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婚約破棄令嬢は月光の元桜散る
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「ごめん、他に恋人が出来たから別れて欲しい」
「えっ?」
「それじゃ」
彼はそれだけを私に言い渡すと、さっさと踵を返してしまった。
私はたった一言で言い表せる『婚約破棄』という事実が受け入れられなかった。
婚約破棄された令嬢には、その後あまりいい縁談は組まれないと聞く。独り立ち出来る手段もあまりない中で、一体私はどうすればいいのだろう。
たった一人、近すぎる距離で絶望をただただ眺めていた。
そんなときだった。
いつものようにいい餌を見つけたと言わんばかりの形相でヒソヒソと悪口を言い合っている上位貴族様を牽制した彼を見かけたのは。
彼の名はズミ。話を聞くところによると上位貴族という訳でもなく、私の家より爵位が下の子爵家だった。
正しいものは正しい、という事実を物怖じもせず言える勇敢な彼に惹かれていった。
私も勇気を出して彼と話し合うことに成功した。
徐々に笑顔を見せてくれる回数も多くなっていくズミに、確かな恋心を見出していた。
どうせ元から壊れているような結婚への道のり、私はついに告白を決めた。
「好きです」
一言だけで私は感情を伝えた。
それ以上語ることもないから。
暗闇の中、満月だけが私たちを照らしていた。
きっと叶うはず、と思っていた。
「あー、ごめん。俺他の学校に婚約者いるんだよね……」
その瞬間、突風が吹いた。
裏庭に咲き誇っていた桜の花びらが風の動きと共に舞い散る。
「それは大変失礼致しました」
偽りの笑顔を浮かべながら謝罪をする。これ以上売女扱いされては精神が持たないかもしれないから、礼儀は弁えていることを示す……が、もう遅いだろう。
そうだよね、子爵家の嫡男なら婚約者くらいいるよね……
「で、でも気持ちは嬉しいから。あと、誰にも言わないから大丈夫だよ?」
彼の優しさに思わず泣きそうになる。
私がこの人の婚約者だったらよかったのに。
私がこの人にとってのヒロインだったらよかったのに。
様々な欲望が私の中で舞い、散っていった。
「……帰るね」
私が泣きそうになっていることを悟ってくれたのか、速やかに退散してくれる彼。
彼の姿が裏庭から消えるとーー
「うっ……うわっ……ああっ……」
ぽつり、ぽつりと涙がこぼれる。
月光に照らされる私と桜の樹。
両者今だけは散りゆくものかもしれない。
だけど、散ったあとには再び花が咲く。
花が咲く未来を願う他、今の私には残されていなかった。
「えっ?」
「それじゃ」
彼はそれだけを私に言い渡すと、さっさと踵を返してしまった。
私はたった一言で言い表せる『婚約破棄』という事実が受け入れられなかった。
婚約破棄された令嬢には、その後あまりいい縁談は組まれないと聞く。独り立ち出来る手段もあまりない中で、一体私はどうすればいいのだろう。
たった一人、近すぎる距離で絶望をただただ眺めていた。
そんなときだった。
いつものようにいい餌を見つけたと言わんばかりの形相でヒソヒソと悪口を言い合っている上位貴族様を牽制した彼を見かけたのは。
彼の名はズミ。話を聞くところによると上位貴族という訳でもなく、私の家より爵位が下の子爵家だった。
正しいものは正しい、という事実を物怖じもせず言える勇敢な彼に惹かれていった。
私も勇気を出して彼と話し合うことに成功した。
徐々に笑顔を見せてくれる回数も多くなっていくズミに、確かな恋心を見出していた。
どうせ元から壊れているような結婚への道のり、私はついに告白を決めた。
「好きです」
一言だけで私は感情を伝えた。
それ以上語ることもないから。
暗闇の中、満月だけが私たちを照らしていた。
きっと叶うはず、と思っていた。
「あー、ごめん。俺他の学校に婚約者いるんだよね……」
その瞬間、突風が吹いた。
裏庭に咲き誇っていた桜の花びらが風の動きと共に舞い散る。
「それは大変失礼致しました」
偽りの笑顔を浮かべながら謝罪をする。これ以上売女扱いされては精神が持たないかもしれないから、礼儀は弁えていることを示す……が、もう遅いだろう。
そうだよね、子爵家の嫡男なら婚約者くらいいるよね……
「で、でも気持ちは嬉しいから。あと、誰にも言わないから大丈夫だよ?」
彼の優しさに思わず泣きそうになる。
私がこの人の婚約者だったらよかったのに。
私がこの人にとってのヒロインだったらよかったのに。
様々な欲望が私の中で舞い、散っていった。
「……帰るね」
私が泣きそうになっていることを悟ってくれたのか、速やかに退散してくれる彼。
彼の姿が裏庭から消えるとーー
「うっ……うわっ……ああっ……」
ぽつり、ぽつりと涙がこぼれる。
月光に照らされる私と桜の樹。
両者今だけは散りゆくものかもしれない。
だけど、散ったあとには再び花が咲く。
花が咲く未来を願う他、今の私には残されていなかった。
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