手のひらサイズの…

𝐄𝐢𝐜𝐡𝐢

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手のひらサイズのデンパ

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「親友だと見込んで、麻友まゆに、打ち明けたいことがあるんだけど……、いいかな?」

「な、なによ……、急に……。なんだか、そんな風にいわれると、こわいわね……」

 美沙の部屋の中。
 二人は、ベッドの上に腰を下ろし、なにやら会話をしており。
 美沙の真剣なまなざしに、麻友と呼ばれた少女は緊張の面持ちで返事をした。

 彼女はどうやら、美沙の親友のようで。
 穏和そうな美沙に対し、少し目つきのつんとした感じの見た目をしており。
 さらりとした背中ほどまである綺麗な髪が特徴的な少女だった。

「その……、この人形、なんだけど……」

 美沙は言いずらそうに、セミロングの髪をかきながら、デニムのポケットから、例の、手のひらサイズの人形を取り出す。

「なにこれ……。目も口もないし。なんだか、手抜き感がすごいわね……」

「まあ、人形のできはひとまず置いといてよ。本題はそこじゃなくて、この人形の――力、なんだから」

「うわー、力って……。なんだか、不穏な予感がするんだけど……、大丈夫? まさか、オカルトにはまってるとかじゃないわよね?」

 少し引き気味の麻友。
 だが、美沙はその反応を見越していたかのように、冷静な様子で答えた。

「とにかく、色々と思うところがあるとは思うけど。百文は一見にしかずっていうし。麻友、ちょっと――弟のところにいってもらえないかな?」

「ん? 美沙の弟って……」

「うん。今リビングにいるはずだから、ちょっといってきてよ。」
それでね……」

 と――。
 美沙はなにやら企んでいる様子で、麻友との距離をつめる。
 そして、麻友は美沙から、いくつかの指示を受けたあと。
 しぶしぶといった様子で部屋から出て、リビングへと向かったのだった――。

 + + + + + +

 がちゃ……。

「ん? ねえちゃ――。……え?」

 健人はドアの開いた音に振り向き、首をかしげる。
 リビングに姉が入ってきたと思いきや、予想外の人物がそこにいたからだ。
 健人はソファに座ったまま、今までやっていたゲームの電源を切ると、

「あの……。ねえちゃんの……、友達、ですか?」

「う、うん……。麻友って言うんだけど……」

「はあ……。どうも……。ところで、何か用事ですか?」

 疑問の表情を浮かべる健人。
 リビングに姉の友人が入ってくるなんてのは、珍しいのだろう。
 彼は少し驚いているような目をして、麻友に尋ねた。

「ごめんね。ちょっと、美沙から頼まれごとを受けてて……」

「ああ、なるほど……。っていうか、それ……、音楽でも聞いてるんですか?」

 麻友の言葉に納得した様子の健人だったが、彼女に対して、もうひとつ疑問に思っていたことがあったようで。
 彼が自分の耳を、指差しジェスチャーで問うと、

「う、うん……。ちょっと、音楽を……」

 と――誤魔化す麻友。
 その実、麻友の耳に聞こえてきていたのは、

『とにかく、そのまま話をつなげてて』

 美沙の声が、イヤホンから響く。
 ようするに、スマホを通話中にした状態で、彼女とつながっているようだ。
 しかし、麻友は美沙の声には答えず、健人にそれを隠すように――ポケットの中に入れたスマホを、布の上からタップし、音で返事をすると、

「っていうか、それ、なに?」

「え? あ……、いや、ゲームです……。今流行っていて……」

 と、二人が会話を始めたタイミングだった。

『――それじゃあ。そろそろ、やっちゃうね。さっき説明した通りにいくから。引かないでね……』

 美沙の声が、麻友のイヤホンから響き、

 “ぷううぅぅ~~……っ!”

 と、“放屁音”が、麻友の鼓膜を揺らした。
 聞き応えと爽快感があり、なんとも強烈そうな一発。
 だが、麻友はその音に動じることなく。ただただ――健人の様子に、意識を向けていた。
 すると、

「うっ……!」

 唐突に声を詰まらせ、自分の鼻を抑える健人。
 その様子はまさに、美沙の放屁音にたいしての、リアクションでもしているかのような感じで、

「ど、どうしたの?」

 あわてた様子で健人へかけよる麻友。
 健人は具合の悪そうな様子で、顔をあげると、

「いや……、あの……。麻友さんは、なんともないですか?」

「私? いや……、どういうこと?」

 健人の問いに、首をかしげる麻友。
 その様子に、健人は絶望感のあるような表情をうかべると、

「いえ……、なんでもないです……」

「ほら、無理しないで、顔色悪いじゃん。とりあえず、お水もってくるから、ちょっと待ってて」

 麻友はそう言ってキッチンのほうへ向かうと、「このコップつかうね」と健人に断り、中に水道水を入れてから、それを健人のところまで持ってくる。

「あ、ありがとう……、ございます……」

「いいから。無理しないで」

 コップを受け取った健人へ、麻友は心配げな様子で苦笑いを浮かべながら――、

『どう? 健人のやつ、反応してる?』

 イヤホンの声に耳を傾けていた。
 その声に、麻友が『トン』と、タップ音で返事をすると、

『ね、いった通りでしょ? まあ、けど一回じゃ信憑性ないよね。だから……』

 美沙はそう言って、少し黙り、

 “ぶ――ぶぅぅううううぅぅ~~……”

