転生してマッチングアプリでサクラしてたら、魔王に見つかって求婚されました。

篠原愛紀

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弐:最恐最悪装備の魔王VS就活のダボダボスーツ装備勇者

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『勇者ってさあ、なんかそそるんだよねえ』
 カミーユ、ユージン、セイレン、ケイビー四人をいつも子どもと戯れるように少しだけ相手をしてから気絶させると、魔王は俺と二人で話し合う場を設けた。
 俺が魔王と語り合えば、四人の命は保証するという半ば脅しのような話し合いの場。
 それで魔王は別に世界を征服したいわけじゃないと本音を吐露してくれた。
『じゃあなんで魔王なんてしてるんだ。お前の部下が一般人に酷いことをしても胸が痛まないのか』
『退屈だから。あと戦いを挑んでくる奴らを殺さずに適当に相手してたら、勝手に崇拝したり悪い噂ながしたり、悪意の一人歩きみたいな?』
みたいな、じゃない。なんで軽い口調なんだ。
『その中でも、勇者様は一番弱いよねえ』
 クスクス笑いながら馬鹿にする魔王は、綺麗な顔なのに憎らしかった。
『なのに、裏表もなく純粋な勇者様って、そそる。勇者ってさあ、なんかそそるんだよねえ』
 二回もそそるって言った。なんだ、そそるって。色気があるとか格好良いとか、結婚したいとか、サイン欲しいなら宿屋や町中、家に入って宝箱を探しているときに言われ続けてきたけど、男にそそるってなんだ。
『俺に克服してほしい?』
『克服というか、俺は魔王と対等な関係になって、町や人間を襲う行為をやめてくれたらそれでいい』
 すると魔王の唇が綻んだ。
 下卑た笑いに、俺は魔王とわかり合える日が来る気がしなかった。
『じゃあさ、勇者さま』
 高揚し興奮している魔王が、想像していなかった言葉を吐く。

ーーらめえって言って。
ーーあ?
ーー魔王さまあ、らめえ、もうゆるしてえ、お腹、ぱんぱんできついのお、って言って。

何を言っているんだ、この魔王は。
『あと、ちょっとアへ顔してほしい』
 本当に何を言っているんだろう。
 話せば分かる相手だと思っていた。知識もあり、頭も良く、思慮深く、普段無口なのは一言一言が重みがあるからだと思っていた。
『両手でピースして目だけやや上を向いて、さっきの台詞言ってみて』
 なのに現実はなんだ。こいつは、マシュマロより軽く軽いふざけたことを言う。
 いいや、俺を辱めようとしている。
 俺がそんな言葉を言うと言うことは、魔王に降伏したってことだ。
 魔王だけは。
 魔王だけは、話せば分かると思っていただけに残念で仕方が無かった。
『それがお前の答えなんだな、ジャス』
『ふ。二人っきりの時に下の名前を呼ぶって、下半身にクるな』
 二人っきりじゃない。俺とお前の間に仲間が倒れているのが見えないのか。
 このままでは平行線でしかない。
 もし、もし魔王が俺との話し合いでいつか分かってくれたら良いと思っていた。
 でももしわかり合えなかったら、自分の命を投げ打ってでも魔王を封印しようと決めていた。
 人を一人犠牲にして魔王を封印する。
『俺と一緒にこの世界から消えよう、魔王』
 俺は世界を救うためにそういった。
 でも魔王にはその言葉が、来世でも一緒に居ようとか、一緒に死のうっていう愛の言葉に認識されていたと知るのは、現世でだったのだ。

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