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安心できる場所
01――【おハナ探し】
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――デュラハンという存在を、どれだけ知っているだろうか。
騎士の姿をしていて。
死を予言し。
命を奪いにくる、など。
まあそんな感じの諸説あり、そして首から上。
頭を――小脇に抱えている、というのが特に有名なはなしで。
とにかく、そんな感じの存在が――僕の母、アイル・デュラハンだ。
しかし、僕の母はそんな物騒な感じの人間ではなく、噂の中でその通りなのはせいぜい、首がないというところぐらいで。
性格は温厚。すらっとした身長に、整った目鼻立ち。背まであるブロンドの髪をしており。自分の母親なので、女性として表現するのは難しいが、第三者からみれば――美しい女性らしい。
だが、たった一つの、首なし、という欠点(僕はそうは思わないが)によって、大勢から冷たい視線を向けられてきたそうだ。
そんななか、一人の男性が、そんな彼女に一目ぼれをした。
僕の父親――コシュタ・バワーだ。
平均的な背丈、少し明るめの茶色い髪、いつも穏やかな笑みを浮べているような――人間の男で。
つまり、二人から生まれた僕は、デュラハンと人間の――ハーフということになわけなのだが――。
「ラミィ! ラミィってば!」
幼馴染の――リリエナの声だ。愛称はリリィ。歳は僕と同じで十六。さらっとした肩にかかるくらいの金色の髪に碧眼。慎重は平均的で、つんとした目元が少し怒っているようであり、初めて出会った頃は、少しだけこわいイメージがあったが、彼女と会話をしていくうちに、その印象派すぐに変わったのだった。
そんな彼女に呼ばれ、僕は「リリィ?」と振り向くと、
「ああ……、またか……」
リリィの手に握られた――自分の鼻を目にして、僕は溜息をついた。
デュラハンの血筋によるものだろうか。首がないというのことはないのだが、なぜが鼻が、よく取れるのだ。さらに、地面などに落ちても、衝撃がこないから、そのせいで、落としたことに気づかないことが多かった。
生物は環境によって進化をするというが、僕の鼻はこのときのために、痛覚をなくしたのかもしれない、なんて。冗談はさておき。痛覚はないが、鼻としての機能はしっかりとあり、離れていても嗅覚は感じられるようになっており、ただそれだけといえばそれだけの、奇妙な特徴を、僕は持っていたのだった。
「ありがとう、……リリィ?」
僕はお礼の言葉を口にしながら、首を傾げる。
自分の鼻を受け取ろうと、手を伸ばしたのだが、リリィは僕の鼻を持ったまま、手を引いたのだ。
「リリィ……?」
「預かって、あげようか?」
「預かる?」
リリィの唐突な問いに、僕は疑問の表情を浮べる。
それを受け、リリィはやれやれといったふうに肩をすくめると、
「だって。ラミィってば、すぐに鼻を落とすじゃない。大事にしないと、またなくしちゃうよ?」
「あ、ああ……」
リリィに言われて、以前そのようなことがあったことを思い出す。
まあ、無くしたといっても、自分の身体の感覚を辿れば探す事はできる。だがそれは、ぼんやりとした感覚で、曖昧なものだ。以前なくしたときは、じっと意識を集中させて、感覚を辿って探したのだが、結局数時間見つからなかった、なんてこともあった。そのぐらい、ぼやけたものなのである。
と、まあ。なくしたら、確かに大変で、もういっそのこと、自分の部屋に鼻を置いてきたまま出かけてしまおうかと思ったこともあったが、そういうわけにはいかないだろう。その理由は単純で、
「けど、この顔で出歩くわけにはいかないよ……」
「うん、それはわかるけど。今日は外に出る予定はないでしょ?」
「それは……、そうだけど……」
今は家の廊下だ。先ほど家を訪ねてきたリリィを出迎えて、自分の部屋に向かおうとしているどころで、赤い絨毯の先には誰もいない。いたどころで、メイドや執事はそういった事情にたいして理解のあるものたちだ。今の自分の顔を見せて、困るような者はいないのだった。とはいえ、いきなりなんだというのだろうか。
疑問を覚える僕の視線の先で、リリィはふふ、とおかしそうに笑みを浮べると、
「じゃーん」
両の手のひらを僕に見せる。
いつのまに。鼻をどこにやったんだろう。
僕の目を盗んだすきに、衣服のポケットにでも隠したんだろうが――と、そこで。僕は彼女の着ている白いワンピースを見て、そこにポケットがないことに気づく。
「あ、あれ……? いったいどこに……」
「不思議でしょー?」
「確かに……。種がさっぱり……。ん? あれ? なんか……、甘い匂いが――ぎゃふん!」
――いてぇ!
