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はじまりまして
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* 【先送り――<解除>】 *
* 【413】――【412】 *
夜が開け、朝が来る。
異世界であろうと、地球であろうと、それは全く変わらない。
森谷が昨晩借りたその部屋にも、柔らかな日差しが差し込んでいた。
カーテンも窓も開け放たれた外側から、心地よい風が入ってくる。
そして、窓が全開にされているのは、朝の空気を楽しむものではなく――、
「――お、ぐぇっ……」
森谷は力なく、具合の悪そうな声を漏らす。
お酒を飲みすぎた人のそれに近い感じの様子だ。
そして、彼は床を汚していなかったが、それは――力を使い、跡形もなく処理を消したからであった。
真っ青は表情で目を覚ました森谷は、胃の中身を盛大にぶちまけてしまい、人様の家のベッドを汚してしまったことに焦りを覚えたのだが、本日も――ご都合主義といわんばかりに、彼はその力――【クリーン】を会得したのだった。
そのおかげで、森谷の胃の中は空っぽであるが、部屋にはその臭いすらもう残っていない。
森谷はそのことにひとまず安堵するが、具合の悪さはまだ腹の中に残っていた。
「やべぇ……。し、死ぬかと思った……」
彼は辛そうに言うと、なにやら――くくっ、と笑い声を漏らし始める。
変なつぼに入ったときのような、笑い声だ。
「あんなにつらかったはずなのに……。あそこまでやばいって……、逆に面白すぎるだろ……」
森谷はさらに――くくっ、と笑い続ける。
気分が回復したことによる、安堵もあるだろう。
その胸の中を、妙な可笑しさが、満たしていた。
彼はひとしきり笑うと、
「ああ……」
どうしよう――とため息混じりに漏らし、窓の外に目を向ける。
ベッドからでは、窓の下のほうは見れず、森谷の視線の先には、青空が広がっていた。
その心中を埋めるのは、先ほどまで見ていた夢――悪夢のことだ。
彼は夢の中で『魔力タンク』となっていた。
そして、女の子達から、次々と目の前で――屁をこかれまくったのだ。
だが、それがただの夢でなかったことは、【先送り】を使った彼自身がいくわかっている。
森谷が見た夢は恐らく、『魔力タンク』を中心とした――実際にあった出来事なのだ。
その記憶は、夢とは思えないほどに鮮明で、臭いにしても、実際にその場で嗅いでいるかのように彼は感じており、それによる脳震盪の具合までも、彼はきっちりと感じていたのだった。
森谷はその夢の内容を思い出し、ため息をつく。
「こりゃあしばらくは、女の尻への恐怖心が、消えなさそうだな……」
わりと深刻にそう思ってしまうほどに、その悪夢は強烈なものだったようだ。
所詮は――おならだが、その濃度はさまざまで、なかには――“やばいやつ”がある。
それを鼻先どころか、全身を包み込まれるように、嗅がされれば、たまったもんではない。
さらに、『魔力タンク』には、あくまで“微力なものではあるが”、においを吸収する機能も存在する――というのは、彼が夢の中で知った情報であるが。
まるで空気清浄機にでもなったような心地だったと――森谷は夢の内容を思い出し、胃に圧迫感を感じた。
「ただ、頑張った甲斐はあったよな」
と――森谷は自分の中にある魔力に意識を向ける。
* 【412】 *
その内から、たった【1】を使うだけでも、とんでもない奇跡を起こせるのだ。
これだけあれば、どれほどのことができるだろうか。
森谷は期待に胸を膨らませると、心が軽くなっていくのを感じた。
とはいえ、昨日のペースで魔力量を増やされては、精神が持たない――と、彼はほどよく補充してもらえる方法を考えなければという焦りを覚えていた。
もちろん――嗅覚が繋がっていることは、隠す方向でだ。
