20 / 75
二、どんなにすれ違っても朝食は共に。
二、どんなにすれ違っても朝食は共に。⑤
しおりを挟む
「なに?」
「いや、その……野菜は俺の祖母が送ってくれるから買わなくていいよって伝えたかっただけで。――俺の分まで買ってくれてるなんて思ってもなかったから」
「だから赤くなってるの?」
「ちょっと待って。すげえ熱い」
ネクタイを緩めた彼は、自分の顔を両手でパタパタ仰ぎ、目を閉じて落ち着かせようとしている。
「……私の料理、食べてみたい?」
落ち着かせようとしていたくせに、口を歪ませ観念したように頷く。
「二人分の食材見て、期待しちゃった」
「……」
この人、まるで少年みたい。大人っぽい雰囲気とは裏腹に年相応か、または少し考え方は幼いのか。
無垢なのか馬鹿なのか。
「あのね、私、夜が遅い分朝は出勤が遅いんだよね」
「ああ、それなのに朝ご飯付き合わせて悪いなって」
「だから、朝ご飯も私が作るよ。夜はほぼいないみたいだけど」
朝は比較的ゆっくりだから、疲れて帰ってきた彼よりは私の方が作りやすいんじゃないかな。
単純明快。ただそう思っただけのこと。
「いいの? 好きでもない俺に時間使うのいやじゃない?」
「強引に結婚まで持ち込んだ人が、なんで逆にご飯だけは遠慮するの。私は別にいいよ。料理が好きなら、やりたいときに作ればいいけど」
耳まで真っ赤だった彼は、観念するように深く息を吐く。
「うん。そうだった。華怜さんは昔からそんな人だったよね。うん」
「何」
「じゃあお願いしようかなって」
うん、うんと自分を納得させているのか、落ち着かせているのか、不思議だ。
顔を覗き込むと、逸らされた。
「自分の設定を忘れてるぞ。男性恐怖症なんだろ」
「設定じゃないけど、でも一矢くんは最初から怖くなかった気がする」
「じゃあ、着替えるから見るな」
真っ赤な彼を私は覗き込む、彼はそらす。
くるくると廊下で回っている私たちは滑稽だろう。
「そんなに見たいなら、脱ぐ。下着だけになるぞ!」
「それは嫌だな。イケメンでも脛毛は汚い」
「……あのなあ」
髪を掻き上げながら、ふとまた顔を真っ赤にしていた。
「タコとか明太子よりも真っ赤」
「……華怜さんに容姿を褒められると思っていなかったから」
あまりにも可愛い反応に、ちょっと驚いた。
なので私はとりあえず「さん付けは背中が痒くなるので、呼び捨てでどうぞ」と誤魔化した。
雷のゴロゴロした音が響いていたけど、そこまで怯えずにすんだのは彼のおかげのようで少し悔しい。
次の日の朝、妹さんではなく妹さんの旦那さんが作ったタッパの中身を温め、ご飯を炊いて、特に私が作るものがないことに気づいた。
なのでバナナと適当な野菜と蜂蜜、氷を入れてスムージーを作った。
氷は、触感が好きなので私の独断で入れているだけだけど。
「なんか、明日リベンジする」
「え?」
わざわざネクタイの裾を胸ポケットに入れて、スムージーの写メを撮っていた彼が嬉しそうに私を見た。
「明日も作ってくれるの?」
「流石にスムージーだけじゃ、料理できる人とは言えないし。でも朝からこのおかずは多すぎる。お弁当に詰めようかな」
「お弁当も?」
お弁当は自分のものだけを言ったつもりだったのに、彼の目から期待に満ちたキラキラ光線を受信してしまった。
「お弁当箱を用意したら作ってもいい」
「じゃあ華怜の休みの日に、この家に足りないものを揃えに行こう」
「平日だよ?」
忙しくて帰宅時間が午前様だった人が、平日に休みを入れられるとは思えない。
「調整する。つまらない心配はしなくていい」
全然つまらなくないと思うのだけど、スムージーを連写するような男だ。
きっと何とかしちゃうんじゃないか、そんな予想がする。
