1 / 9
01:治療の始まり
しおりを挟む
忌々しい魔女の家は森の中にあり、春の昼下がりだというのに室内は肌寒い。
「椅子に座って、ガレンさん」
部屋の入口に立つ俺の背後から、女の声がかかった。高く澄んでいるが抑揚がない声。
続けざま、同じ温度の言葉が肩越しに飛ぶ。
「どうしましたか? 今日も実験をしますよ」
声の主――リアナは俺の脇をすり抜け、そのまま部屋の中央へ進んだ。
銀髪が腰まで流れた後ろ姿、繊細な銀細工を思わせるそれが、歩くたびに背中で静かに揺れる。
彼女は部屋の中央に立ち、俺を振り返った。
額から頬骨のラインは細く整い、肌は硝子を透かしたように白い。
彼女を形作る銀世界の中で、炎を映した宝石のような赤い瞳が鮮烈に輝いている。
厚手の黒いローブは、胸元を押し上げる起伏が見て取れる。女の柔らかさを示す輪郭。
だが、この女がいくら魅力的な外見と肉体を持っていようと、俺にとっては無価値だ。
魔女リアナ。
銀髪と赤眼が示すとおり、彼女は魔女だ。
人族でありながら、敵対する魔族の魔法を操る、忌むべき存在。
いくら魅力的に見えようと、魔女に欲など抱くはずがない。
「ガレンさん、こちらへ」
リアナは肩にかかる髪を手で払い、目線で丸椅子を示す。
「……わかってる」
短く息を吐き、覚悟を決める。
この部屋に入るのはもう何度目だろう。
それでも足を踏み入れるたび、無意識に手が剣の柄を探る。……もちろん、今は剣など持ち込めるはずもないが。
部屋の中はさほど広くない。
床と壁は板張りで飾り気がなく、本棚が壁際に並ぶだけだ。
棚には古びた魔導書が隙間なく並び、どの背表紙にも俺には読めない魔族の文字が刻まれていた。
硝子瓶に詰められた薬草と鉱石が、棚の上に整然と並べられている。
リアナの横にある丸椅子に腰を下ろし、拳を膝に置いて背筋を伸ばす。
「体調は?」
「問題ない。さっさと始めろ」
床を睨んだまま低い声でうながす。
リアナは背後へ回り、両手を俺の肩に置いた。
「剣の柄を探す癖、まだ抜けませんね。こんなにも献身的に治療しているのに、さみしいことです」
「……傭兵上がりの騎士に気遣いを求めるな」
「ふふ、怖い声で言わないで」
笑いながら指先が首筋を滑り、指の背で俺の顎を持ち上げた。
「下を向いていては実験になりません。まっすぐ、前を向いて」
耳元へ唇を寄せられ、吐息が触れる。
俺はうながされるまま、正面を向く。
リアナは息を吸い、魔力を込めた声で告げた。
『動かないで』
その瞬間、全身が凍りついた。
腕も、足も、首さえ動かない。意志は残っているのに、筋肉が言うことを聞かなくなる。
あの忌まわしい呪いだ。
後頭部に柔らかなふくらみが押し付けられた。白く細い腕が俺の横から伸びて、手のひらが胸板に触れる。
「ほら、あなたの大嫌いな魔女が、こんなにも近くにいますよ。逃げないと」
「……やってる」
「声が怖いですよ。これは治療なんですから、怒らないで」
首に腕が絡められ、そのまま俺の正面へと回り込みーーためらう様子もなく膝の上にまたがった。
やわらかな感触と、確かな重みが太腿にのしかかる。
首に回された腕に力が込められて、リアナの体が密着した。
腹がぴったりとくっつき、豊かな胸がローブ越しに密着する。
「どうしました?」
リアナが俺を覗き込むように上目遣いでたずねる。
俺がとがめるよりも前に、リアナは次の命令をくだす。
「椅子に座って、ガレンさん」
部屋の入口に立つ俺の背後から、女の声がかかった。高く澄んでいるが抑揚がない声。
続けざま、同じ温度の言葉が肩越しに飛ぶ。
「どうしましたか? 今日も実験をしますよ」
声の主――リアナは俺の脇をすり抜け、そのまま部屋の中央へ進んだ。
銀髪が腰まで流れた後ろ姿、繊細な銀細工を思わせるそれが、歩くたびに背中で静かに揺れる。
彼女は部屋の中央に立ち、俺を振り返った。
額から頬骨のラインは細く整い、肌は硝子を透かしたように白い。
彼女を形作る銀世界の中で、炎を映した宝石のような赤い瞳が鮮烈に輝いている。
厚手の黒いローブは、胸元を押し上げる起伏が見て取れる。女の柔らかさを示す輪郭。
だが、この女がいくら魅力的な外見と肉体を持っていようと、俺にとっては無価値だ。
魔女リアナ。
銀髪と赤眼が示すとおり、彼女は魔女だ。
人族でありながら、敵対する魔族の魔法を操る、忌むべき存在。
いくら魅力的に見えようと、魔女に欲など抱くはずがない。
「ガレンさん、こちらへ」
リアナは肩にかかる髪を手で払い、目線で丸椅子を示す。
「……わかってる」
短く息を吐き、覚悟を決める。
この部屋に入るのはもう何度目だろう。
それでも足を踏み入れるたび、無意識に手が剣の柄を探る。……もちろん、今は剣など持ち込めるはずもないが。
部屋の中はさほど広くない。
床と壁は板張りで飾り気がなく、本棚が壁際に並ぶだけだ。
棚には古びた魔導書が隙間なく並び、どの背表紙にも俺には読めない魔族の文字が刻まれていた。
硝子瓶に詰められた薬草と鉱石が、棚の上に整然と並べられている。
リアナの横にある丸椅子に腰を下ろし、拳を膝に置いて背筋を伸ばす。
「体調は?」
「問題ない。さっさと始めろ」
床を睨んだまま低い声でうながす。
リアナは背後へ回り、両手を俺の肩に置いた。
「剣の柄を探す癖、まだ抜けませんね。こんなにも献身的に治療しているのに、さみしいことです」
「……傭兵上がりの騎士に気遣いを求めるな」
「ふふ、怖い声で言わないで」
笑いながら指先が首筋を滑り、指の背で俺の顎を持ち上げた。
「下を向いていては実験になりません。まっすぐ、前を向いて」
耳元へ唇を寄せられ、吐息が触れる。
俺はうながされるまま、正面を向く。
リアナは息を吸い、魔力を込めた声で告げた。
『動かないで』
その瞬間、全身が凍りついた。
腕も、足も、首さえ動かない。意志は残っているのに、筋肉が言うことを聞かなくなる。
あの忌まわしい呪いだ。
後頭部に柔らかなふくらみが押し付けられた。白く細い腕が俺の横から伸びて、手のひらが胸板に触れる。
「ほら、あなたの大嫌いな魔女が、こんなにも近くにいますよ。逃げないと」
「……やってる」
「声が怖いですよ。これは治療なんですから、怒らないで」
首に腕が絡められ、そのまま俺の正面へと回り込みーーためらう様子もなく膝の上にまたがった。
やわらかな感触と、確かな重みが太腿にのしかかる。
首に回された腕に力が込められて、リアナの体が密着した。
腹がぴったりとくっつき、豊かな胸がローブ越しに密着する。
「どうしました?」
リアナが俺を覗き込むように上目遣いでたずねる。
俺がとがめるよりも前に、リアナは次の命令をくだす。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる