また今度、会えたら

𝐄𝐢𝐜𝐡𝐢

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 街頭の光が、太陽の変わりとなって街の景色を照らしている、そんな夕方過ぎのこと。
 街の中には、歩行者天国になっている長い一本道が伸びており、その両端には、ちらほらと飲食店が見えるなか、カラオケやパチンコ屋、インターネットカフェといった、様々な店が建ち並ぶその道は、ちょっとした暇つぶしにはうってつけといったふうな通りとなっている。
 駅が近いこともあって、辺りには人で溢れており、疲れた顔をしたスーツを着た人たちや、居酒屋の客引き、部活帰りの高校生や、大声で会話をしている学生達などが通り過ぎていくなか――バイトを終えた僕は、駅の方へ向かって歩いていた。自宅がこの場所から五つ離れた駅にあるため、電車に乗る必要があるのだ。

「はぁ……」

 僕は溜め息をつきながら、肩からかけたリュックを背負いなおす。
 なんだか今日は、いつもより足が重い気がする。バイトで疲れたというのもあるが、理由はそれだけではない。今日は少しだけ、いやなことがあったのだ。本当に――少しだけ。

 今日、バイト先のゲームセンターで、接客をしていたときのこと。「店員さん」と声をかけてきた相手が、中学の頃に片思いをしていた相手だったのである。その子は僕が同級生だと気づくやいなや、取り留めのない会話を始めた。中学生の頃は、すれ違っても気恥ずかしくなってしまい、ほとんど話すことはなかったのだが、歳をとったからだろうか。肩に力が入ることはなく、僕とその子は、もともと友人だったかのように、言葉を交しあっていた。そうやって、しばらく話していたときである。その子の元へ、「ママー」と小さな女の子が走ってくるのがみえて、楓は――ああ、なるほど。と、僕は思ったのだ。

 本当に、なんていうことのない出来事であり、むしろ、たいした感想を抱かなかったからこそ、中学の頃の片思いなんて――こんなもんなんだと、今年で二十五歳になった僕は、過ぎ去った時間の長さを知ったのだった。そして――、

「なにやってんだろ……俺」

 それは唐突だった。不意に、胸が苦しくなったのである。もちろん、片思いを拗らせた、なんていうことではない。当時、中学生だったはずの女の子がいつのまに大人になっていて、それを他人事のように思った瞬間――原因のよくわからない、寂しさのようなものを感じたのである。

「ああっ、くそっ……」

 肺の空気に重さを感じた気がして、僕は苛立ちを溜め息に混じらせた。そして、そんなふうに吐き出してしまってから、まだまだガキだなと、自己嫌悪に陥る。

 ……本当に、何をやっているんだろう。

「はぁ……」

 いつになれば、僕は大人になれるんだろう。溜め息をつきながらそんなことを考えて、そんなことを考えている時間が、無駄でしかない、ということに気づく。それはそうだろう。別に“そんなこと”が知りたいわけではないのだから。
 本当に知りたいことは、疑問のさらに向こう――ずっと深いところにあって、それを理解した先にようやく、答えを知るための糸口がある。それを知りながらも、何かに言い訳をするように、生きているふりをして、頑張っているふりをして、進んでいるふりをして、僕は――。

 と、考え事をしているうちに、再び肺の空気が重くなっていく。そして、僕は苛立ちを吐き出すように溜め息を――って……無限ループってこわくね。いい加減、気持ちを切り替えよう。
 僕は溜め息をやめると、意識的に深呼吸をしてみた。だが、肺を満たすのは、飲食店の換気扇を通ってきた脂っこいニオイや、パチンコ屋からのタバコの煙ばかりだ。――まあ、それでも、深呼吸をワンクッション挟んだことによって、ほんの少しだけ、気分が楽になった……気がする。そして唐突に、その考えはわき上がってきた。

「飯、くってくか」

 いつもは家に帰ってから適当に済ますのだが、気晴らしになればと、いくつかある飲食店へと視線を滑らせていく。
 イタリアンや丼もの、和食や中華。少し離れたところにはラーメン屋もあり――しかし、いまいちぴんとこない。なんというか、さっぱりしたものを食べたい気分なのだが、どこもかしこも、がっつり、といった店構えをしているようにみえる。しかし、このまま道なりに進み、駅についてしまっては、駅構内にある立ち食いそば屋のみに選択肢を絞るしかなくなってしまう。それも悪くはないのだが、今の気分ではない。まあ、駅を越えて反対側に出れば、そこにも色々と飲食店があるにはあるのだが、そこまでいくのは、億劫だ。と、そんな風に考えて、僕はこの通りにある飯屋のなかから決めようと、来た道を引き返すことにした――その時である。

「……なんだ、ここ」

 見慣れない横道が視界に映り、吸い寄せられるように僕はその道の先へと視線を向けた。
 長い、石畳の路地。真っ直ぐに伸びたその道の先には木造の建物があり、正面の出入り口に、【握】とかかれた暖簾がかれられている。
 僕はシャツの襟をただすと、路地へと足を踏み入れてみることに――、

「……いやいや、おかしいだろ」

 一歩だけ進んで、足を止める。
 店の外観には、いかにも老舗というような風格があり、気軽に立ち寄るような感じではない。しかし、僕の足は、気付けばナチュラルに、店――なのかはわからないが、そちらへと向かっており、我ながらおかしな行動だと思った。まあ、でも――、

「ちょっと、いってみるか」

 本当に、ちょっとだけ。店の前まで行くぐらいなら、問題ないだろう。そう思い、僕は軽い気持ちで、路地の中へ入っていったのだった。
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