 少し長めの重低音が、イヤホンから、麻友の耳に届く。
 イメージでいうと、茶色の雰囲気が強めな感じで。
 下品に耐性のないひとなら、それだけで吐き気を覚えそうな音であり――、

「――おぉっ! おえぇっ……」

 やはり、美沙の行動が影響しているのか。
 健人の表情がさらに青さを増していく。
 麻友はそんな彼の背を、やさしく察すってやると、

「本当に、具合が悪そう……。ねえ、よかったら聞かせて。どんな風に具合が悪いの……?」

 温かみのある声音。
 その中に、かすかな震えが混じっているのだが。
 健人の耳には、些細な違和感は伝わらなかったようで。
 彼は少し泣きそうな声で、お礼を言うと、

「それが、俺にもわからないんです。最近、突然変な臭いを感じるようになって……。まるで……」

 言いづらそうに口をつぐむ健人。

「変な、ニオイかぁ……。もしかして……、今は、私の体臭とかも、関係したりする?」

「ち、ちがっ!?」

 麻友の声に健人は慌てた様子で声をあげる。

「それはないです! むしろ、麻友さんは、どちらかというと、落ち着くような、良い匂いがするっていうか……。って、そういう話じゃなくて、とにかく、信じてもらえないかもしれないんですけど……」

「そっか……。とりあえず、私が臭いわけじゃないみたいで、よかったけど……。ちなみに、それってどんな匂いがするのか聞いてもいい?」

 動揺する健人にたいし、麻友は少しだけ、距離をつめる。
 まるで、興味津々、といった感じの様子だ。
 健人は彼女の様子に少し疑問を覚えたが、その思考をすぐに外へおいやると、

「え……、と。その……」

「教えて……」

「……」

 言いづらそうな様子の健人。
 だが、言いたくないわけではないようで。
 健人は麻友の言葉に押されるようにして、口を開くと、

「いや、なんていうか……。この頃、なぜか唐突に、卵っぽいような、腐ったような臭いがするんですけど……」

「なるほど。それは……、キツそうだね……」

「……え?」

 きょとんとした様子の健人。
 本当に信じてもらえるとは思っていなかったのだろう。
 わずかながらの期待もって、ようやく口にした言葉が、たやすく受け入れられてしまったことに、驚きを隠せない様子だ。
 だが、実際のところは、そうではなく――、

『ああ……。今、やばいのが……、おりてきちゃったぁ……。たぶん、健人のやつ、ものすごい反応をすると思うから……。ちょっとみてて……』

 と、イヤホンからの、美沙の声。
 麻友はその声に、『トン』とタップで返事をすると――、

「き、急に……、どうしたん、ですか?」

 唐突に、麻友の視線が気になりだす健人。
 そんな彼に対して、確かに麻友の視線には異様な圧力があり、

「とにかく、お大事にね」

「……へ? ……っていうか、麻友さん。何か……、リビングに用事があるって――」

『――ふぅんっ……!』

 “むっすぅぅ――ううぅぅううううぅぅ~~……”

 と、それは。音圧のある、すかしっ屁の音だった。
 いかにも――。といった感じの音で。
 人前でやってやっては被害者が出そうな感じ――などといっては、少し大げさなようだが。
 毒々しいイメージを覚えるような、そんな感じの、気の抜ける音だった。
 そして――。

 + + + + + +

 がちゃ……。

 と、ドアをあけ、麻友は美沙の部屋に入――ろうとして、すぐにでた。
 理由は単純。
 一呼吸で拒否感を覚えるようなほどに、部屋が――臭かったのだ。
 その様子に、美沙が「ちょ、ひどくないっ!?」と外へ出ようとして、

「ちょ、ちょっと! いやいや、冗談じゃないって……!」

「……え? あ、……真面目な感じ?」

 麻友が必死にドアノブを抑えてくるのを感じで、美沙は、すっ、と冷静になる。
 どうやら、臭いの凄さに、出した本人は気づいていなかった様子だ。
 自分のものだからか、あるいは美沙の鼻が悪いのか、わからないが、

「とりあえず。喚起するから、ちょっとまってて」

 美沙が窓を開けに行くと、その様子に、麻友はほっと安堵した。
 そしてそのまま、

「で? どうだった?」

 ドア越しに、美沙が話しかけると。
 少しの沈黙のあと、麻友はおもむろに口を開いた。

「うん……。ちょっと、どきどきした、かも……」

「……」

 黙りこむ、美沙。
 その表情は、なぜか少しだけ嬉しそうで、

「だと思った……」

「……へ?」

「麻友とは、話があうと思ってたんだよね」

「……ひどい。人を何だと思ってたのよ?」

 美沙の言葉に、麻友は不服そうに返す。
 だが、怒気はやんわりとしており、冗談ぽい口調だ。
 その様子に、美沙は「まあまあ……」と肩をすくめると、

「……で?」

「……ん? 何が?」

「健太は……? 今、トイレ?」

「……ふふっ。なんだ、わかってるじゃん」

 そう言って、二人はドア越しに、笑みを交しあったのだった――。
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