リリィに突然突き飛ばされ、僕は身体を壁に打ち付ける。血筋のせいか、頑丈な身体に育ったことが幸いし、たいした傷みはないが、
「リ、リリィ! いったい何を……」
「あんたがへんなことを言うからでしょ!」
「リリィ!」
そう叫び、突然走り出してしまったリリィ。その背中へ僕は慌てて声をかけるが、彼女は長い廊下の先を曲がり、そのまま、戻ってくる事はなった。
僕は溜息をつきながら立ち上がると、
「なんで怒られてんの。僕」
困惑しながら声をこぼし、僕はリリィのあとを追った。
+ + + + + +
「さっきは……、ごめんね」
そう口にしたのはリリィの方で、僕はあっけないほどの和解に、さらに困惑する。屋敷の中を探し回ってようやく見つけたところ、唐突に彼女はそういったのだ。
「いや……、別に怒ってるわけじゃないんだけど……。まあさっきのことは水に流して、とにかく部屋に行こう」
「うん、そうだね……」
部屋のほうへ向かう僕に、リリィはそう答えてついてくる。
そして、僕は横並びに歩くリリィに「ん」手を差し出す。そろそろ鼻を返して欲しい、とそのニュアンスはすぐに伝わると思ったのだが、
「――ちょ! リリィ!?」
唐突に手をつないできたリリィに僕は驚きの声をあげる。
そんな僕の反応を見て、リリィはおかしそうに笑うと、
「そんなに声をあげて、どうしたの?」
「どうもなにも……」
言いながら、手を握ったまま誰もいない廊下を自室の方へと歩いていく。
羞恥心がすごいのだが、手をほどくのも、なんとなく意識しすぎなような気がして、良くないような気がするのだ。そこで、僕はなんてことない、と。気を落ち着かせながら、
「手じゃなくて、鼻を……」
「鼻って、こう?」
言いながらリリィは僕の手を持ち上げ、自分の鼻を僕の手の甲に、ちょんとつける。僕が言いたいことを理解したうえで、からかっているのだ。その様子に、僕があきれ顔でため息をつくと、「冗談だって」と、リリィは持ち上げた手をさげ、
「けど。残念ながら、鼻はないよ」
「へ? ないって……」
リリィの言っている意味が理解できず、僕が首をかしげる。
するとリリィはぴんと指を立て、
「だって――隠してきたから」
そんなリリィの言葉から、唐突な僕の鼻探しは始まった――。
+ + + + + +
「いったい、どこにかくしたのさ……?」
僕は屋敷の中庭を歩きながら辺りを見回す。先ほどはぐれたリリィを見つけた場所から推測して、ここに来てもおかしくないと、判断したのだ。
嗅覚は――先ほどから相変わらず甘いような匂いが、かすかに感じるが、なんのにおいなのか、さっぱりわからない。温度の感覚はなく、ただ甘いにおいがするだけなのだ。何かの花の花の匂いだろうか。そんな風に思い、匂いが変わっていないことを不思議に思いながら、なんとなく、庭を歩いていく。
「隠した場所を言っちゃったら、ゲームにならないでしょ」
「まあ、そうだけど……。まさか、鼻をおもちゃにされるなんて思ってもみなかったよ」
「……おこった?」
「いや、全然」
嘘ではない。鼻のない状態の僕に平然と対面でてきてしまうリリィにたいして、僕はむしろ安堵のような感情を抱いているぐらいだ。
彼女は初めて出会ったころからそうだった。
鼻がとれるという、僕の体質を馬鹿にしたりすることなく、接してくれた。そんなリリィに僕はずっと感謝を抱いていたのだった。
「で、みつけたら。何か、賞品とかもらえたりするの?」
「お、察しがいいね」
「つまり……?」
「それは見つけてからのお楽しみだよ」
そう言って笑みを浮べるリリィ。
僕は自分の鼻を捜しながら、適当に「ふーん」と答える。
