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婚約破棄令嬢は王子を略奪したかった。
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「はぁ……」
あたりの空気に私の悩ましげな声が霧散する。
もう、これで溜め息をつくのは何回目だろうか。いい加減、開放されたいのに。
いつまで経っても脳裏に浮かぶのは婚約破棄を宣言されたあの光景。――と、学園の王子様といわれるリリック・シルクロードさまばかり。
風になびく金色の髪、海のように透き通った目。
顔などは精巧なガラス細工のように整っている。
一見細身にも見えるが、身体にはしっかりと筋肉がついている。何度、『あの逞しい腕で抱きしめられたい』と思ったことだろう。
「はぁ……」
また、溜め息が出る。
このままでは前に進むことができない。
今までは婚約者がいたからこの恋心にも蓋をすることができたけど、今は違う。胸の奥に燻っていた熱いものが走り回って、抑えられなくなってしまっている。
ならば、私がとるべき行動はひとつ。
――リリックさまに、告白することだ。
そうと決まったら速かった。婚約破棄後で半ばヤケクソになっていたからかもしれない。
それと、リリックさまに美しく、頭脳明晰で公爵の爵位を持っている婚約者がいたから。
婚約破棄され、私の評判が下がりに下がっているから。
つまり、万にひとつも勝算がないからでもあった。
「リリックさま、少しお時間よろしいでしょうか」
おずおずと、なるべく清楚な印象を与えられるようにと心掛けながら話しかける。
リリックさまはそれに「いいよ」と快く返事してくれた。
それにさえ胸をときめかせそうになった私だが、リリックさまのひととなりを思い出してそれを止める。
リリックさまは学級委員長で、かなり優しいことで知られる。この表情は、私だけのものではないのだ。
多忙ななか、私なんかのことを考えて時間を割いてくれるリリックさま。思わず、罪悪感に近いものが湧き上がった。
今から私がやることは、リリックさまが婚約者から私に鞍替えすることを期待してのこと。
例え、私がそういったことを思っていなくても、そう思われてしまうのは仕方ない。私もそれは理解している。
だからこそ、今すぐにでも土下座したくなってくるのだ。
「で、話ってなにかな?」
俗に『王子様スマイル』と呼ばれる爽やかな笑みを浮かべてリリックさまは口を開いた。
あまり時間を取らせるわけにはいかない。
私は、意を決して固い口を開いた。
「あの――好きです」
ざわざわと、新緑の葉が揺れる。
それと同時に太陽光を反射してリリックさまの黄金の髪が煌めいた。
海色の目が微かに見開かれた。
ドキドキして、『はやく答えてくれ』という想いと『時が止まってしまったらいいのに』という想いが交差する。
そんななか、薄桃色の彼の唇が言葉を紡ぎ出す。
その言葉は。
「ごめん」
という、たった一言だった。
予想していた、何度も思い描いた言葉だ。
だけど、私は無意識のうちに涙を零していた。
「泣かないで。ごめんね。俺を好きになってくれたのは本当に嬉しいんだ。だけど、俺には婚約者がいるし、その子のことが一番好きなんだ」
こくこくと、私は頷いた。
そんなこと、分かりきっていたから。
私が悪いのはわかっているのだ。だから、そんな悲しそうな顔をしないでほしい。
自己中心的極まりない願いが溢れ出す。
私が謝らなければいけないのに、どうしてこの人は本当に悲しそうな顔をしているのだろう。
「わ、私のほうこそ、ごめんなさい」
必死に謝罪の言葉を絞り出した。
それにますます彼は困惑してしまう。端正な顔立ちが悲しそうに歪む。
「い、忙しいですよね。ごめんなさい、私、帰りますね!」
深く、深く頭を下げて逃げるように校舎裏から立ち去る。
しかし、いつまで経っても私だけに向けられた悲しそうな表情が頭から離れなかった。
◇◇◇
次の日から、私はさらに冷たく酷い仕打ちを受けるようになった。
