『下品注意』青い鳥の宝石

𝐄𝐢𝐜𝐡𝐢

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青い鳥

【02】――ただ静かに

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「おお、いいね。じゃあ、さっそくやってみようよ」

「う、うん。じゃあ、ちょっと……」

 楽しげなクレアの声にカテリーナは答えると、苦笑いをうかべ、鳥型オブジェの前に立ち、くるりと、体の向きを変えた。そうして、彼女は鳥型オブジェに背をむけると、そのくちばしの部分を覆いこむように、カテリーナは鳥型オブジェに自分のお尻を、密着させる。

「けど、ニオイがもれちゃうのは嫌だなぁ……」

 カテリーナは不快そうに顔をしかめると、鳥型オブジェを手でおさえつけ、腰を、もぞもぞ、と動かした。そうやって、ボウルのような形をしたくちばしにたいして、ぴったりと、お尻がはまる位置をさがしていく。そして、カテリーナはお尻とくちばしの間にすきまがないのを丁寧に確認すると、

「それじゃあ……、するね?」

「う、うん……!」

 カテリーナの言葉に、クレアは少し緊張したような面持ちでうなずく。そして――

「ぁ……。でそう」

 カテリーナはそうつぶやくと、体内の中にある空気の動きをさぐるように、目をとじる。
 そんなカテリーナを、クレアはかたずをのんで見守っていた。
 どうしてこんなに緊張するんだろう、と、そんな思いがクレアの心中を満たしていく、そんななか、カテリーナは――「ふぅ、んっ……」と下腹部に力を入れ、溜まったガスを体内から排出する素振りをみせた。しかし――

 ……。

「カテリーナ」

 ……。

「ねえ」

 ……。

「カテリーナ?」

 何度も呼び続けるクレア。返事のないカテリーナに彼女が、首をかしげていると、

「……ん? ……どうかした?」

「え? あ、いや、なんていうか……。もしかして、おなら、引っ込んじゃった?」

 クレアがたずねると、カテリーナは少し顔をうつむかせる。

「別に、そういうわけじゃないんだけど……」

「……?」

 クレアは首をかしげると、なにげない様子でカテリーナの横へわまわり、側面から鳥型オブジェに視線をむけた。

「なんだろう、あれ」

 クレアは鳥型のオブジェの頭部を見てつぶやく。
 そこには、目を模したようなくぼみがあり、その部分がなにやら光っていた。クレアは怪訝な表情をうかべると、その光を間近で確認ようと、鳥型オブシェの横でしゃがみ込んだ。

「これって……」

「ど、どうかした?」

 カテリーナは鳥のオブジェを両手とお尻ではさみ込んだまま、クレアに視線をむける。

「ねえ、カテリーナ」

「な、なに?」

 カテリーナはそう返事をすると、なんとなく嫌な予感をおぼえたように、オブジェを掴む手に力をこめた。
 そんなカテリーナの目を真っ直ぐ見て、クレアは苦笑いをうかべると、

「もしかして――すかした?」

「――っ!? は……ぇ!? ちょっ……もしかして、におい、もれてた?」

 動揺した様子のカテリーナ。
 しかし、そうじゃないと、クレアは首を横にふり、肩すかしをくらったかのような口調でこたえた。

「っていうか、音がまったくしなかったから、ぜんぜん気づかなかったよ」

「いや……、なんでそんなに、がっかりしてるのよ」

 カテリーナはゆっくりと落ち着きを取り戻していきつつ、クレアの表情を見て、納得いかいようすで肩をすくめる。

「別に、そんなことはないんだけどさ。どうせだったら、気持ちのいい音が聞きたいじゃん」

「そんなの、しらないよ……。っていうか、音もニオイもとどいてないのに、どうしてわかったの?」

 カテリーナの問いに、クレアは「ん」と、いつの間にか手につまんでいたものを差し出してこたえる。

「これが、その鳥の目の部分から出てきてたんだよ」

 それは、雨の雫ように小さな――空色の玉だった。その美しい彩りには透明感があり、目をうばうような輝きを放っている。

「これって……」

「たぶん、カテリーナのニオイに反応して……。――っ!?」

「へっ!? な、なに!? どうしたの!?」

 カテリーナは驚きの声をあげる。その視線の先で、クレアは鼻を押さえ、苦しげな声をもらしていたからだ。
 そんなクレアの反応を見て、カテリーナは「はっ」と何かに気づいたように眉をあげる。

「ごめん……。もしかして、私のせい?」

 カテリーナはしっかり鳥型オブジェの口から、管の中へとおならを送り込んだのだが、カテリーナの体内から排出された濁った空気は、少量であるが、オブジェの口の部分に残ってしまっていたらしい。そしてその空気が、カテリーナが動いてしまったことで――すぐ横でしゃがみこんでいたクレアの鼻の近くで、開放されてしまったようだ。