にしても、先ほどから近くにあるような気がするのだが、この感覚は本当に当てにならない。まあ、離れた鼻に感覚がありすぎても、色々と困るだろう。こういうとき、痛覚があったらと、色々と嫌なイメージが浮かぶ。ないからこそ、ふと鼻がなくてもいいんじゃないかと、冗談半分に思ってしまうぐらいだ。加えて、鼻が水中に潜ったとしても、身体へのダメージはいっさいない。鼻の根元から呼吸をするような感覚になり、それで終わりだ。
本当に、飾り物のようだと思う。
だが、外出の時は、それがないと困る。そして、とれやすいから、常に鼻に気を使う必要があり、鼻に気を使わなくてもいい空間というのは、僕にとっては居心地のいい場所なのであった。
というわけで、怒るなんてことは特になく、僕はわりと呑気に、自分の鼻を探していたのだが、
「だめだ、全然見つから……」
~ ――――。
僕は言いながら、言葉を失う。
じんわりと嗅覚に、とある感覚があったからだ。
――臭い。
そう思い、ニオイを認識した瞬間、
「――っ!?!?」
尋常でない悪臭を僕は鼻に感じた。
卵系のどろっとした腐った臭い。それが脳を直撃するように走り、その衝撃に僕はめまいを覚えた。
「へっ!? どうかしたの!?」
地面に膝をつき苦しがる僕のそばに駆け寄るリリィ。
そんな彼女の反応に、僕は困惑する。
ニオイを感じた瞬間、あるイメージが繋がり、
「リ、リリィ……。僕の鼻……」
「ん? 鼻が、どうかした?」
首をかしげるリリィ。
そんな彼女にたいして、僕はどう返したら良いのかわからないまま口を開く。
「いや……、まさか……」
と、僕が声を漏らした瞬間、
~ ――――。
それは再びきた。
「――!?!?」
まるで――オナラのような臭いだ。
しかし、その濃度は半端ではなく、本当にオナラなのか。疑問に思うほどで、そのあまりのニオイに、僕の思考はさらに鈍っていく。そして、声を返す余裕をなくし、ひたすら鼻を抑え続ける僕の腕を持ち上げ、リリィは肩を貸すと、
「なにが起きたのか、さっぱりだけど。とにかく、いったん部屋で休もう……」
「ぁ――」
~ ふしゅううぅぅ
僕が答えようとした瞬間、そんな音が、リリィのほうからなった――気がした。
そして、嗅覚に――悪臭がくる。
「――――」
どう見ても。
どう聞いても。
“その犯人”は――と、思考中の脳に、ガツン。とくるような濃厚な悪臭が届き、僕の意識は、ふわりとゆがんだ。そして、余裕をさらになくす僕に、
~ すっ――かああぁぁ……
何がなんだかわからない僕の耳に、そんな音が届いたような――気がした。かと思えば、鼻に――とてつもない悪臭の感覚がくる。
そして――。
リリィに肩を貸してもらい、ふわふわとした足取りで歩いていき、ぼやけた意識が落ちつくころには、僕は自分の部屋にいたのだった――。
騎士の姿をしていて。
死を予言し。
命を奪いにくる、など。
まあそんな感じの諸説あり、そして首から上。
頭を――小脇に抱えている、というのが特に有名なはなしで。
とにかく、そんな感じの存在が――僕の母、アイル・デュラハンだ。
しかし、僕の母はそんな物騒な感じの人間ではなく、噂の中でその通りなのはせいぜい、首がないというところぐらいで。
性格は温厚。すらっとした身長に、整った目鼻立ち。背まであるブロンドの髪をしており。自分の母親なので、女性として表現するのは難しいが、第三者からみれば――美しい女性らしい。
だが、たった一つの、首なし、という欠点(僕はそうは思わないが)によって、大勢から冷たい視線を向けられてきたそうだ。
