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砂時計を二度ひっくりかえしてから――さらに十分がたち。
約束の時間まで、あと四十分といったところ。
二人はなんてことのない会話をしながら十分間を過ごし、その間、レーテルはどうにか欲求をこらえ。
なぜか、赤髪の少女もまた、放屁をすることはなかった。
そのため、空気は少しずつだが、入れ替わり、会話も鼻を覆わずとも、問題なくできるような状態になっていた。
なんだか、最初の十分間に比べると、ずいぶん平和な時間のようだが。
レーテルはその様子に訝しさを覚えつつも、この調子で、時間が過ぎてくれることを願った。
そして――さらに十分が経ち。
何事もなく、残りの時間は、残り三十分となった――。
と、そこで。
レーテルが、表情を少しだけ崩し、なにやらもぞもぞとしだす。
「あ、あの……」
「ん? どうした?」
おずおずと口を開くレーテルの様子に、赤髪の少女は首を傾げる。
すると、レーテルは少し顔を赤らめて、羞恥に堪えるように言った。
「例えばの話、なんだけど。もし……、トイレに行きたくなったら……、どうしたら……」
「んー?」
レーテルの言葉に、赤髪の少女はゆったりとした口調で返すと。
おもむろに、ローブの懐から、虫眼鏡のようなものをとりだし、それをローブの袖で、きゅっきゅっ、と磨きながら、再びゆったりとした様子で口を開いた。
「我慢、できそうにないのか?」
「……へ?」
「我慢の限界なのか、と、訊いてるんだが?」
「あ……」
唐突に出された虫眼鏡が気になったのか、赤髪の少女の質問に対して、反応が遅れたレーテルだったが。
すぐにはっとした表情を浮かべると、「う、うん!」と、あわてたようすで頷いた。
「もう、限界で……」
「ちなみに、放屁なら、ここで済ませてもいいぞ?」
「ぅ……」
言葉に詰まるレーテル。
とはいえ、彼女はこの罰の本質のようなものに、うすうす気づいてきており。
そういった返答は予想済み、といった様子で口をひらくと、
「そ、その……、ガスのほうじゃ、なくって……」
「ん……? おお、それは大変だ」
赤髪の少女はそういうと、手にしていた、虫眼鏡のようなものを覗き、それを通して、レーテルに視線を向けた。
すると、「ん?」と、彼女は首をかしげ、
「なんもみえないが?」
「……へ?」
「だから、ガス以外、何も――」
「――っ!?」
ばっ、と。
レーテルは体を抱くように隠す。
それから、レーテルは驚愕するように目を見開き、
「もしかして……、みえるの?」
「なにがだ?」
「そ、その……、おし――じゃなくて! もういいよ!」
レーテルは羞恥でいっぱいいっぱいといった風に叫び、両手で顔を隠すと、
「そうだよ! ガスだよ! おならが、出そうなんだって! けど……」
「おいおい、突然あわててどうしたんだ? 私はこれで、リンゴみたいなきみの表情を、拡大してみてただけなんだが……。とりあえず、屁なら、ここでしてもかまわんから、思う存分やるといい」
赤髪の少女はそう言いつつも、少女をからかってることはあからさまな様子で、いたずらっぽく笑う。
するとその様子に、レーテルの表情はさらに赤みを増し、
「は、はめられた……!」
「なにを、人聞きのわるい……。ちなみに、ひとつ言っとくが。これは最初に言ったとおり、罰だ。それは嘘じゃない……。つまり、私の言いいたいことは……」
わかるな?