だけど、不思議と私の気分は晴れやかなものへと変わっていた。
あたりの空気に私の悩ましげな声が霧散する。
もう、これで溜め息をつくのは何回目だろうか。いい加減、開放されたいのに。
いつまで経っても脳裏に浮かぶのは婚約破棄を宣言されたあの光景。――と、学園の王子様といわれるリリック・シルクロードさまばかり。
風になびく金色の髪、海のように透き通った目。
顔などは精巧なガラス細工のように整っている。
一見細身にも見えるが、身体にはしっかりと筋肉がついている。何度、『あの逞しい腕で抱きしめられたい』と思ったことだろう。
「はぁ……」
また、溜め息が出る。
このままでは前に進むことができない。
今までは婚約者がいたからこの恋心にも蓋をすることができたけど、今は違う。胸の奥に燻っていた熱いものが走り回って、抑えられなくなってしまっている。
ならば、私がとるべき行動はひとつ。
――リリックさまに、告白することだ。
そうと決まったら速かった。婚約破棄後で半ばヤケクソになっていたからかもしれない。
それと、リリックさまに美しく、頭脳明晰で公爵の爵位を持っている婚約者がいたから。
婚約破棄され、私の評判が下がりに下がっているから。
つまり、万にひとつも勝算がないからでもあった。
「リリックさま、少しお時間よろしいでしょうか」
おずおずと、なるべく清楚な印象を与えられるようにと心掛けながら話しかける。
リリックさまはそれに「いいよ」と快く返事してくれた。
それにさえ胸をときめかせそうになった私だが、リリックさまのひととなりを思い出してそれを止める。
リリックさまは学級委員長で、かなり優しいことで知られる。この表情は、私だけのものではないのだ。
多忙ななか、私なんかのことを考えて時間を割いてくれるリリックさま。思わず、罪悪感に近いものが湧き上がった。
今から私がやることは、リリックさまが婚約者から私に鞍替えすることを期待してのこと。
例え、私がそういったことを思っていなくても、そう思われてしまうのは仕方ない。私もそれは理解している。
だからこそ、今すぐにでも土下座したくなってくるのだ。
「で、話ってなにかな?」
俗に『王子様スマイル』と呼ばれる爽やかな笑みを浮かべてリリックさまは口を開いた。
あまり時間を取らせるわけにはいかない。
私は、意を決して固い口を開いた。
「あの――好きです」
ざわざわと、新緑の葉が揺れる。
それと同時に太陽光を反射してリリックさまの黄金の髪が煌めいた。
海色の目が微かに見開かれた。
ドキドキして、『はやく答えてくれ』という想いと『時が止まってしまったらいいのに』という想いが交差する。
そんななか、薄桃色の彼の唇が言葉を紡ぎ出す。
その言葉は。
「ごめん」
という、たった一言だった。
予想していた、何度も思い描いた言葉だ。
だけど、私は無意識のうちに涙を零していた。
「泣かないで。ごめんね。俺を好きになってくれたのは本当に嬉しいんだ。だけど、俺には婚約者がいるし、その子のことが一番好きなんだ」
こくこくと、私は頷いた。
そんなこと、分かりきっていたから。
私が悪いのはわかっているのだ。だから、そんな悲しそうな顔をしないでほしい。
自己中心的極まりない願いが溢れ出す。
私が謝らなければいけないのに、どうしてこの人は本当に悲しそうな顔をしているのだろう。
「わ、私のほうこそ、ごめんなさい」
必死に謝罪の言葉を絞り出した。
それにますます彼は困惑してしまう。端正な顔立ちが悲しそうに歪む。
「い、忙しいですよね。ごめんなさい、私、帰りますね!」
深く、深く頭を下げて逃げるように校舎裏から立ち去る。
しかし、いつまで経っても私だけに向けられた悲しそうな表情が頭から離れなかった。
◇◇◇
次の日から、私はさらに冷たく酷い仕打ちを受けるようになった。
だけど、不思議と私の気分は晴れやかなものへと変わっていた。
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