「けど、その反応は……。さすがに、おおげさじゃない?」

「ひやっ、ひょんなことないっへ! いったい、なにをひゃべたら……」

 クレアは先ほどの石をポケットの中に入れながら声を上げるが、呂律がまわっていない。あたりにただよっている、においが原因だろう。それはあまりにひどく、ネギを凝縮させて、それを腐らせたような、それほどに強烈なにおいだった。しかし――、

「て、いうのは、じょうだん……、だよ?」

 カテリーナの目にうっすらと涙がうかんでいるのを見て、いおうとしていた言葉をのみこむと――クレアは鼻から手をはなし、ニオイが薄まっていることに安堵しながら、苦笑いをうかべる。

「……いやぁ、恥ずかしいのはわかるけどさぁ。泣くことはないじゃん」

「別に、泣いてないけど?」

 カテリーナは、感情をおさえているのか、何事もなかったかのような表情でいう。
 その目にはもう涙はたまっておらず、「あれ?」とクレアは首をかしげたが、すぐに気をとりなおす。

「まあ、いっか。っていうか……」

 クレアはそう言いながら、お腹をなでる。その様子に、カテリーナは、はっとするように声をもらすと、

「もしかして、クレアも……?」

「いやぁ……、うーん。どうなんだろう……、ちょっと、ふんばってみないことには……」

 クレアはそう言いながら、カテリーナと場所を入れ替わると、先ほどカテリーナがしたように、青い鳥の口に尻をあてる。そして、「んっ……」と軽い感じの息み声をもらした。すると――

 ~ ぶっ! ぷっ――ぷううぅぅううぅぅ……

 まの抜けた、くぐもった音が、場に鳴り響いていく。
 音の出どころは、どう聞いてもクレアのお尻からであり――鳥型オブジェの口内からだった。
 だまりこむカテリーナとクレア。
 硬直する二人の表情。
 口をぽかんと開け、二人は見合っていた。
 第一声を迷っているのか、二人のあいだに言葉を選ぶような沈黙がうまれる。
 次第に、クレアの頬が火照りを増していくなか、先に口を開いたのは、カテリーナだった。

「いい音、だったね」

「――っ」

 クレアは勢いよくその場でしゃがみこみ、膝と腕のあいだに顔をうずめる。

「うっ……」

 クレアの肩が、ぴくっ、とはねた。
 先ほどの鳴ったのは、クレアが放屁をした音で、間違いないだろう。その残り香が、体制のせいで、鼻に届いてしまったらしい。そして――

「――ぁ、っ」

 ニオイは、カテリーナの鼻にも届いたようだ。クレアが大きく動いたことで、濁った空気が、散ってしまったのだろう。
 そのニオイがあまりに強烈だったのか、カテリーナの頭部が、くらっ、と少しだけゆれる。
 カテリーナは、ぎゅっ、と一度力を入れて目をつむると、左右に頭を振り、ぱっちりと目を開け、クレアに視線をむけた。その眼前で、

「おたがいさま……、だよね?」

 クレアは膝に顔をうずめたまま、ぼそっと口をひらく。
 その落ち込んだような声は、あきらかに立ち直るきっかけをもとめていた。しかし――、

「そ……、そうかなぁ……」

 カテリーナは立ち上がりながら、自分の手に視線をうつす。その両手のひらは、空色の玉でいっぱいになっていた。
 その反応に、クレアは思わず顔を上げる。

「何でそんなにショックを受けてるのさ。お互い様ってことで、いいじゃん」

「うん……、まあ、そうだね。お互いさま、だよね?」

「そうそう。そう考えれば、恥ずかしさも、少しは薄れるでしょ?」

 クレアはそういって気を取り直すと、腰を上げた。

「確かに。それに、この綺麗な玉も、沢山手に入ったし。まあ……、よかったよね?」

「うんうん。とりあえず、そういうことにしておこう」

 カテリーナが石を適当にしまいながら言うと、その言葉にクレアは満足げにうなずく。それをきっかけに、二人の間にあった緊張感みたいなものが、少しずつ弛緩していった。そして、カテリーナは何気なく自分とクレアのバスケットを見比べると、

「っていうか、クレア。まさか、さぼってたんじゃないでしょうね」

「今回は違うよ。それに、探してる途中でこんな変なものを見つけたら、手を止めるしかないでしょ」

「ん? ……今回は?」

「と、とにかく、山菜はもう十分でしょ? それでもつまみながら、そろそろ帰ろう」

 クレアは帰り道のほうへ歩きながら、カテリーナが手に持っている空色の玉を指差していう。

「あっ、ちょっと。まってよ」

 カテリーナはあわてたようにクレアの背中を追いかけていき、小走りで山をおりていった。
 二人分の足音は遠ざかり、場に静寂がおとずれる。
 森の奥の、ひらけた空間。その場所に、暖かな風がとおりぬけていく。
 木々のゆれる音のなか、草木にかこまれた場所に、鳥型オブジェは、ただ静かに存在していた。
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