「いや、その……野菜は俺の祖母が送ってくれるから買わなくていいよって伝えたかっただけで。――俺の分まで買ってくれてるなんて思ってもなかったから」
「だから赤くなってるの?」
「ちょっと待って。すげえ熱い」
ネクタイを緩めた彼は、自分の顔を両手でパタパタ仰ぎ、目を閉じて落ち着かせようとしている。
「……私の料理、食べてみたい?」
落ち着かせようとしていたくせに、口を歪ませ観念したように頷く。
「二人分の食材見て、期待しちゃった」
「……」
この人、まるで少年みたい。大人っぽい雰囲気とは裏腹に年相応か、または少し考え方は幼いのか。
無垢なのか馬鹿なのか。
「あのね、私、夜が遅い分朝は出勤が遅いんだよね」
「ああ、それなのに朝ご飯付き合わせて悪いなって」
「だから、朝ご飯も私が作るよ。夜はほぼいないみたいだけど」
朝は比較的ゆっくりだから、疲れて帰ってきた彼よりは私の方が作りやすいんじゃないかな。
単純明快。ただそう思っただけのこと。
「いいの? 好きでもない俺に時間使うのいやじゃない?」
「強引に結婚まで持ち込んだ人が、なんで逆にご飯だけは遠慮するの。私は別にいいよ。料理が好きなら、やりたいときに作ればいいけど」
耳まで真っ赤だった彼は、観念するように深く息を吐く。
「うん。そうだった。華怜さんは昔からそんな人だったよね。うん」
「何」
「じゃあお願いしようかなって」
うん、うんと自分を納得させているのか、落ち着かせているのか、不思議だ。
顔を覗き込むと、逸らされた。
「自分の設定を忘れてるぞ。男性恐怖症なんだろ」
「設定じゃないけど、でも一矢くんは最初から怖くなかった気がする」
「じゃあ、着替えるから見るな」
真っ赤な彼を私は覗き込む、彼はそらす。
くるくると廊下で回っている私たちは滑稽だろう。
「そんなに見たいなら、脱ぐ。下着だけになるぞ!」
「それは嫌だな。イケメンでも脛毛は汚い」
「……あのなあ」
髪を掻き上げながら、ふとまた顔を真っ赤にしていた。
「タコとか明太子よりも真っ赤」
「……華怜さんに容姿を褒められると思っていなかったから」
あまりにも可愛い反応に、ちょっと驚いた。
なので私はとりあえず「さん付けは背中が痒くなるので、呼び捨てでどうぞ」と誤魔化した。
雷のゴロゴロした音が響いていたけど、そこまで怯えずにすんだのは彼のおかげのようで少し悔しい。
次の日の朝、妹さんではなく妹さんの旦那さんが作ったタッパの中身を温め、ご飯を炊いて、特に私が作るものがないことに気づいた。
なのでバナナと適当な野菜と蜂蜜、氷を入れてスムージーを作った。
氷は、触感が好きなので私の独断で入れているだけだけど。
「なんか、明日リベンジする」
「え?」
わざわざネクタイの裾を胸ポケットに入れて、スムージーの写メを撮っていた彼が嬉しそうに私を見た。
「明日も作ってくれるの?」
「流石にスムージーだけじゃ、料理できる人とは言えないし。でも朝からこのおかずは多すぎる。お弁当に詰めようかな」
「お弁当も?」
お弁当は自分のものだけを言ったつもりだったのに、彼の目から期待に満ちたキラキラ光線を受信してしまった。
「お弁当箱を用意したら作ってもいい」
「じゃあ華怜の休みの日に、この家に足りないものを揃えに行こう」
「平日だよ?」
忙しくて帰宅時間が午前様だった人が、平日に休みを入れられるとは思えない。
「調整する。つまらない心配はしなくていい」
全然つまらなくないと思うのだけど、スムージーを連写するような男だ。
きっと何とかしちゃうんじゃないか、そんな予想がする。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
175
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる