国の法律により、ハムスターとお見合いしました。

篠原愛紀

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一、 ルームシェア

一、 ルームシェア ⑥

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「お姫様抱っこして玄関をくぐりたい」

ハムスター花巻さんが、頬を膨らませてもじもじしながら言うので、両手を出した。

「私の手のひらに乗りますか?」

「君の手に乗ったら、複雑骨折だ。ではなく、俺が君をお姫様抱っこ」

どや顔のハムスターが、ちょこんと両手を出してきた。ひまわりの種をそっと乗せてあげたくなるぐらい可愛い。

いやいやいや、私にはハムスターに見えてしまう以上、どうしてもハムスターにお姫様抱っこされる想像ができない。

「なんでお姫様抱っこなんですか?」

「新居の門を新婚がくぐるときに、そんな儀式があるらしい」

「へえ、ロマンチックです」

が、少し考えてから首を傾げる。

「でもここはお見合いセンター内施設です。新居ではないですね」

「まじで!」

カレー作りに夢中で、途中から本当に妻を待つ旦那の気持ちになってしまったらしい。


「あのう、ゆっくり進みませんか? 私、全くハム……花巻さんのこと知らないし」

「今、ハムスターって言おうとした。一慶って呼んで」

「一慶さん、まずはカレーが食べたいです」

この開けたドアの向こうから漂うカレーの匂い。甘口なのかな、スパイスの強い刺激ではなく蜂蜜みたいな匂いが強い。

「もち、もちのろん。ろんろんろん」

「意味が分からないです。手を繋いでみましょうか?」

ハムスターの姿でコロコロ嬉しそうに転がる一慶さん。

私には手のひらの上に乗せたようにしか見えないが、彼にはちゃんと手を繋げているのかな。

恋愛結婚憧憬症候群になると六感全てもお見合い相手の前では麻痺してしまうらしい。

部屋は白の壁、青の家具、黄色の食器とキッチンと、意外とホップで可愛い。

青色のソファの上に、一慶さんと同じ身長のデディベアが座っていて、ウエルカムと書かれたボートを持っている。


教室ぐらいありそうな広いリビングは、一河の豪邸のリビングと一緒。

国が援助する最高の広さがここぐらいなのかな、と邪推してしまう。

自分の部屋には、カードキーが刺さったまま。

当然だけど、まだ一慶さんも私の部屋には入っていないらしい。 、

「女の子ってどんな部屋が好きなのか分からなくて、よければ次の日曜にお皿とか家具とか見に行かない? 好きに改造していいらしい」

もこもこのスリッパの中から顔を出し、スケボーのように廊下を走る一慶さんを見て感心した。いや、多分普通に歩いているんだと思うけど。

可愛い系のアイテムが好きなのかな。エプロンも可愛いし。

「家具とか高いから完備されているものでいいですよ。でも足りないものがあったら確かに買いに行くのは楽しそうですね」

「やったー。恋愛結婚憧憬症候群中のデートは回数がカウントされないらしいから毎日デートできるよ」

「……すみません、私のせいで」
一慶さんはスリッパからキッチンへ壁を使い数回ジャンプすると、カレーの入った鍋の取っ手に飛び乗った。

「ううん。俺はめちゃくちゃ楽しい。昨日とか眠れなくて、試合近いのに師匠に怒られちゃった」

「試合……」

「カレーはあと10分煮込んでちょっと寝かせたら夕食時には玉ねぎが良い感じだと思う。俺、玉ねぎは原型残さない派なんだよね」

「私もですが……」

「その間に映画見ない?」

一慶さんは口から先に生まれてきたように、話したいことがたくさんある子どもみたいに、始終喋りっぱなしで、会話には困らなさそうだ。

「えっと、映画もいいんですが」

「うん。映画好き。地方営業の時、俺、いつも映画ばっかみてる」

「私は『今』の一慶さんについて色々教えてほしいな」

せっかくルームシャアするのだから、恋愛結婚憧憬症候群を治すためにも色々と一慶さんについて教えてほしい。

鍋の中のカレーを見て、小さなハムスターがおたまで混ぜていたので代わりに私が混ぜてみた。

「玉ねぎがトロトロ派なのは私も一緒です。あと甘口と中辛のルーを混ぜるのも好きです」

「あ、俺、……甘口のカレーが小さな頃食べたくて、甘口しか今も食べてない」

「なるほど。じゃあ今度は私が作ったカレーでちょっと辛いカレーもチャレンジしません?」
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