何もない部屋

𝐄𝐢𝐜𝐡𝐢

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色んな意味で、危機的状況

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 ――まずい。
 非常にまずいことになった、と。
 少女はきょろきょろと、周囲を見回す。

 背中ほどまで伸びるきれいな髪に、身動きのとりやすそうな服装。
 腰には剣をさした、そこにいたのは、いわゆる――冒険者といった格好をした格好をした感じの少女だった。

 出口のない部屋の中、彼女はうっすらと冷や汗を浮べ、そこから出るほうをを探しているようで、

「どうしよう……」

 少女はそう言って動揺に目を泳がせると、

「すごく……。すごく――おならがしたい……」

 唐突に、間の抜けたことを言う。
 だが、彼女にしてみれば、笑い事ではなく、

「けど、ここでしちゃったら……。自爆は、免れないよね……」

 部屋の面積は1畳ほど。
 “もの”にもよるが、通気性のなさそうなその部屋で放つのは、リスキーともいえるかもしれない。
 だが、彼女の中の我慢はもう限界寸前といったところで。
 物理的にあがいて見ようと、壁を殴る余裕もないといった感じだ。
 と、そこで、

「こうなったら……」

 彼女は静かに息を吐ききりると。
 全力で肺を酸素で満たした。

 彼女は肺活量に少しばかり自信があるようで。
 息止めの自己記録である――3分のあいだに、状況をどうにかしようと考えていた。
 だが、そこまでする必要があるのだろうか。
 少し疑問のある感じだが。
 彼女の中では、それほどの問題なのだろう。

 そうして、彼女はゆっくりと腹に力を込めると、

 ぷううぅぅ――ぶううぅぅううううぅぅううぅぅ~~……!
 ぶううううぅぅううううぅぅぅぅううううぅぅ……っ!

 少女の尻から放屁音が鳴る。
 それも、部屋が振動するほどの、尋常ではないやつだ。
 さらに、驚くべきは、音だけではなく。
 空間に靄がかかるかのような、濃度で。
 そこに人がいたならと考えると、ぞっとするような感じだ。
 だが、それでもなお、彼女はガスを出し切っていないようで。
 少女は「ふうぅんっ……!」と気合を入れると、

 むぶううううぅぅぅうううぅぅううううぅぅ~~……!
 ぶすううううぅぅぅううううぅぅううううぅぅ~~……!

 部屋のガスの濃度がますます上がっていき。
 もはやそこは、人のいられるような空間ではなくなっていた。
 その様子を見れば、息をとめた彼女の判断が正しかったことを納得せざる終えない感じで。
 しかし、彼女の肺活量が限界を迎えたとき――。
 そのときには、絶望的な展開が、待っていることだろう。
 もっといえば、息止め3分の記録は、平常時の冷静な時の記録であり。
 腹に力を込め、ふんばる運動によって、許容できる時間はさらに少なくなることだろう。
 それを思ってか、少女は表情をこわばらせながら、

「う、うぅんっ……!」

 むっすうううううぅぅぅぅうううううぅぅ~~……!
 ふっしゅううぅぅ――すううぅぅううぅぅ~~……!!

 一段と濃い、熱風のような屁だった。
 臭いは兵器級――おそらく、毒ガスといっても過言ではないだろう。
 その臭いを嗅いで、立っていられるものは存在しないのではないかと、冗談半分(?)にそう思えてしまえるほどの――卵系統のガスだった。

 ここまできたら、笑い事ではない。
 彼女は恐怖心を覚えながら、必死で息をとめ、

 す――かああぁぁああああぁぁあああぁぁぁああぁ~~……!
 ああぁぁぁああああぁぁあああぁぁぁああぁぁ~~……!

 まだ終わりではなかったようで。
 少女はそこでようやく最後の最後まで絞りきると、

「……?」

 呆然と目の前の壁を見た。
 いつからだろう。
 そこには、扉があった。
 ガス抜きに夢中で、気づいてなかったのだろうか。
 疑問の残る現象だが――。

 とにかく、今はそんなことを考えている暇はないだろう。
 少女は恐る恐るといった風に、ドアノブに手をかけると、

「……っ!」

 目を見開く少女。
 開いたのだ。
 ドアが正常に、開いたのである。

 そのことに、少女はうっすらと涙を浮かべると。
 命の危機から救われたかの様子で、部屋から出て行く。

 そして、誰もいなくなったあと。
 部屋はゆっくりと――まるで、命の火を消すかのように。
 ゆっくりと、跡形もなく消え去ていったのだった。
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