鎖の少年

MEIRO

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「ほ……本当に、良いのでしょうか?」

 静謐な空間に、少女の声が響く。
 肩ほどまでのブラウンの髪に、整った目鼻立ち。
 服装は、白のブラウスに落ち着いた柄のフレアスカートといった、清潔感のある格好をしている。

「はい。好きなだけ、あげてください」

 そう答えたのは、腰ほどまで真っ直ぐ伸びた黒い髪と、赤い瞳が特徴的な少女だった。
 人形のような、若干の幼さの残る容姿をしており、黒を基調とした、ふんわりとしたドレスが似合っている。
 その少女の言葉に、ブラウンの髪をした少女は納得していない様子で眉根を寄せた。

「そうは言っても、にわかには信じられません。そんな……」

「――プリメラ様。一つお聞きしたいのですが、この場所の事はどのように知ったのでしょうか?」

「え? ……あ、はい。同じ趣味の……その、お友達に教えていただきました」

「でしたら、説明は不要ですよね?」

「はい。とりあえず、一通りの説明は聞いています。それから、その子に言われたとおり、余計な他言もしていません。まあ、口止めがなくてもこのような趣味、誰にも口にしたりはできないですけど……。ただ……、少し緊張してきちゃいまして……」

 ブラウンの髪をした少女――プリメラはそう言いながら、部屋の奥へと視線を向ける。
 その視線の先には、綺麗なブロンドの髪をした少年が、天井から垂れ下がる鎖に全身を拘束された状態で、地面に座り込んでいた。
 長くも短くもないサラサラな髪に、大人しそうな容姿。
 着ているシャツとボトムスには一切のしわがなく、身なりが整えられており、捕らえられているというには些か違和感のある格好をしている。
 その少年は特に言葉を発することなく、プリメラを静かに見つめていた。
 プリメラは少年の視線から目を逸らすと、黒髪の少女へと視線を戻す。
 不安そうなプリメラに、黒髪の少女は穏やかな笑みを浮かべて答えた。

「初めてですから、戸惑うのは無理もないと思います。ですが、そんなに不安になる必要はありません。ね、クラウン」

「はい、できる限りの欲求に答えたいと思っています。なので、僕にできることでしたら、なんなりとお申し付けください」

 鎖に繋がれている少年――クラウンは頷くと、プリメラの目を真っ直ぐに見る。
 そのやり取りを呆然と見ていたプリメラは、安堵するように深く息を吐いた。

「実話……だったんですね。このような場所が、本当にあったなんて……」

「はい。なのでここでは、普段抑え付けている気持ちを、存分にさらけ出していってください」

「はあ……。ちなみに、彼はなぜ鎖に繋がれているのですか?」

「そのほうが、気分が乗りませんか?」

「いえ。……特には」

 当たり前のように尋ねてくる黒髪の少女の言葉に、プリメラは困惑の表情を浮かべる。

「まあ、趣味は人それぞれですからね。けど、この鎖は色々と事情があって、外すわけにはいかないのです」

「事情……ですか」

「はい、色々とあるのです。まあ、内容にはそこまで影響しないと思いますので、あまり気にしないでください」

「はあ……」

 プリメラはぼんやりと返事をし、黙り込んだ。
 少年の体に、怪我や、酷い扱いを受けたような形跡がないのを見て、いわゆる“雰囲気作り”の一環なのだと納得したのである。
 プリメラが考え事をしていると、黒髪の少女はおもむろに口を開いた。

「では、私はそろそろ失礼しますね」

「……えっ?」

 プリメラは首を傾げる。
 そんなプリメラを置いてけぼりに、黒髪の少女は部屋の出入り口へと歩いていってしまう。

「他に疑問などがあれば、あとはクラウンに聞いてください」

「は、はあ……」

 プリメラは戸惑いの表情で、クラウンを見た。
 まるで作り物のようだと、プリメラはその少年を見て思う。
 呼吸の動作を目にして、ようやくそこに生命を感じる。
 自分が何の感情を抱いているのかも分からないまま、プリメラはぼんやりと、クラウンを見ていた。
 と、そこで入り口の方から、鉄の扉の開く音が鳴る。
 プリメラがそちらに視線を移すと、

「それでは、ごゆっくり」

 黒髪の少女は扉の外で小さくお辞儀をすると、がちゃりと重たい音を鳴らし、扉を閉めて行ってしまった。
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