と、赤髪の少女は続け。
レーテルが、うっ、と声を詰まらせる。
そして、
「わ、わかったよ……」
納得するレーテル。
それを受け、赤髪の少女は今度は柔らかく笑みを浮かべ「それならよかった」と答えた。
「ちなみにもう少しで、また砂が落ちきるが、石の交換はどうする……?」
「うーん……」
思考する、レーテル。
目の前の少女の雰囲気からして、彼女が何かを企んでる可能性を考えて、頭を働かせてみているようだ。
しかし、特に気になる様子はなく、レーテルはうなずいた。
すると、赤髪の少女は「そうか」とだけ答え、少しして、砂時計が落ちきる少し手前ぐらいになったぐらいで、彼女はそれをひっくり返した。
そうして、変に時間稼ぎをしない彼女にたいして、レーテルはますます疑問を覚え、さらに彼女について、疑問を深めていく。
と――そのとき、
「うっ……」
唐突に腹部の圧迫が強まり、思わず声を漏らすレーテル。
その様子に、赤髪の少女は苦笑いで、肩をすくめると、
「がんばるなぁ……。してしまえばいいのに」
「い、いや……」
「ぷう~……、っと。やってしまえば、楽になるぞ?」
「で、できるわけ……、ないでしょ」
あおるように言ってくる赤髪の少女に、レーテルはむっとした表情を浮かべる。
それを受け、赤髪の少女が「何でだ?」首をかしげると、
「そ、そりゃあ、そうでしょ……! エンゼルの前で、おならなんて……」
「彼の前? けど、その石が彼だと、完全に決まったわけではないだろう。だというのに、どうしてそうだと言いきれるんだ?」
「……」
赤髪の少女の言葉に、レーテルは黙り込む。
確かに、確証はなく。あくまでも可能性として、それらしい石を選んでいるだけだ。
もし、青い石がエンゼルだった場合を考えて。
赤髪の少女の毒ガスのようなに屁に包まれてる様子を、見て見ぬふりすることは、レーテルにはできなかったのだ。
最初は羞恥心から、目をそむけてしまったが。
そんな自分の選択を後悔するほど、エンゼルを助けたいと、レーテルは思っており。
ただ、一番の理由は。
やはり、赤髪の少女の屁につつまれているのを見て、エンゼルにたいして、あまりにも気の毒すぎると思ったのが、彼女の中で大きかった。
思わず、見て見ぬできなくなってしまうほどに、赤髪の少女の屁が強烈だったのである。
そして、さっきまでの自分の選択に後悔をしたレーテルは、その感情を力にして、ぎゅっと、括約筋に力を入れ、懸命に自分の中の欲求とたたかっていた。
それは、文章にしてみれば、なんともまぬけな様子であるが。
彼女にしてみれば、冗談で済む話ではなく、
「本当に、この青い石がエンゼルなのか……、わからない……。けど、この石を、あなたに渡すわけにはいかないよ……」
「ふぅん……」
レーテルの言葉に、赤髪の少女はそれだけ返すと。
なにやら、考え込むように、あごに手をやった。
そして、何を口にするかと思えば、
「なあ、そういえば。きみの名前は、なんていうんだい?」
「え……?」
何をこんなときに、と言いたげにレーテルは首をかしげる。
それを受け、赤髪の少女は苦笑いを浮かべると、
「いや、なんとなく……、知りたくなってな。ちなみに、私の名前は――ウリム。ウリム・ローアだ」
「……。わ、わたしは……。レーテル・ランバージャック」
赤髪の少女――ウリムからの、唐突な自己紹介に、レーテルは戸惑い、腹部からの欲求に耐えながら答えた。
すると、ウリムは今までにないような、やわらかな、笑みを浮かべ、
「そう……。それじゃあ、レーテル。あと二十分、がんばって」
「え?」
呆然とする、レーテル。
それもそのはず。
