悪役のミカタ

𝐄𝐢𝐜𝐡𝐢

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はじまりまして

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「――わかりましたきょうりょくしましょう」

「……ん?」

 ヴェルゼの早口な言葉に、ファーシルが無表情で首をかしげる。
 すると、ヴェルゼはファーシルが手に持ったままの森谷『魔力タンク』を指差して言った。

「その『魔力タンク』に、女の子おならを集めればいいんですよね?」

「……ああ。まあ、そうみたいだ。ちょうど、さっき試してみたところで……嘘でないことは――」

「――てうら――しい」

「「……ん?」」

 またも早口に、ぼそっと喋るヴェルゼに、二人の視線が向く。
 ヴェルゼなにやら、くん、と鼻を鳴らすと、ほんの少しだけ、切なそうな表情をした。
 が、その感情の気配を一瞬で消すと、

「でしたら、わたくしが――集めてきてあげましょう」

 頼もしい笑みを浮べるヴェルゼに、ファーシルが疑問の表情を向ける。

「ヴェルゼ……突然どうしたんだ?」

「――へ? あ、いや……。なにか、変ですか?」

 返答に困っている様子のヴェルゼ。
 目が泳ぐなどはしていないが、なにやらおかしな反応だ。
 それに、ファーシルの言い分はもっともだろう。
 今の話のどこに、彼女にとってのメリットがあったのだろうか。
 もちろん、メリットで動く性格ではない、という線もあるがろうが。

「なあヴェルゼ。念のために聞いておきたいんだが……、何か――企んでおる、なんてことはないよな?」

「い――いえいえ! そんなことあるわけないじゃないですか!」

 訝しげな目を向けるファーシルへ、ヴェルゼは慌てた様子で口を開く。

「あっ――あれです! 先ほどから思っていたのですが……、そ、その少年――モリヤさんから、なにやら不思議な魔力を感じていまして……。協力する代わりに――何かしらの見返りを、と思ったのです」

「ん? おれ? まあ、別にそれはかまわないんだけど……」

 唐突に自分へと向けられた会話に、森谷は戸惑いながら答える。
 すると、ヴェルゼは「ほう」と目を輝かせ、

「それならば、話が早くて助かります。つまり――そういうことなんですよ。企みなど、一切なくてですねぇ。わたくしは――モリヤさんの魔力が目的なんです!」

 彼女はなぜか、ほんの少しだけ息を荒くして言う。
 その言葉に、二人は引っかかりを覚えたような表情を浮べるが、森谷は納得した様子で頬をかくと、

「ま、まあ、いっか……。おれとしては、断る理由なんてないわけだし……」

「むっ、アユミがそう言うのであれば、確かに問題は……ないのか……」

 ファーシルはわだかまりを残しつつも、納得した様子を見せる。
 すると――、

「なるほど、そういう事でしたか」

 ヴェルゼの呟きに視線が集まるが、「ところで」と彼女は話を変えてしまう。

「モリヤさんとしては、ちなみにどれほどの魔力を集めたいと思っているのですか?」

「ああ……うーん。それが……わからないんだ」

「ん? わからないとは、どういうことだ?」

 そう尋ねるファーシルに、森谷は戸惑いの表情を浮べて答えた。

「おれが元いた場所に帰るために……たぶん、必要なんだけど。まだ使い方もわからないし、どのくらいの魔力が必要なのかもわかってない段階なんだよ。けど、諦めたくないし、この力のポテンシャルを、おれは信じたい。だから、それがはっきりするまでは、できる限りの魔力をかき集めるつもりでいるんだけど……」

 森谷の説明に、ファーシルが首をひねる。

「うーん……よくわからん。いや――まあ、力を使って、どこかへ向かおうとしているっていうのはわかるんだが。力を使わなければ帰れない場所って、いったいどこのことを言っているんだ?」

「いや……」

 言葉に詰まる森谷。
 前提として、自分が異世界にいることを理解している、ということがそもそもおかしいのである。
 しかし――そう思うしかない。
 根拠はそれだけであり、本人ですらあやふやな知識をどのように伝えるべきか、森谷は悩む。
 そしておそらく、それを伝えるには、空の上に宇宙があることから説明しなければいけないだろう。
 と、そんなふうに、森谷が思考していると、

「――わかった」

「ん?」

 ファーシルの言葉に、森谷は首をひねる。

「もういい。なにか事情があるのだろう。ならば、また別の時にでも、聞かせてくれ」

「それって……」

「要は、力が集まるまで――どこかへ行く予定はないってことなんだろう?」

「それは……、確かにファーシルの言うとおりなんだけど……」

 明日の予定すらまだ組み立てられていない現状に、森谷の歯切れが悪くなる。
 げんなりする森谷に、ファーシルは言った。

「ならばアユミ、しばらくのあいだ――この城に住んでいかんか?」
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