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第一章

ラフ過ぎる立ち振る舞い

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 ――バンッ!
 と勢いよく開かれた扉に、視線が集まる。
 シルクハットの少年はやれやれといったふうに顔を上げると、ため息混じりに口を開いた。

「ディック、そんな感じで開け閉めしてたら、そのうち壊れちゃうよ」

 その眼前にいたのは、彼と同い年くらいの少年だった。
 短く清潔感のある茶髪に、とび色の瞳。上下には黒いスーツを着ている。
 ディックはいくつかのドームカバーがのったワゴンを押しながら、部屋の中央へと歩いていく。
 どうやら、料理を運びに来たようだ。

「わりぃ。なんていうか、癖で――って、ロゼリア様!? ……あーあ、まーたやってんのかよ」

 ディックは呆れたように、後頭部をかく。
 高価そうな装いも台無しといった態度だが、似合っていないというわけでない。
 着こなしてはいるものの、なぜかラフさが際立ってくるのである。
 目鼻立ちが整っているから、というのもあるだろう。
 その姿は妙にしっくりときていて、苦笑いにすら、清々しさが現れている。

「ちょっと、やりすぎちゃったかな?」

 反省のような色を見せるシルクハットの少年に、ディックは「いやいや」と手を横に振った。

「別に、あんたに言ってるわけじゃなくってさぁ。なんっつーか……最近気づいたんだけど、ロゼリア様って実は……」

「私が、どうかしたの?」

「いやいや、それがさぁ……って、うわっ! ロゼリア様!?」

「うわ、じゃないわよ。――ディック」

 いつの間にか調子を戻していたロゼリアに、ディックは鋭い視線を向けられてしまう。

「き、気づいてたのかよ……」

 おどけたようにいいながらも、熱を帯びているかのような目を向けられ、彼は長身な身体を少しだけ震わせた。

「まあ、それはさておき」

 ディックはワゴンをテーブルの前へ運び、ドームカバーをひとつ持ち上げる。
 中には、皿に乗せられた料理が一品。
 肉と野菜、チーズなどが、ピザにつかう生地のようなもので巻かれており、具に塗られたソースが、香ばしい匂いを立てている。
 ディックは料理をのせた皿を手に取り、それをべランカへ渡す。

「ほい、冷めねぇうちに」

「どうもありがとう」 

「いやいや、さっきまで食べてたのに。本当に、すごい食欲だね……」

 驚くように言うエレナ。
 その視線の横で、ディックはまた別のカバーを持ち上げる。
 今度は甘味系の一品だった。
 タルト生地のうえにイチゴのクリームがのっており、そのてっぺんには、花びらのようにカットされた苺が、まるで咲いているかのようにトッピングされている。
 ベランカが受け取った料理もそうだが、片手で食べられることを意識されているかのように、これもまた、手に持ちやすい大きさだ。

「うーん。鍛えてるから、かしら? ……知らないけど」

 手にしているバーガーを頬張るベランカに、プリルが感心したように「へえ」と相槌をうつ。

「あいよ。ポーラちゃんは、これね」

「……ありがと」

 ディックから苺のタルトが乗った皿を受け取ると、ポーラは何気ない調子で呟いた。

「そのぶん……おならもくさそう……」

「――んっ! むぐっ……!」

 口に含んだものを噴き出しそうになるベランカ。
 彼女は手で口元をおさえこみ、口の中のものを慌てて飲み込んだ。
 げほげほ、とひとしきりむせ、べランカはようやく落ち着きを取り戻していく。

「ポ、ポーラぁ! いきなりなんてこと言うのよぉ!?」

「ごめん……駄目だった……?」

 声を荒げるべランカを見て、意外そうな表情で首をかしげるポーラに、「かなくてもわかるでしょう」とべランカはため息混じりにこたえた。
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