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特殊すぎる力
【03】――唯一の弱点
しおりを挟むマニラにつられるようにして、エイキもナルの様子を見る。
「ああ。もしかして、鼻が良すぎるのか?」
「……」
状況を整理するエイキと、ぽかんとするマニラ。
そして、しばらくの沈黙のあと、
「これは。臭いが散らない方法を、考えた方がよさそうね」
「まあ、そっか……。けど散らないようにって、気体だぜ? そんなこと、風向きを考えてやるぐらいしか……」
「できるんだわよ。――あなたの力を使えば、理屈では説明できないようなこともね。まあ、使いこなせればの話だけし、そのためには魔力も溜めなきゃだけど……、それまでは……」
「『リンク』、を使うのか……」
「まあ、あれを使うと、魔力の消費が物凄いことになるわ。けどね、経験はあなたのなかに少しずつ残っていくから、あなたのスキルアップにもなるんだわよ」
「……」
マニラの言葉に、エイキは手をあごにやり、思考する。
「確かに、それはいえてるな……。つまり、成長していくためにも、『リンク』をどんどん使っていったほうがいいのか……」
「だから、ね?」
「ん?」
マニラの言葉にエイキは首をかしげる。
「もう一回『リンク』して、ナルの嗅覚対策を考えましょ」
「ど、どうして……」
エイキはさらに困惑したように言う。
すると、マニラはやれやれと言う風に息を吐いた。
「ナルを――仲間に誘うためよ」
「この子を……?」
エイキの問いに、マニラは「そうだわよ」頷くと、ナルの格好を見ながら答えた。
「この子、見た感じ、たぶん冒険者だわ。だから誘えば、一緒に旅をしてくれるかも」
「なるほど。けど、誘う必要あるか? マニラがいれば、俺は十分だと思うんだけど……」
マニラの説明にエイキは、納得できない様子で疑問の表情を浮べる。すると、マニラは盛大に溜息をはいた。
「あなた。これから、何をしようとしているのか、ちゃんとわかってる?」
「まあ……、だいたいは……」
「なら、その分の力を集めるのに、その……、わたしのぶんだけじゃ、どうしょうもないっていうのも、わかってるわよね?」
「え……、そうなの?」
きょとんとするエイキ。どうやら、マニラの言いたいことをしっかり把握しているわけではなさそうだ。そんな彼の反応を見て、マニラはをげんなりとした調子で答えた。
「そりゃあそうよ。だからそのために、あなたはこれから、仲間を増やしていく努力もしていかないといけないの」
「まじか……」
マニラの言葉に、エイキは思わず肩を落とすと、
「ちなみに、どのくらいの量、必要なんだ?」
「うーん……、なんとも言えないけど……。まあ、一万発ぶんぐらいは、覚悟しておきなさい」
「は……? 一……、え……?」
「まあ、一万は言いすぎ、かな……? けど、そのぐらいの覚悟がないと、これから先、たぶん乗り越えていけないわ……」
声を震わせるエイキに、ちょっと言い過ぎたもしれないと、マニラは声のトーンを落としていく。すると、
「なんだ。――余裕じゃねえか」
エイキはそう言って、にっと笑う。
「へ……?」
今度は、マニラが驚く番だった。
そして、驚きのあまりぽかんとするマニラの目をまっすぐにみて、エイキは言った。
「だったら、しょうがねえな。魔力が心もとないけど、とっとと『リンク』しちまうか」
「……」
「……どうした、マニラ?」
黙りこむマニラの様子に、エイキは眉をひそめるが、マニラは首を横に振ると、
「そうね、『リンク』を……。と、その前に……」
彼女はそう言って、突然くるりとエイキに背を向ける。
そしてエイキは彼女の行動に驚きの声をあげた。
彼女はなんと、スカートをめくっていたのだ。
エイキは慌てて目を閉じると、
「お、おい! まだ目つぶってねえって!」
「あら。スカートの見てしまったからには、その代償は鼻で払ってもらうしかないわね」
「おいおい……」
どっと疲れたように肩を落とすエイキ。
その様子を見て、マニラは試すようにいった。
「こわいなら、やめておく?」
そんな彼女の発言を、エイキは、へっ、と笑って返すと、
「ったく、誰に向かって言ってんだよ……。つうか、マニラの屁なんて、何発食らったどころで、なんとも――」
~ ぷううぅぅ
「……」
マニラの尻から鳴った間の抜けた高音に、エイキは口の動きを止め、ぽかんとし。
少ししてから――無言で目を見開いた。表情だけで、臭いの強烈さが分かるような、気分の悪そうな様子だ。
そんな彼に、マニラは申し訳なさそうな表情を向けると、
「ごめん、我慢できなかったわ。っていうか、下手に我慢すると、引っ込んじゃって出なくなっちゃうから、加減が……、ぁ……」
~ ぼううぅぅ!
「――!?!?」
再びマニラの尻から漏れでた臭いに、エイキのリアクションが大きくなる。
「あれ? なんだか、止まらなく……」
~ ぶびぃ!
「ふん」
~ ばふっ!
「ごめん……、ちょっと出し切っちゃうね……」
マニラは放屁しながら、焦った様子だったが、開き直るように、全てを出し切ろうと、腹に力を込めた。すると――、
~ ふぅ――っしゅううぅぅううぅぅううぅぅ
込めた力とは裏腹に、静かで、勢いのあるすかしっ屁が、マニラの尻から漏れた。そして、連発に加えて、そのねっとりとした尋常ではない臭いに、エイキの意識はぱちぱちとはじけていく。
それでも、片手で自分の膝をつねりながら、懸命にふわふわとゆれるような意識を、懸命につなぎとめていた。
そして、心の中でそっと思う。
――くっっせえええええええええええええええぇぇ!!
だが、それは声に漏れることはなく。
ただただ、エイキは堪え続ける。
この先のことを思い浮かべながら。
はたして、自分は無事に最後まで、旅を終えることができるのだろうかと。
そんな不安の中には、旅自体にたいするものはなく。
ただ、この毒ガスのような空気を吸い続けて。
自分の鼻は。
肺は。
堪えれるのだろうかと。
そんな不安で溢れていた。
彼は物凄い力を持っている。
大抵のことは、全貌《ぜんぼう》の本の一部も見えていない、規格外なその力でどうとでもなるだろう。
ただそんな彼の精神を追い詰めようとるものが一つだけあった。
それは――。
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