隠し事をすることへの罪悪感のようなものが、ないわけではないが、世の中には――言わなくてもいいことがある、というのが、彼の考えのようだ。
それに、一発一発は、とても耐えられないようなものではない。
どんなに臭かろうと、一発でへし折れてしまうほど、彼のメンタルはやわではないのである。
加減さえできれば――と、彼は空に浮かぶ雲を眺めながら、ぼんやりと思考していく。
すると――そこに、
* 【412】――【433】 *
「――!?!?」
魔力の変動――つまり、臭いが届いたのだ。
【先送り】が解除されているのだから、それは――直接、来るのであである。
「――がぁっ! ……ぐっ!」
まるで、卵が腐ったように臭いのをおならを、鼻先でかまされたかのよな臭いに、森谷は鼻を押さえ、ベッドの上で悶えた。
叫び声を刈り取るような脳震盪が彼を襲う。
くらっとくる、力の抜けるような苦しみに、最初は跳ね上がっていた体も、すぐにぐったりとする。
「ぁ……。が、あぁ……」
森谷や息を切らし、鼻が回復するのを待った。
しかし、
* 【433】――【456】 *
「――ぁああっ!?」
元気を取り戻したかのようにはねる身体。
しかし、それはすぐにおさまり、服の適当な部分を掴むと、ぎゅっ、と握り、うめき声をもらしながら、再び来た――追撃のような臭いに堪える。
ちなみに、二発目のほうが――臭いは強烈であった。
やはり、臭い濃度と魔力量は――比例しているのかもしれない――と、苦しみと共に、そんな知識が刻み込まれる。
昨日の段階では、魔力変動と、臭いの感覚が別で来ていたため、そこまでの考察はできなったが、今のできごとで、その推測は信憑性が増した。
つまり――魔力変動の感覚をヒントに、補充を加減して【先送り】すれば、苦しみの量も調整できるということだ。
まあ、それが可能かという問題は――解決していないが。
「う、うぅ……。あぁ……」
森谷の声が、少しずつはっきりとしたものになってくる。
そして、まず彼が考えたのは。
一刻も早く――『魔力タンク』を取り返さなければいけない、ということだった――。
* 【413】――【412】 *
夜が開け、朝が来る。
異世界であろうと、地球であろうと、それは全く変わらない。
森谷が昨晩借りたその部屋にも、柔らかな日差しが差し込んでいた。
カーテンも窓も開け放たれた外側から、心地よい風が入ってくる。
そして、窓が全開にされているのは、朝の空気を楽しむものではなく――、
「――お、ぐぇっ……」
森谷は力なく、具合の悪そうな声を漏らす。
お酒を飲みすぎた人のそれに近い感じの様子だ。
そして、彼は床を汚していなかったが、それは――力を使い、跡形もなく処理を消したからであった。
真っ青は表情で目を覚ました森谷は、胃の中身を盛大にぶちまけてしまい、人様の家のベッドを汚してしまったことに焦りを覚えたのだが、本日も――ご都合主義といわんばかりに、彼はその力――【クリーン】を会得したのだった。
そのおかげで、森谷の胃の中は空っぽであるが、部屋にはその臭いすらもう残っていない。
森谷はそのことにひとまず安堵するが、具合の悪さはまだ腹の中に残っていた。
「やべぇ……。し、死ぬかと思った……」
彼は辛そうに言うと、なにやら――くくっ、と笑い声を漏らし始める。
変なつぼに入ったときのような、笑い声だ。
「あんなにつらかったはずなのに……。あそこまでやばいって……、逆に面白すぎるだろ……」
森谷はさらに――くくっ、と笑い続ける。
気分が回復したことによる、安堵もあるだろう。
その胸の中を、妙な可笑しさが、満たしていた。
彼はひとしきり笑うと、
「ああ……」
どうしよう――とため息混じりに漏らし、窓の外に目を向ける。
ベッドからでは、窓の下のほうは見れず、森谷の視線の先には、青空が広がっていた。
その心中を埋めるのは、先ほどまで見ていた夢――悪夢のことだ。
彼は夢の中で『魔力タンク』となっていた。
そして、女の子達から、次々と目の前で――屁をこかれまくったのだ。
