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第一章

お仕置きは平等に

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 * 『カチッ』

「ロゼリア」

「なによ」

 唐突に立ち上がったシルクハットの少年に、ロゼリアは朱色の瞳をまっすぐに向ける。

「だって、“彼”の自業自得じゃない。それに、わたしには関係ないわ。だめと言われたって……」

 にらみつける――と言うには、彼女の瞳の中には、怯えのような感情がにじんでおり、鋭さはない。そしてなぜか、頬がほんのりと赤みを帯びていた。
 シルクハットの少年は、彼女の背後まで歩いていくと、

「君のそういうところ、嫌いじゃないんだけどね」

「――っ!?」

 少年の腕に肩を抱き込まれ、ロゼリアは驚愕した様子で目を見開いた。

「けど、ちょっとやりすぎだよ」

 シルクハットの少年はそう言って、右手側の手袋をロゼリアの目の前で外し、その手袋を彼女の膝の上に置く。

「心苦しくはあるんだよ……けど、悪いことをしたら罰を受けなければならないのは、きみだって一緒なんだ。……こんなこと、本当はしたくないんだけどね。言うことを聞けないっていうんなら――しかたがないよね?」

「しかたがない? そんな顔で言われても、説得力なんて、っ――ぁ!」

 電気を流されたように――ロゼリアの身体が、ほんの少しだけはね上がる。
 唐突な出来事だった。
 その要因は、はたから見ただけでは、よくわからない。
 少年の手が、ロゼリアのお腹の辺りに触れているだけなのだから。

「ロ……ロゼリア?」

「ああ、エレナは知らなかったっけ? まあ、説明するようなことでもないんだけどさ。簡単にいうと、少し特殊な力を使って、神経に軽ーい刺激を送ってるんだ」

 少年の腕の中で、ロゼリアは静かに座っていた。
 しかし、何か様子がおかしい。
 時折硬直するようにはねる体。口からは荒い息がもれており、頬は真っ赤に紅潮している。
 だが彼女の顔は、違和感のあるほどに、無表情を浮かべていた。
 その様子を見て、心配げな表情を浮かべるエレナに「ロゼリアなら、大丈夫だよ」と、シルクハットの少年は笑みを向ける。

「これは痛みではないんだ。苦しみでも、精神を支配したりしているわけでもない。……とにかく、正の感情なんだよ――どちらかといえばね。だから、おれはこのやり方が一番好きなんだけど、加減が難しいんだ。やりすぎてしまうと、中毒を起こしてしまうからね」

 さて、と彼は一息吐くと、ロゼリアから手を離し、その手に白い手袋をはめる。

「それじゃあ、ロゼリアの状態が戻り次第。仕切り直しをしよう」

 シルクハットの少年はそう言いながら、ディーラーの席へ戻っていく。
 ――小刻みに痙攣し、失神したような状態のロゼリアをそのままにして。
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