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02:『私を抱きしめて』
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『私を抱きしめて』
リアナが言い終わった直後に、全身が硬直する。
俺の医師に反して腕が勝手に動き始めた。
彼女の背に腕を回し、抱き寄せる。
細い腰と肩。
髪からほのかに薬草と香料の匂いがした。
「……これも治療か? 昨日までは"椅子から立て"とかの命令だったが」
「仕方ないですよ。これが最も有効な治療法なんですから」
俺は奥歯をかみしめる。
彼女の言う通り、この呪い《絶対服従》に抗う術は、今のところこれしかない。
あの日――半年ほど前。
人族と魔族の長き戦争、その趨勢を決する大規模な戦場だった。
俺は前線の騎士として、魔族の軍勢を迎え撃った。
敵将に座していたのは、常人には倒せぬ高位の魔族。
人の武器や戦術では歯が立たず、魔女だけが討てる存在だった。
魔女は小競り合い程度の戦場には立たない。
高位魔族の討伐が必要なときに呼ばれる、人族の最後の武器だった。
リアナは、俺たちと共に戦った。
忌むべき魔族の技術を操る異端者。その戦い方を初めて間近で見たが、人の世の理を覆すような、神々しさすら感じさせる破壊力だった。
そして、勝利した。
だが、魔族の将は死に際に呪いを放つ。
それが高位魔族の常だった。
放たれた呪詛は対峙していたリアナに向くはずが、なんの因果か最も近くにいた俺に降りかかった。
リアナが咄嗟にその一撃を弾いたようだが、すべてを防ぎきれなかった。
呪いは変質し、『魔力を帯びた声に絶対服従する』という忌まわしい効力を俺の身に刻んだ。
王都へ戻った後、宮廷魔導師たちが総出で治療を試みたがお手上げだった。
魔族の術を使う魔女にしか解除は不可能と判断され、俺はリアナのもとへ送られた。
「嫌がっていますね。いいですね。"あなたの感情"が、解除の鍵なんですから」
リアナの赤い瞳が楽しそうに細められた。
あれから半年。
リアナは俺に様々な『命令』を与えながら呪いの特性を調べ、並行して魔術書と文献の調査を重ねていった。
そして、ついに治療方法が判明した。
命令に抗えば抗うほど、呪いの効力は弱まっていく。
心も体も反発し続けることで、徐々に枷は削られる。
つまり、俺が嫌がり従いたくないと思わせる命令でなければ意味がない。
それを理解して以来、リアナはあえて俺が最も屈辱と羞恥を感じる命令を与えてくる。
リアナは膝の上に乗ったまま、片手を俺の胸に当てて言葉を紡いだ。
「今日は、もう一歩踏み込みましょう、ガレンさん。これから私が言う言葉を、そのまま、繰り返してください」
顔をしかめた俺を見て、リアナは静かに笑った。
「もちろん、命令しますから。あなたの意志では拒否できません。抵抗してくださいね?」
再び魔力を帯びた声を出す。
『私を、恋しいと言いなさい』
「っ……!」
歯を食いしばる。
だが筋肉が逆らえない。喉が熱くひりつき、勝手に口が動く。
「……お、俺は、お前を……恋しいと……思っている」
吐き捨てるように言う。
それが今の俺にできる、精一杯の抵抗だった。
リアナは満足げに微笑んだ。
「いい声。その嫌悪と羞恥が、呪いを弱めていきます」
ゆっくりと、リアナの指先が俺の胸元をなぞった。黒いローブの袖口が肘まで落ち、白く繊細な手がのぞいている。
次の命令が降りた。
リアナが言い終わった直後に、全身が硬直する。
俺の医師に反して腕が勝手に動き始めた。
彼女の背に腕を回し、抱き寄せる。
細い腰と肩。
髪からほのかに薬草と香料の匂いがした。
「……これも治療か? 昨日までは"椅子から立て"とかの命令だったが」
「仕方ないですよ。これが最も有効な治療法なんですから」
俺は奥歯をかみしめる。
彼女の言う通り、この呪い《絶対服従》に抗う術は、今のところこれしかない。
あの日――半年ほど前。
人族と魔族の長き戦争、その趨勢を決する大規模な戦場だった。
俺は前線の騎士として、魔族の軍勢を迎え撃った。
敵将に座していたのは、常人には倒せぬ高位の魔族。
人の武器や戦術では歯が立たず、魔女だけが討てる存在だった。
魔女は小競り合い程度の戦場には立たない。
高位魔族の討伐が必要なときに呼ばれる、人族の最後の武器だった。
リアナは、俺たちと共に戦った。
忌むべき魔族の技術を操る異端者。その戦い方を初めて間近で見たが、人の世の理を覆すような、神々しさすら感じさせる破壊力だった。
そして、勝利した。
だが、魔族の将は死に際に呪いを放つ。
それが高位魔族の常だった。
放たれた呪詛は対峙していたリアナに向くはずが、なんの因果か最も近くにいた俺に降りかかった。
リアナが咄嗟にその一撃を弾いたようだが、すべてを防ぎきれなかった。
呪いは変質し、『魔力を帯びた声に絶対服従する』という忌まわしい効力を俺の身に刻んだ。
王都へ戻った後、宮廷魔導師たちが総出で治療を試みたがお手上げだった。
魔族の術を使う魔女にしか解除は不可能と判断され、俺はリアナのもとへ送られた。
「嫌がっていますね。いいですね。"あなたの感情"が、解除の鍵なんですから」
リアナの赤い瞳が楽しそうに細められた。
あれから半年。
リアナは俺に様々な『命令』を与えながら呪いの特性を調べ、並行して魔術書と文献の調査を重ねていった。
そして、ついに治療方法が判明した。
命令に抗えば抗うほど、呪いの効力は弱まっていく。
心も体も反発し続けることで、徐々に枷は削られる。
つまり、俺が嫌がり従いたくないと思わせる命令でなければ意味がない。
それを理解して以来、リアナはあえて俺が最も屈辱と羞恥を感じる命令を与えてくる。
リアナは膝の上に乗ったまま、片手を俺の胸に当てて言葉を紡いだ。
「今日は、もう一歩踏み込みましょう、ガレンさん。これから私が言う言葉を、そのまま、繰り返してください」
顔をしかめた俺を見て、リアナは静かに笑った。
「もちろん、命令しますから。あなたの意志では拒否できません。抵抗してくださいね?」
再び魔力を帯びた声を出す。
『私を、恋しいと言いなさい』
「っ……!」
歯を食いしばる。
だが筋肉が逆らえない。喉が熱くひりつき、勝手に口が動く。
「……お、俺は、お前を……恋しいと……思っている」
吐き捨てるように言う。
それが今の俺にできる、精一杯の抵抗だった。
リアナは満足げに微笑んだ。
「いい声。その嫌悪と羞恥が、呪いを弱めていきます」
ゆっくりと、リアナの指先が俺の胸元をなぞった。黒いローブの袖口が肘まで落ち、白く繊細な手がのぞいている。
次の命令が降りた。
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