今、目の前にいるウリムは、先ほどまでとは打って変わって。
見た目どおり――少女のように、レーテルへ微笑みを向けており、
「悪いことをしたら、罰を受けさせるのが、私のやり方。だけど、それが終われば、仲直りするつもりだよ。だから……、だからね……」
ウリムむはそう言葉を区切ると、なにやらほんのりと顔を赤らめ、言いづらそうに口を開いた。
「これが終わったら……、友達に……、なろう?」
「……」
完全に、言葉を失うレーテル。
そんな彼女の肩の力はすっかりぬけ、だらりと、脱力していき。
そして――「あっ」と、声を上げたころには。
遅かった。
ぷ――っぷううぅぅううううぅぅうう~~……
彼女は、全身の力を抜いてしまったのだろう。
放屁音が――レーテルの尻から鳴り、
「「……」」
黙りこむ二人。
そのまま、じばらくのまがあり――。
「ふっ――」
ウリムが吹き出し、おかしそうに目元を薄め、笑った。
その様子に、レーテルは顔を真っ赤にさせると、
「あっ! ひどい……! そんな、笑うなんて……」
「ご、ごめん……。けど、なんだか、可愛くて……」
「なっ? なにそれ……、なんか複雑だなぁ……」
そう言いつつも、怒っている感じではなく。
レーテルはただただ、複雑そうに顔を真っ赤にした。
と、そのとき。
「――っ」
ウリムの表情が少しだけ、曇る。
その様子に、レーテルが「どうかした?」と、首をかしげると。
ウリムは何かを堪えるように、鼻をつまみ、
「ちょっと……、どういうこと?」
「どういう……? って、ん? もしかして……」
「うん……、臭い……。レーテルってば、本当にこれまで、のまず食わずですごしてたの?」
ウリムが訊くと、レーテルは当然だと言いたげにうなずく。
「そう、なんだけど……。っていうか、本当に、そんな?」
レーテルは、くんくんと鼻をならすと、自分ではわからないのか、首をかしげた。
「ウリムのに比べたら、全然じゃない?」
「まあ……、私のに比べれば、そりゃそうだけど、私のは……、食事が、特殊だから……」
「へえ……」
「っていうか、砂時計。そろそろだね」
ウリムは、そう言って、砂時計をひっくり返すと、
「ほら。あと10分だから、頑張って」
「う、うん……」
あいまいに頷くレーテル。
そんなレーテルの表情に、先ほどまでの緊迫した様子はなく。
その様子に、ウリムが首を傾げる。
「あれ? もしかして、今の一発で、お腹、だいぶ楽になった?」
ウリムが問うと、レーテルはなんともいえないような表情で、お腹をなで、
「そんなこともないんだけどね……。なんていうか……」
レーテルはそう言って――、
ぶうううぅぅうううぅぅぅうううぅぅ~~……
「……」
あっけに取られた様子の、ウリム。
どうみても、レーテルが自分から放屁をしたように、彼女の目に映ったのだ。
そして、それは間違いではないようで、
「もう、いいかな、って……」
レーテルはそう言って、尻の下にある石の位置を、調えると、
むっすううぅううぅううううぅぅうう~~……
再び、放屁した。
今度はすかしの、強烈そうなやつで。
「まあ、ウリムのとは違って、私のは、別に、耐えられるレベルだろうし」
ふっすうううぅぅぅうううぅぅ~~……
そういって、放屁を続けるレーテルに。
ウリムは何も言えずにいた。
彼女に対し、絶句している、とかではなく。
あたりに漂う臭いがあまりにもきつく。
できるだけ呼吸をしないように、ウリムは口をつぐんでいた。
そして、レーテルはどこかぼんやりとした様子で。
独り言をぶつぶついいながら。
やはり恥ずかしいのか、顔は真っ赤で。
うっすらと涙を浮かべながら、放屁を続けた。
その心境がどういったものなのか。