そんななか、一人の男性が、そんな彼女に一目ぼれをした。
僕の父親――コシュタ・バワーだ。
平均的な背丈、少し明るめの茶色い髪、いつも穏やかな笑みを浮べているような――人間の男で。
つまり、二人から生まれた僕は、デュラハンと人間の――ハーフということになわけなのだが――。
「ラミィ! ラミィってば!」
幼馴染の――リリエナの声だ。愛称はリリィ。歳は僕と同じで十六。さらっとした肩にかかるくらいの金色の髪に碧眼。慎重は平均的で、つんとした目元が少し怒っているようであり、初めて出会った頃は、少しだけこわいイメージがあったが、彼女と会話をしていくうちに、その印象派すぐに変わったのだった。
そんな彼女に呼ばれ、僕は「リリィ?」と振り向くと、
「ああ……、またか……」
リリィの手に握られた――自分の鼻を目にして、僕は溜息をついた。
デュラハンの血筋によるものだろうか。首がないというのことはないのだが、なぜが鼻が、よく取れるのだ。さらに、地面などに落ちても、衝撃がこないから、そのせいで、落としたことに気づかないことが多かった。
生物は環境によって進化をするというが、僕の鼻はこのときのために、痛覚をなくしたのかもしれない、なんて。冗談はさておき。痛覚はないが、鼻としての機能はしっかりとあり、離れていても嗅覚は感じられるようになっており、ただそれだけといえばそれだけの、奇妙な特徴を、僕は持っていたのだった。
「ありがとう、……リリィ?」
僕はお礼の言葉を口にしながら、首を傾げる。
自分の鼻を受け取ろうと、手を伸ばしたのだが、リリィは僕の鼻を持ったまま、手を引いたのだ。
「リリィ……?」
「預かって、あげようか?」
「預かる?」
リリィの唐突な問いに、僕は疑問の表情を浮べる。
それを受け、リリィはやれやれといったふうに肩をすくめると、
「だって。ラミィってば、すぐに鼻を落とすじゃない。大事にしないと、またなくしちゃうよ?」
「あ、ああ……」
リリィに言われて、以前そのようなことがあったことを思い出す。
まあ、無くしたといっても、自分の身体の感覚を辿れば探す事はできる。だがそれは、ぼんやりとした感覚で、曖昧なものだ。以前なくしたときは、じっと意識を集中させて、感覚を辿って探したのだが、結局数時間見つからなかった、なんてこともあった。そのぐらい、ぼやけたものなのである。
と、まあ。なくしたら、確かに大変で、もういっそのこと、自分の部屋に鼻を置いてきたまま出かけてしまおうかと思ったこともあったが、そういうわけにはいかないだろう。その理由は単純で、
「けど、この顔で出歩くわけにはいかないよ……」
「うん、それはわかるけど。今日は外に出る予定はないでしょ?」
「それは……、そうだけど……」
今は家の廊下だ。先ほど家を訪ねてきたリリィを出迎えて、自分の部屋に向かおうとしているどころで、赤い絨毯の先には誰もいない。いたどころで、メイドや執事はそういった事情にたいして理解のあるものたちだ。今の自分の顔を見せて、困るような者はいないのだった。とはいえ、いきなりなんだというのだろうか。
疑問を覚える僕の視線の先で、リリィはふふ、とおかしそうに笑みを浮べると、
「じゃーん」
両の手のひらを僕に見せる。
いつのまに。鼻をどこにやったんだろう。
僕の目を盗んだすきに、衣服のポケットにでも隠したんだろうが――と、そこで。僕は彼女の着ている白いワンピースを見て、そこにポケットがないことに気づく。
「あ、あれ……? いったいどこに……」
「不思議でしょー?」
「確かに……。種がさっぱり……。ん? あれ? なんか……、甘い匂いが――ぎゃふん!」
――いてぇ!
