異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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炭鉱の街アスタリア

熾烈な戦い

 これまでとは異なる難敵を前に緊張と興奮が高まる。
 リリアとクリストフがいるおかげなのか、不思議と不安はなかった。
 眼前に迫る魔鉱体に対しても気の抜けない状況だった。
 
 クリストフが投石で注意を引いている隙を突いて、魔鉱体へと魔法を繰り出す。 
 コレット師匠直伝の無詠唱――精度を高めた雷属性の魔法。
 それを魔鉱体の関節の継ぎ目を狙って放つ。
 
 いくらかの手応えはあるが、深くは通らない。
 どうやら、魔力への耐性があるようだ。

「マルクさん、左から!」

 リリアの叫びに反応し、身を低くして転がるように回避する。
 直後、魔鉱体の前脚が地面を砕く音が響いた。
 砕けた岩の破片がリリアに向かうのが見えた。

「下がって!」

 声を張って、すぐさま魔法を放つ。
 岩片を打ち払って逸らし、そのまま魔鉱体の顎元に突き刺さった。
 硬い金属音と内部から漏れるような呻きが交じった。

 それを合図に背後からクリストフが駆け出していた。
 鉄製の杭のようなものを構えて、胴体の継ぎ目に突き立てた。
 激しく火花が散るが、魔力なしの攻撃では決定打にならないようだ。

「リリア、あれを!」

「ちょっと待って!」

 リリアは腰の袋をかき回す。
 取り出したのは、灰のような粉だった。
 あらかじめ用意していたのだろうか。 

「これを撒けば、動きが鈍るはず」

「さあ、撒いて!」

 リリアとクリストフが作戦を進める中、 魔鉱体の視線を引くように小規模の魔法をぶつける。
 魔鉱体はこちらに向き直り、断続的にうなる。
 その低音は異界の裂け目から流れ出す音と混ざり合い、耳の奥にこびりついた。

 リリアが灰を撒くと、白い煙が魔鉱体の周囲を包み始める。
 その瞬間、魔鉱体の動きがわずかに鈍った。
 体表を流れる赤黒い光も薄れ、脚の動きがぎこちなくなる。

「今だ!」

 俺は魔力の残量に注意しながら、威力を高めた雷撃魔法を放った。
 煙の向こうの魔鉱体の関節を射抜くように稲光が走る。

 鈍い破裂音の後に体液のような液体が吹き出した。
 魔鉱体がぐらりと揺れ、前脚が崩れ落ちる。
 重い胴の部分が落下したことで地響きが坑道全体に広がる。

「よし、動きが止まった!」

 クリストフが手にした杭を支えのようにしながら言った。
 彼の呼吸は乱れており、額には汗が浮かんでいた。
 俺もに似たような状態だ。
 煙と粉塵を吸いこみ、息を整えるだけでも必死だった。

 だが、その静けさは長く続かなかった。

 坑道の奥──異界の裂け目の方から、かすかな風が吹いた。
 それは風というよりも、空気の圧が変わるような感覚だった。

 ふと気づけば、裂け目の輪郭が微かに脈打ち始めていた。
 黒い縁がまるで生き物の皮膚のように蠢いている。
 こんなにも不吉さを抱かせる生命感を初めて目にした。

「……今の、見ました?」

「裂け目が……広がってる?」

 リリアが戸惑いがちに言った。
  
 魔鉱体が倒れたことで空気が一層重たくなっている。
 まるで坑道全体が何かを押し出そうと膨張しているような圧力だ。

 足元には、かつて鉱夫が残した道具やヘルメットが転がっている。
 だが、それ以上に不自然なのは──地面にうっすらと浮かぶ光の線だ。

「これは……」

 その線は魔鉱体の体内から流れ出た液体の周囲に集まり、まるで魔法陣のような模様を描いていた。
 リリアがその中心に近づきかけたところで、クリストフがとっさに肩をつかんで止めた。

「そこ、踏まないように……何かが起きてる」

 リリアは息を呑み、数歩下がった。

 その瞬間、模様が一斉に光を放った。
 俺たちは反射的に身をかがめる……だが爆発も衝撃もない。
 ただ、光が空間を縫うように走り、裂け目の内部へと流れこんでいく。

 裂け目が……開いた。
 直感的にそう捉えた。

 口を開いたというより、「大きく裂けた」とでも表現すべき不快な現象だった。
 一向に奥は見えない。
 ただ、凍るような風と腐臭とは異なる焦げたような匂いが鼻腔を刺す。

「作業層へ、つながってる……?」

 リリアが絞り出すように言った。
 俺は目を細めて、奥を見つめた。
 光の道が裂け目の底へと続いている。

「このままじゃ、異界そのものが広がってしまう」

 クリストフが短く言った。
 魔法が使えずとも勘が鋭いところがある。

「塞げると思います?」

「無理に閉じれば、こっちが巻き込まれる。けれど──」

「確認するしかない、ですね」

 俺はホーリーライトにこめる魔力を強くした。
 淡い光が裂け目の前で脈動する空気を照らしている。

 リリアが目を見開いて、俺を見た。

「もしかして、行くつもりですか?」

「誰かが見てこないと被害は広がるし、魔鉱体以外にも何かあるかもしれません」

 リリアはしばらく黙っていたが、やがて首を縦に振った。

「じゃあ、私も行きます。調査はまだ途中ですから」

 クリストフがやれやれとうんざりした顔で言った。
 俺とリリアの決断に呆れているようにも見える。

「まったくしょうがないな。僕も行くよ」

 そう言って、もう一度ショートソードを手にした。
 俺たちはお互いに誰も止めなかった。
 こうして裂け目の奥、作業層へと続く闇へと足を踏み入れた。

 それが、何かを取り返しのつかない場所へ運ぶのだとしても──今は、確かめておくべきだと決めたのだ。
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