複雑すぎて、本人にすらわかっていない様子で。
そんな時間が10分続き。
そして――。
+ + + + + +
部屋に、二人の姿はなかった。
そして、慌てて空けたかのように、窓とドアが開いており。
その部屋の床には――ブロンドの髪をした少年が。
白目をむき、口からは泡を吹いた状態で。
ぐったりと転がっていたのだった――。
約束の時間まで、あと四十分といったところ。
二人はなんてことのない会話をしながら十分間を過ごし、その間、レーテルはどうにか欲求をこらえ。
なぜか、赤髪の少女もまた、放屁をすることはなかった。
そのため、空気は少しずつだが、入れ替わり、会話も鼻を覆わずとも、問題なくできるような状態になっていた。
なんだか、最初の十分間に比べると、ずいぶん平和な時間のようだが。
レーテルはその様子に訝しさを覚えつつも、この調子で、時間が過ぎてくれることを願った。
そして――さらに十分が経ち。
何事もなく、残りの時間は、残り三十分となった――。
と、そこで。
レーテルが、表情を少しだけ崩し、なにやらもぞもぞとしだす。
「あ、あの……」
「ん? どうした?」
おずおずと口を開くレーテルの様子に、赤髪の少女は首を傾げる。
すると、レーテルは少し顔を赤らめて、羞恥に堪えるように言った。
「例えばの話、なんだけど。もし……、トイレに行きたくなったら……、どうしたら……」
「んー?」
レーテルの言葉に、赤髪の少女はゆったりとした口調で返すと。
おもむろに、ローブの懐から、虫眼鏡のようなものをとりだし、それをローブの袖で、きゅっきゅっ、と磨きながら、再びゆったりとした様子で口を開いた。
「我慢、できそうにないのか?」
「……へ?」
「我慢の限界なのか、と、訊いてるんだが?」
「あ……」
唐突に出された虫眼鏡が気になったのか、赤髪の少女の質問に対して、反応が遅れたレーテルだったが。
すぐにはっとした表情を浮かべると、「う、うん!」と、あわてたようすで頷いた。
「もう、限界で……」
「ちなみに、放屁なら、ここで済ませてもいいぞ?」
「ぅ……」
言葉に詰まるレーテル。
とはいえ、彼女はこの罰の本質のようなものに、うすうす気づいてきており。
そういった返答は予想済み、といった様子で口をひらくと、
「そ、その……、ガスのほうじゃ、なくって……」
「ん……? おお、それは大変だ」
赤髪の少女はそういうと、手にしていた、虫眼鏡のようなものを覗き、それを通して、レーテルに視線を向けた。
すると、「ん?」と、彼女は首をかしげ、
「なんもみえないが?」
「……へ?」
「だから、ガス以外、何も――」
「――っ!?」
ばっ、と。
レーテルは体を抱くように隠す。
それから、レーテルは驚愕するように目を見開き、
「もしかして……、みえるの?」
「なにがだ?」
「そ、その……、おし――じゃなくて! もういいよ!」
レーテルは羞恥でいっぱいいっぱいといった風に叫び、両手で顔を隠すと、
「そうだよ! ガスだよ! おならが、出そうなんだって! けど……」
「おいおい、突然あわててどうしたんだ? 私はこれで、リンゴみたいなきみの表情を、拡大してみてただけなんだが……。とりあえず、屁なら、ここでしてもかまわんから、思う存分やるといい」
赤髪の少女はそう言いつつも、少女をからかってることはあからさまな様子で、いたずらっぽく笑う。
するとその様子に、レーテルの表情はさらに赤みを増し、
「は、はめられた……!」
「なにを、人聞きのわるい……。ちなみに、ひとつ言っとくが。これは最初に言ったとおり、罰だ。それは嘘じゃない……。つまり、私の言いいたいことは……」
わかるな?