リリィに突然突き飛ばされ、僕は身体を壁に打ち付ける。血筋のせいか、頑丈な身体に育ったことが幸いし、たいした傷みはないが、
「リ、リリィ! いったい何を……」
「あんたがへんなことを言うからでしょ!」
「リリィ!」
そう叫び、突然走り出してしまったリリィ。その背中へ僕は慌てて声をかけるが、彼女は長い廊下の先を曲がり、そのまま、戻ってくる事はなった。
僕は溜息をつきながら立ち上がると、
「なんで怒られてんの。僕」
困惑しながら声をこぼし、僕はリリィのあとを追った。
+ + + + + +
「さっきは……、ごめんね」
そう口にしたのはリリィの方で、僕はあっけないほどの和解に、さらに困惑する。屋敷の中を探し回ってようやく見つけたところ、唐突に彼女はそういったのだ。
「いや……、別に怒ってるわけじゃないんだけど……。まあさっきのことは水に流して、とにかく部屋に行こう」
「うん、そうだね……」
部屋のほうへ向かう僕に、リリィはそう答えてついてくる。
そして、僕は横並びに歩くリリィに「ん」手を差し出す。そろそろ鼻を返して欲しい、とそのニュアンスはすぐに伝わると思ったのだが、
「――ちょ! リリィ!?」
唐突に手をつないできたリリィに僕は驚きの声をあげる。
そんな僕の反応を見て、リリィはおかしそうに笑うと、
「そんなに声をあげて、どうしたの?」
「どうもなにも……」
言いながら、手を握ったまま誰もいない廊下を自室の方へと歩いていく。
羞恥心がすごいのだが、手をほどくのも、なんとなく意識しすぎなような気がして、良くないような気がするのだ。そこで、僕はなんてことない、と。気を落ち着かせながら、
「手じゃなくて、鼻を……」
「鼻って、こう?」
言いながらリリィは僕の手を持ち上げ、自分の鼻を僕の手の甲に、ちょんとつける。僕が言いたいことを理解したうえで、からかっているのだ。その様子に、僕があきれ顔でため息をつくと、「冗談だって」と、リリィは持ち上げた手をさげ、
「けど。残念ながら、鼻はないよ」
「へ? ないって……」
リリィの言っている意味が理解できず、僕が首をかしげる。
するとリリィはぴんと指を立て、
「だって――隠してきたから」
そんなリリィの言葉から、唐突な僕の鼻探しは始まった――。
+ + + + + +
「いったい、どこにかくしたのさ……?」
僕は屋敷の中庭を歩きながら辺りを見回す。先ほどはぐれたリリィを見つけた場所から推測して、ここに来てもおかしくないと、判断したのだ。
嗅覚は――先ほどから相変わらず甘いような匂いが、かすかに感じるが、なんのにおいなのか、さっぱりわからない。温度の感覚はなく、ただ甘いにおいがするだけなのだ。何かの花の花の匂いだろうか。そんな風に思い、匂いが変わっていないことを不思議に思いながら、なんとなく、庭を歩いていく。
「隠した場所を言っちゃったら、ゲームにならないでしょ」
「まあ、そうだけど……。まさか、鼻をおもちゃにされるなんて思ってもみなかったよ」
「……おこった?」
「いや、全然」
嘘ではない。鼻のない状態の僕に平然と対面でてきてしまうリリィにたいして、僕はむしろ安堵のような感情を抱いているぐらいだ。
彼女は初めて出会ったころからそうだった。
