Cafe『アルジャーノン』の、お兄さん☆

篠原愛紀

文字の大きさ
23 / 34
アルジャーノンは誰なのか。

しおりを挟む
そう言った後、切なく笑った。同時に、胸が苦しくなった。勿論、興味本位なんかじゃないけど、みかどは自分なんかが踏み込んだら駄目な気がした。すると、空気を読んだ千景が急に意地悪な笑みを浮かべた。
「好きになるには、面倒なタイプだと思うよ」
キシシシと千景は笑った後に、凄く優しい瞳をした。
「鳴海さんの話はできないけど、私が巨乳コンプレックスだった話ならしてあげるわよ」
「コンプレックスだったの!?」
驚くと、千景は呆れたように溜め息を吐く。
「これだから、困るのよねぇ。巨乳には巨乳なりの、悩みがあるのよぉ?」
そう言いながら、両手で胸を持ち上げたり、左右から寄せたりなかなかの絶景を作り出してくれる。男だったら三本の指に入りそうな鼻血ものの絶景だ
「小4の時にね、既にCカップはあったのよ。でね体育の徒競走で、男子たちにからかわれたの。『牛みたいでウケる~』とか、一字一句覚えてるわよ。今からでも、出会ったらひっぱたいて股間に蹴り入れたいぐらい。でもね。嫌だけど、隠したり恥ずかしがったら、余計に馬鹿にされたり、妬まれたりするの。おばあちゃんにも、自慢はしても卑屈になるなって言われた。だから、堂々と強調したり自慢し始めたら、楽しくて楽しくて、コンプレックスじゃなくて、私の武器になったのよねぇ」
フッと強気に笑う千景は格好良かった。
「凄く前向きで千景さんらしいです」
自分に無い物、持ってて羨ましい、そう素直に言葉が零れた。
「私は、みかども頑張ってると思うよ」
杏仁豆腐のお皿だけ返されたのは少し悲しいけど、千景は嬉しい言葉をくれた。
「人と関わろうって勇気を出して、私を探して尋ねてくれたんでしょ? 視野が広がるのは、怖いけど、嬉しい出会いもあるもんなんだよ」
「そりゃあ、アルジャーノンを訪ねて来た時、死にそうな覇気のない顔で心配したけどさ。でも頑張ってるよ。私、『私なんか~』とか『羨ましい~』とか言って努力しない、うじうじ系は嫌いなんだけどねぇ。純粋であたふたしてるみかどは、可愛いって思ってるよ」
優しい。綺麗で凛とし強く気配りもできるし、千景は本当に良い人だと思う。憧れる存在だ。
「決めた、私、決めたよ。千景さん!」
両手を握り締め、堅く決心した。
「岳リンさんと、デートする!」
綺麗な千景の顔が、間抜けな顔になった。それでも、みかどの決心は変わらない。
「ちょっとね、脅されてたんだけど、逃げないって決めた。ありがとう、千景さん! 千景さんのおかげで勇気出たよ」
「いやいやいや、待って! 話が分からないけど、デートを脅迫されてたの?」
みかどが頷くと、瞬時にデコピンが帰ってきた。
「痛い……」
おでこをすりすりするが、千景は鬼の形相で睨んでいる。
「ばっかー! そーゆーヤツこそ話してよー! 岳理さんとか得体の知れない要注意人物だよ」
「だ、だから、会ってみようかなって。お兄さんに、近づくのに深い訳があるなら聞いてみたいし、聞きたい事もあるし」
「ねぇ、それって、みかどの『お父さん』に関係あるの?」
千景は岳リンの言葉を覚えてた。
「うん。いつまでも、居ない人の影に怯えちゃ駄目だから、頑張ってみる」
と言っても、長年父が正しいと刷り込まれて生きてきて、見放された今、まだ現実を上手く直視できてはいない。けれど、立ち止まっていても仕方が無いのだ。
「あんま、頑張りすぎないでね。いつでも相談のるよ」
「そうだ! 千景さん、アドレス教えてくれる?」
「いいよ。交換した気でいた」
千景に背中を大きく押され、みかどは微笑む。晴れ晴れした空を見上げるために。そう言って、手を引っ張られて立たされた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

【完結】『左遷女官は風花の離宮で自分らしく咲く』 〜田舎育ちのおっとり女官は、氷の貴公子の心を溶かす〜

天音蝶子(あまねちょうこ)
キャラ文芸
宮中の桜が散るころ、梓乃は“帝に媚びた”という濡れ衣を着せられ、都を追われた。 行き先は、誰も訪れぬ〈風花の離宮〉。 けれど梓乃は、静かな時間の中で花を愛で、香を焚き、己の心を見つめなおしていく。 そんなある日、離宮の監察(監視)を命じられた、冷徹な青年・宗雅が現れる。 氷のように無表情な彼に、梓乃はいつも通りの微笑みを向けた。 「茶をお持ちいたしましょう」 それは、春の陽だまりのように柔らかい誘いだった——。 冷たい孤独を抱く男と、誰よりも穏やかに生きる女。 遠ざけられた地で、ふたりの心は少しずつ寄り添いはじめる。 そして、帝をめぐる陰謀の影がふたたび都から伸びてきたとき、 梓乃は自分の選んだ“幸せの形”を見つけることになる——。 香と花が彩る、しっとりとした雅な恋愛譚。 濡れ衣で左遷された女官の、静かで強い再生の物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...