と、赤髪の少女は続け。
レーテルが、うっ、と声を詰まらせる。
そして、
「わ、わかったよ……」
納得するレーテル。
それを受け、赤髪の少女は今度は柔らかく笑みを浮かべ「それならよかった」と答えた。
「ちなみにもう少しで、また砂が落ちきるが、石の交換はどうする……?」
「うーん……」
思考する、レーテル。
目の前の少女の雰囲気からして、彼女が何かを企んでる可能性を考えて、頭を働かせてみているようだ。
しかし、特に気になる様子はなく、レーテルはうなずいた。
すると、赤髪の少女は「そうか」とだけ答え、少しして、砂時計が落ちきる少し手前ぐらいになったぐらいで、彼女はそれをひっくり返した。
そうして、変に時間稼ぎをしない彼女にたいして、レーテルはますます疑問を覚え、さらに彼女について、疑問を深めていく。
と――そのとき、
「うっ……」
唐突に腹部の圧迫が強まり、思わず声を漏らすレーテル。
その様子に、赤髪の少女は苦笑いで、肩をすくめると、
「がんばるなぁ……。してしまえばいいのに」
「い、いや……」
「ぷう~……、っと。やってしまえば、楽になるぞ?」
「で、できるわけ……、ないでしょ」
あおるように言ってくる赤髪の少女に、レーテルはむっとした表情を浮かべる。
それを受け、赤髪の少女が「何でだ?」首をかしげると、
「そ、そりゃあ、そうでしょ……! エンゼルの前で、おならなんて……」
「彼の前? けど、その石が彼だと、完全に決まったわけではないだろう。だというのに、どうしてそうだと言いきれるんだ?」
「……」
赤髪の少女の言葉に、レーテルは黙り込む。
確かに、確証はなく。あくまでも可能性として、それらしい石を選んでいるだけだ。
もし、青い石がエンゼルだった場合を考えて。
赤髪の少女の毒ガスのようなに屁に包まれてる様子を、見て見ぬふりすることは、レーテルにはできなかったのだ。
最初は羞恥心から、目をそむけてしまったが。
そんな自分の選択を後悔するほど、エンゼルを助けたいと、レーテルは思っており。
ただ、一番の理由は。
やはり、赤髪の少女の屁につつまれているのを見て、エンゼルにたいして、あまりにも気の毒すぎると思ったのが、彼女の中で大きかった。
思わず、見て見ぬできなくなってしまうほどに、赤髪の少女の屁が強烈だったのである。
そして、さっきまでの自分の選択に後悔をしたレーテルは、その感情を力にして、ぎゅっと、括約筋に力を入れ、懸命に自分の中の欲求とたたかっていた。
それは、文章にしてみれば、なんともまぬけな様子であるが。
彼女にしてみれば、冗談で済む話ではなく、
「本当に、この青い石がエンゼルなのか……、わからない……。けど、この石を、あなたに渡すわけにはいかないよ……」
「ふぅん……」
レーテルの言葉に、赤髪の少女はそれだけ返すと。
なにやら、考え込むように、あごに手をやった。
そして、何を口にするかと思えば、
「なあ、そういえば。きみの名前は、なんていうんだい?」
「え……?」
何をこんなときに、と言いたげにレーテルは首をかしげる。
それを受け、赤髪の少女は苦笑いを浮かべると、
「いや、なんとなく……、知りたくなってな。ちなみに、私の名前は――ウリム。ウリム・ローアだ」
「……。わ、わたしは……。レーテル・ランバージャック」
赤髪の少女――ウリムからの、唐突な自己紹介に、レーテルは戸惑い、腹部からの欲求に耐えながら答えた。
すると、ウリムは今までにないような、やわらかな、笑みを浮かべ、
「そう……。それじゃあ、レーテル。あと二十分、がんばって」
「え?」
呆然とする、レーテル。
それもそのはず。
今、目の前にいるウリムは、先ほどまでとは打って変わって。
見た目どおり――少女のように、レーテルへ微笑みを向けており、
「悪いことをしたら、罰を受けさせるのが、私のやり方。だけど、それが終われば、仲直りするつもりだよ。だから……、だからね……」
