は、美麗ちゃんだけ。
しかもお見合いした理由が、いい加減親がうるさいからお得意様の美麗ちゃんとうまくいかなかったらしばらく大人しくなるだろうって。
美麗ちゃんがこっそり私におしえてくれたんだから。
「ようし、私が聞いてきてあげるわ。ちょっと待ってなさいね」
「ぎゃー! 無理だから。本当に無理だから」
本当に行きかねない、いや、既に縁側を降りようとしている義母を両手でしっかり掴みながら、夜は更けていく。
早く、早く、朝になりますように。
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