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六、やっとあなたの輪郭に触れる
六、やっとあなたの輪郭に触れる ①
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『吾妻団体プロレス ファン感謝デー SAKURA FESTIVAL』
真っ赤な目を冷まし、温め、冷まし、ようやく開けるようになったころ、森苺先輩が私と一河と孔一くんを車に乗せてやってきた場所。
今日は年に四回ある、吾妻プロレスのファンクラブ専用のプロレスが行われるらしい。
「あのね、プロレスって乱暴なイメージがあるだろうけど、簡単に言うとアングルって言って試合結果やら他のプロレス団体との抗争から全て、脚本があってね。その中で、美しい技、人を湧き立たせるパフォーマンス、そして脚本なんて感じさせない力強さをね」
「要先輩」
初心者のためのプロレス講座を、会場に着くまでにしようとしていた森苺先輩に孔一くんが苦笑して制止した。
私は耳から耳へ流れてしまい、全く話が入ってこなかった。
「まあ今日は同じ吾妻プロレスの中で対戦したあとに技をかけてもらったり、一緒に入場したり、撮影会とかあるから。そこまで白熱した戦いはないと思うけど……流伽ちゃん、大丈夫?」
緊張しているのが森苺先輩にも分かったのか、顔を覗き込まれてしまった。
「その、記憶を思い出してから初めて会うので、緊張しちゃって」
「お見合いも断ったし、本当に真っ新な状態になったし、仕方ないよ」
真っ新な状態。
一河に言われると説得力がある。
会場に着くまで、落ち着かなくて落ち着かなくて何度も彼の所属団体のパンフレットを開いた。
『花巻一慶 紺碧の澄んだ瞳を過剰にアピールしてくるのが、吾妻団体の正統派ベビーフェイス。小学校のころ、虐待により140センチ78キロの肥満体重だったが、現在の変身ぶりは、現代のシンデレラ。決める技は美しく力づよいが喋ると、見た目に反しテンションが高く周りもついていけない』
「なんで一慶さんの自己紹介だけこんなにふざけてるの」
「一慶さんだからじゃん。あの人だからこそ許されるんだよ」
ベビーフェイスってなんだろう。
ヒール役とベビーフェイス役って別れているから悪と正義って意味なのかな。
笹目さんと食事を食べている皆の写真もパンフレットに入っていて、あの家でご飯を食べたことが夢のように思えてきた。
「……スペシャルS席が取れてたんだけどさ。これ、流伽ちゃんにあげるよ」
「え、えええ!? いや、私は関係者席に一河と行くんで」
「ううん。二人のお見合いも解消したし、記憶も思い出したんでしょ。特別な日を特等席で見なよ。私はサイン貰えたし、流伽ちゃんに感謝してるしね」
胸に押し付けられたスペシャルチケットを見て、先輩の顔が滲んでいく。
「ありがとうございます」
「うん。頑張って」
関係者席は一般より少し早く入場できるらしく、別行動になった。
ファン感謝祭用のホールは、体育館より小さくて目の前に触れそうなほど近くにリングが合って緊張した。
それでも私は一慶さんに会いたい。
プロレスを始めた理由は、暴力を犯したら重い罪を背負えるからと言っていた。
でももう一つ。虐待を気づかれないように、吐くほど食べさせられ肥満化した身体を絞るためでもあったと、プロフィールを見て知ってしまった。
私が忘れてしまっていた間も、彼は虐待の痕跡にも負けず前を向いて進んでいたんだ。
早く会いたい。早く。
走り出したいぐらいざわざわした衝動に、手のひらにも汗がにじんでいく。
頑張った今の一慶さんを私はちゃんと見たいんだ。
『それではー! 選手の入場です!』
ざわざわとざわめいていた会場が、選手の入場してくる門の方を向いて爆笑していた。
「……一慶さんだ」
白馬に跨がり、白タイツの男の人が笑われながらも薔薇の花びらを巻いて、華麗に馬を操って歩いてくる。
「今日のために馬に乗る練習したのー!?」