ウリムむはそう言葉を区切ると、なにやらほんのりと顔を赤らめ、言いづらそうに口を開いた。
「これが終わったら……、友達に……、なろう?」
「……」
完全に、言葉を失うレーテル。
そんな彼女の肩の力はすっかりぬけ、だらりと、脱力していき。
そして――「あっ」と、声を上げたころには。
遅かった。
ぷ――っぷううぅぅううううぅぅうう~~……
彼女は、全身の力を抜いてしまったのだろう。
放屁音が――レーテルの尻から鳴り、
「「……」」
黙りこむ二人。
そのまま、じばらくのまがあり――。
「ふっ――」
ウリムが吹き出し、おかしそうに目元を薄め、笑った。
その様子に、レーテルは顔を真っ赤にさせると、
「あっ! ひどい……! そんな、笑うなんて……」
「ご、ごめん……。けど、なんだか、可愛くて……」
「なっ? なにそれ……、なんか複雑だなぁ……」
そう言いつつも、怒っている感じではなく。
レーテルはただただ、複雑そうに顔を真っ赤にした。
と、そのとき。
「――っ」
ウリムの表情が少しだけ、曇る。
その様子に、レーテルが「どうかした?」と、首をかしげると。
ウリムは何かを堪えるように、鼻をつまみ、
「ちょっと……、どういうこと?」
「どういう……? って、ん? もしかして……」
「うん……、臭い……。レーテルってば、本当にこれまで、のまず食わずですごしてたの?」
ウリムが訊くと、レーテルは当然だと言いたげにうなずく。
「そう、なんだけど……。っていうか、本当に、そんな?」
レーテルは、くんくんと鼻をならすと、自分ではわからないのか、首をかしげた。
「ウリムのに比べたら、全然じゃない?」
「まあ……、私のに比べれば、そりゃそうだけど、私のは……、食事が、特殊だから……」
「へえ……」
「っていうか、砂時計。そろそろだね」
ウリムは、そう言って、砂時計をひっくり返すと、
「ほら。あと10分だから、頑張って」
「う、うん……」
あいまいに頷くレーテル。
そんなレーテルの表情に、先ほどまでの緊迫した様子はなく。
その様子に、ウリムが首を傾げる。
「あれ? もしかして、今の一発で、お腹、だいぶ楽になった?」
ウリムが問うと、レーテルはなんともいえないような表情で、お腹をなで、
「そんなこともないんだけどね……。なんていうか……」
レーテルはそう言って――、
ぶうううぅぅうううぅぅぅうううぅぅ~~……
「……」
あっけに取られた様子の、ウリム。
どうみても、レーテルが自分から放屁をしたように、彼女の目に映ったのだ。
そして、それは間違いではないようで、
「もう、いいかな、って……」
レーテルはそう言って、尻の下にある石の位置を、調えると、
むっすううぅううぅううううぅぅうう~~……
再び、放屁した。
今度はすかしの、強烈そうなやつで。
「まあ、ウリムのとは違って、私のは、別に、耐えられるレベルだろうし」
ふっすうううぅぅぅうううぅぅ~~……
そういって、放屁を続けるレーテルに。
ウリムは何も言えずにいた。
彼女に対し、絶句している、とかではなく。
あたりに漂う臭いがあまりにもきつく。
できるだけ呼吸をしないように、ウリムは口をつぐんでいた。
そして、レーテルはどこかぼんやりとした様子で。
独り言をぶつぶついいながら。
やはり恥ずかしいのか、顔は真っ赤で。
うっすらと涙を浮かべながら、放屁を続けた。
その心境がどういったものなのか。
複雑すぎて、本人にすらわかっていない様子で。
そんな時間が10分続き。
そして――。
+ + + + + +
部屋に、二人の姿はなかった。
そして、慌てて空けたかのように、窓とドアが開いており。
その部屋の床には――ブロンドの髪をした少年が。
白目をむき、口からは泡を吹いた状態で。
ぐったりと転がっていたのだった――。
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