鼻がとれるという、僕の体質を馬鹿にしたりすることなく、接してくれた。そんなリリィに僕はずっと感謝を抱いていたのだった。
「で、みつけたら。何か、賞品とかもらえたりするの?」
「お、察しがいいね」
「つまり……?」
「それは見つけてからのお楽しみだよ」
そう言って笑みを浮べるリリィ。
僕は自分の鼻を捜しながら、適当に「ふーん」と答える。
にしても、先ほどから近くにあるような気がするのだが、この感覚は本当に当てにならない。まあ、離れた鼻に感覚がありすぎても、色々と困るだろう。こういうとき、痛覚があったらと、色々と嫌なイメージが浮かぶ。ないからこそ、ふと鼻がなくてもいいんじゃないかと、冗談半分に思ってしまうぐらいだ。加えて、鼻が水中に潜ったとしても、身体へのダメージはいっさいない。鼻の根元から呼吸をするような感覚になり、それで終わりだ。
本当に、飾り物のようだと思う。
だが、外出の時は、それがないと困る。そして、とれやすいから、常に鼻に気を使う必要があり、鼻に気を使わなくてもいい空間というのは、僕にとっては居心地のいい場所なのであった。
というわけで、怒るなんてことは特になく、僕はわりと呑気に、自分の鼻を探していたのだが、
「だめだ、全然見つから……」
~ ――――。
僕は言いながら、言葉を失う。
じんわりと嗅覚に、とある感覚があったからだ。
――臭い。
そう思い、ニオイを認識した瞬間、
「――っ!?!?」
尋常でない悪臭を僕は鼻に感じた。
卵系のどろっとした腐った臭い。それが脳を直撃するように走り、その衝撃に僕はめまいを覚えた。
「へっ!? どうかしたの!?」
地面に膝をつき苦しがる僕のそばに駆け寄るリリィ。
そんな彼女の反応に、僕は困惑する。
ニオイを感じた瞬間、あるイメージが繋がり、
「リ、リリィ……。僕の鼻……」
「ん? 鼻が、どうかした?」
首をかしげるリリィ。
そんな彼女にたいして、僕はどう返したら良いのかわからないまま口を開く。
「いや……、まさか……」
と、僕が声を漏らした瞬間、
~ ――――。
それは再びきた。
「――!?!?」
まるで――オナラのような臭いだ。
しかし、その濃度は半端ではなく、本当にオナラなのか。疑問に思うほどで、そのあまりのニオイに、僕の思考はさらに鈍っていく。そして、声を返す余裕をなくし、ひたすら鼻を抑え続ける僕の腕を持ち上げ、リリィは肩を貸すと、
「なにが起きたのか、さっぱりだけど。とにかく、いったん部屋で休もう……」
「ぁ――」
~ ふしゅううぅぅ
僕が答えようとした瞬間、そんな音が、リリィのほうからなった――気がした。
そして、嗅覚に――悪臭がくる。
「――――」
どう見ても。
どう聞いても。
“その犯人”は――と、思考中の脳に、ガツン。とくるような濃厚な悪臭が届き、僕の意識は、ふわりとゆがんだ。そして、余裕をさらになくす僕に、
~ すっ――かああぁぁ……
何がなんだかわからない僕の耳に、そんな音が届いたような――気がした。かと思えば、鼻に――とてつもない悪臭の感覚がくる。
そして――。
リリィに肩を貸してもらい、ふわふわとした足取りで歩いていき、ぼやけた意識が落ちつくころには、僕は自分の部屋にいたのだった――。
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