だが、それがただの夢でなかったことは、【先送り】を使った彼自身がいくわかっている。
森谷が見た夢は恐らく、『魔力タンク』を中心とした――実際にあった出来事なのだ。
その記憶は、夢とは思えないほどに鮮明で、臭いにしても、実際にその場で嗅いでいるかのように彼は感じており、それによる脳震盪の具合までも、彼はきっちりと感じていたのだった。
森谷はその夢の内容を思い出し、ため息をつく。
「こりゃあしばらくは、女の尻への恐怖心が、消えなさそうだな……」
わりと深刻にそう思ってしまうほどに、その悪夢は強烈なものだったようだ。
所詮は――おならだが、その濃度はさまざまで、なかには――“やばいやつ”がある。
それを鼻先どころか、全身を包み込まれるように、嗅がされれば、たまったもんではない。
さらに、『魔力タンク』には、あくまで“微力なものではあるが”、においを吸収する機能も存在する――というのは、彼が夢の中で知った情報であるが。
まるで空気清浄機にでもなったような心地だったと――森谷は夢の内容を思い出し、胃に圧迫感を感じた。
「ただ、頑張った甲斐はあったよな」
と――森谷は自分の中にある魔力に意識を向ける。
* 【412】 *
その内から、たった【1】を使うだけでも、とんでもない奇跡を起こせるのだ。
これだけあれば、どれほどのことができるだろうか。
森谷は期待に胸を膨らませると、心が軽くなっていくのを感じた。
とはいえ、昨日のペースで魔力量を増やされては、精神が持たない――と、彼はほどよく補充してもらえる方法を考えなければという焦りを覚えていた。
もちろん――嗅覚が繋がっていることは、隠す方向でだ。
隠し事をすることへの罪悪感のようなものが、ないわけではないが、世の中には――言わなくてもいいことがある、というのが、彼の考えのようだ。
それに、一発一発は、とても耐えられないようなものではない。
どんなに臭かろうと、一発でへし折れてしまうほど、彼のメンタルはやわではないのである。
加減さえできれば――と、彼は空に浮かぶ雲を眺めながら、ぼんやりと思考していく。
すると――そこに、
* 【412】――【433】 *
「――!?!?」
魔力の変動――つまり、臭いが届いたのだ。
【先送り】が解除されているのだから、それは――直接、来るのであである。
「――がぁっ! ……ぐっ!」
まるで、卵が腐ったように臭いのをおならを、鼻先でかまされたかのよな臭いに、森谷は鼻を押さえ、ベッドの上で悶えた。
叫び声を刈り取るような脳震盪が彼を襲う。
くらっとくる、力の抜けるような苦しみに、最初は跳ね上がっていた体も、すぐにぐったりとする。
「ぁ……。が、あぁ……」
森谷や息を切らし、鼻が回復するのを待った。
しかし、
* 【433】――【456】 *
「――ぁああっ!?」
元気を取り戻したかのようにはねる身体。
しかし、それはすぐにおさまり、服の適当な部分を掴むと、ぎゅっ、と握り、うめき声をもらしながら、再び来た――追撃のような臭いに堪える。
ちなみに、二発目のほうが――臭いは強烈であった。
やはり、臭い濃度と魔力量は――比例しているのかもしれない――と、苦しみと共に、そんな知識が刻み込まれる。
昨日の段階では、魔力変動と、臭いの感覚が別で来ていたため、そこまでの考察はできなったが、今のできごとで、その推測は信憑性が増した。
つまり――魔力変動の感覚をヒントに、補充を加減して【先送り】すれば、苦しみの量も調整できるということだ。
まあ、それが可能かという問題は――解決していないが。
「う、うぅ……。あぁ……」
森谷の声が、少しずつはっきりとしたものになってくる。
そして、まず彼が考えたのは。
一刻も早く――『魔力タンク』を取り返さなければいけない、ということだった――。
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