森苺先輩の野次に『そうだよ』と優雅に応え、リングの近くで降りると馬は本当のトレーナーが回収していった。
「王子様になりたかったんだ。好きな人のただ一人の王子様にね」
『吾妻団体プロレス ファン感謝デー SAKURA FESTIVAL』
真っ赤な目を冷まし、温め、冷まし、ようやく開けるようになったころ、森苺先輩が私と一河と孔一くんを車に乗せてやってきた場所。
今日は年に四回ある、吾妻プロレスのファンクラブ専用のプロレスが行われるらしい。
「あのね、プロレスって乱暴なイメージがあるだろうけど、簡単に言うとアングルって言って試合結果やら他のプロレス団体との抗争から全て、脚本があってね。その中で、美しい技、人を湧き立たせるパフォーマンス、そして脚本なんて感じさせない力強さをね」
「要先輩」
初心者のためのプロレス講座を、会場に着くまでにしようとしていた森苺先輩に孔一くんが苦笑して制止した。
私は耳から耳へ流れてしまい、全く話が入ってこなかった。
「まあ今日は同じ吾妻プロレスの中で対戦したあとに技をかけてもらったり、一緒に入場したり、撮影会とかあるから。そこまで白熱した戦いはないと思うけど……流伽ちゃん、大丈夫?」
緊張しているのが森苺先輩にも分かったのか、顔を覗き込まれてしまった。
「その、記憶を思い出してから初めて会うので、緊張しちゃって」
「お見合いも断ったし、本当に真っ新な状態になったし、仕方ないよ」
真っ新な状態。
一河に言われると説得力がある。
会場に着くまで、落ち着かなくて落ち着かなくて何度も彼の所属団体のパンフレットを開いた。
『花巻一慶 紺碧の澄んだ瞳を過剰にアピールしてくるのが、吾妻団体の正統派ベビーフェイス。小学校のころ、虐待により140センチ78キロの肥満体重だったが、現在の変身ぶりは、現代のシンデレラ。決める技は美しく力づよいが喋ると、見た目に反しテンションが高く周りもついていけない』
「なんで一慶さんの自己紹介だけこんなにふざけてるの」
「一慶さんだからじゃん。あの人だからこそ許されるんだよ」
ベビーフェイスってなんだろう。
ヒール役とベビーフェイス役って別れているから悪と正義って意味なのかな。
笹目さんと食事を食べている皆の写真もパンフレットに入っていて、あの家でご飯を食べたことが夢のように思えてきた。
「……スペシャルS席が取れてたんだけどさ。これ、流伽ちゃんにあげるよ」
「え、えええ!? いや、私は関係者席に一河と行くんで」
「ううん。二人のお見合いも解消したし、記憶も思い出したんでしょ。特別な日を特等席で見なよ。私はサイン貰えたし、流伽ちゃんに感謝してるしね」
胸に押し付けられたスペシャルチケットを見て、先輩の顔が滲んでいく。
「ありがとうございます」
「うん。頑張って」
関係者席は一般より少し早く入場できるらしく、別行動になった。
ファン感謝祭用のホールは、体育館より小さくて目の前に触れそうなほど近くにリングが合って緊張した。
それでも私は一慶さんに会いたい。
プロレスを始めた理由は、暴力を犯したら重い罪を背負えるからと言っていた。
でももう一つ。虐待を気づかれないように、吐くほど食べさせられ肥満化した身体を絞るためでもあったと、プロフィールを見て知ってしまった。
私が忘れてしまっていた間も、彼は虐待の痕跡にも負けず前を向いて進んでいたんだ。
早く会いたい。早く。
走り出したいぐらいざわざわした衝動に、手のひらにも汗がにじんでいく。
頑張った今の一慶さんを私はちゃんと見たいんだ。
『それではー! 選手の入場です!』
ざわざわとざわめいていた会場が、選手の入場してくる門の方を向いて爆笑していた。
「……一慶さんだ」
白馬に跨がり、白タイツの男の人が笑われながらも薔薇の花びらを巻いて、華麗に馬を操って歩いてくる。
「今日のために馬に乗る練習したのー!?」
森苺先輩の野次に『そうだよ』と優雅に応え、リングの近くで降りると馬は本当のトレーナーが回収していった。
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