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六、昔話をしましょうか。

六、昔話をしましょうか。②

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開店と同時に電話や御客もちらほらやって来る。
おはぎの注文は相変わらずだ。私も何個か注文しているけど、当日の御客をさばくのは大変そうだし腹を括ろう。

「今日は、幹太さん、一度も店に顔を出しませんね。桔梗さんと美麗さんに挨拶しましたか」

調理場で、空気も読めない咲哉君が幹太に話しかけているのを聞いて、小突いてやりたくなる。
せっかく来ないんだから、誘導して来ないで。

「別に。用事があるならそっちから来い」

素っ気なく答える幹太に、むかむかと怒りが込み上げてくるのを感じた。
つい、レジの横にあるメモ用紙を、幹太の頭めがけて思い切り投げつけてやった。
スコーンと漫画の様に命中したのは、面白い。

「うわあ、大丈夫っすか。幹太さん!」
「大丈夫よ。考え方も頭も硬いみたいだから、その馬鹿。」

ふんっと鼻息荒くそいつを睨むけど、頑なに此方を振り向こうともせず、痛いはずの頭を擦りもしない。
「私、デパート勤務固定して貰おうかしら」

「ええ! 桔梗さんが居ないと、このお店どうなるんですか」

美麗ちゃんがあわあわと可愛らしい動きをするけれど、ちょっと本気でそれもいいかもと思う。
だって、顔を合わせても沸々と怒りしか浮かんでこないんだもん。

「別に、私なんて話しかけるに値しないみたいだし」
「桔梗さん」

咲哉くんと美麗ちゃんが、私と幹太の間に何かあったのか察してしまったようで、申し訳なく思う。

いつもの喧嘩だと認識してもらえたらその方が楽だけど。


「そんなワケ、あるか、馬鹿」

調理場から幹太がぬっと重たい身体をゆっくり動かし、店側に入って来る。


「もう面倒だから、隠さねーことにする」
「何よ」
「俺の頭の中は――お前の事ばかりだよ、馬鹿か」

……。

暫くの静寂のあと、幹太が私を刺すように睨みつけた。

「今から試作品作るから、調理場に入って来るなよ」

「……は?」

……え?

えええええ?
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