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リブラとフレヤ
久しぶりの焼肉屋
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翌朝、まだ陽が昇りきらない時間に目を覚ました。
長旅の疲れはあったものの、身体は自然と早く動き出す。
バラムに帰ってきたという安堵感、久しぶりに自分の店に顔を出す期待感が眠気を上回るような状態だった。
出発の準備を整えて家を出る。
久しぶりの我が店ということで、持ちものを決めるのに時間がかかった。
朝の空気はひんやりと澄んでいて、鼻に抜ける風が心地よい。
街道を歩き慣れた足取りで石畳を進むと、目になじんだ店の前にたどり着いた。
焼肉屋の木製の看板は、俺がいない間も傷一つなく保たれている。
軒先に吊るされた灯りは消え、まだ眠っているように静かな佇まいを見せていた。
「……少し早く来すぎたな」
何気なく、声に出してつぶやいた。
まだ開店準備の時間には早い。フレヤもシリルも来ていないのだろう。
一人で切り盛りしていた頃の癖が自然に戻ってくる。
まずは掃除だな――そう思い、軒先にある掃除用具入れを覗きこんだ。
中は驚くほど整っていた。
ほうきも雑巾も、使いやすいようにまとめられている。
俺がいなくても、彼らがしっかり管理してきた証だろう。
「……大したもんだ」
思わず独り言が漏れる。胸の奥にじんわりとした温かさが広がった。
ほうきを手に取り、店の前を掃き始める。
乾いた音が石畳に響き、舞い上がる埃が朝の光に溶けていく。
通りを行く人々がちらりとこちらを見て、親しげな笑みを浮かべる人もいた。
俺が戻ってきたことを、言葉にせずとも気づいてくれているのかもしれない。
店の前を一通り掃き終えた頃だった。
背後から聞き慣れた声がした。
「えっ、マルクさん……?」
振り返ると、シリルが立っていた。
まだ眠そうな顔に驚きが混じっている。
「おっ、久しぶり。店を任せっぱなしにして悪かったよ」
「そんなことありません」
シリルは慌てて首を振った。
その仕草に、彼の真面目さがにじみ出ていた。
「お店のことを話したいんですが、日課があるので。よかったら一緒に来てください」
「えっ、日課?」
「はい、こちらです」
シリルに促されて店の裏手に回る。
そこで目にしたのは、木のテーブルに並べられた数種類の小鉢だった。
醤油や味噌、香辛料が調合されている。
シリルは匙を手に取り、真剣な顔つきで一つひとつ味を確かめていた。
「これは……」
「タレの試作です。毎朝少しずつ味を調えて、勉強してるんです」
照れくさそうに笑いながら説明するシリル。
その姿に自然と誇らしい気持ちになる。
「真面目にやってるな。何も言うことなんてないみたいだ」
「ありがとうございます」
シリルは深々と頭を下げたが、その目には自信の光が宿っていた。
顔つきも最後に会った時よりも引き締まっているように見える。
「よかったら、どうぞ」
勧められて試作のタレを少し口にする。
醤油ベースに香辛料の香りが重なり、舌の上で広がる。
まだ荒削りだが、確かに工夫の跡が感じられた。
「なるほど、だいぶ研究してるのが分かる味だ」
「ええ、でもまだ納得はいっていません。もっと味に深みを出せたらと思って」
シリルはそう言って肩をすくめる。
焼肉屋での日々が充実していることが伝わってきた。
話を聞くうちに、店の現状についても自然と会話が広がっていった。
売上は俺が留守の間も好調で、新しい客も増えているという。
「そういえば……マルクさんに報告しておかないといけないことがあるんです」
シリルの顔に少し影が差した。
俺が黙って先を促すと、彼は言いにくそうに口を開いた。
「実は……氷の魔導石の冷蔵庫を導入しました。無断で決めてしまってすみません」
申し訳なさそうに視線を落とすシリル。
その背筋には緊張が走っているのが伝わった。
「ああ、そんなことか」
俺は思わず笑みをこぼした。
「気にしなくていい。それぐらいの判断は必要だろう。むしろ助かるよ」
「ですが……」
「俺ならそう言うだろうって、フレヤが言ったんだろ?」
シリルは驚いたように顔を上げ、そして苦笑いを浮かべた。
「……はい。まさにその通りです。フレヤがきっと許してくれるし、むしろ喜ぶだろうって」
「さすがだな。フレヤの判断は正しい」
胸の奥に温かなものが広がった。
俺のいない間も、彼らはしっかりと考えて動いてくれていたのだ。
「ありがとう。二人がいてくれて、本当に助かる」
そう告げると、シリルは照れくさそうに頭をかいた。
だが、その瞳は誇らしげに輝いていた。
ちょうどその時、店の表から元気な声が聞こえてきた。
「おーい、シリル! あれ、マルクもいるの?」
フレヤだった。いつもの快活な笑みを浮かべながら、籠いっぱいの野菜を抱えている。
市場で仕入れをしてきたのだろう。
「戻ってきたなら言ってよ。朝一番で顔を見せに来るなんて、ほんと真面目なんだから」
軽口を叩きながら、俺に籠を差し出す。
その中には瑞々しい玉ねぎやピーマンがぎっしり詰まっていた。
「新しい仕入れ先を見つけたの。ちょっと変わった野菜もあるから、後で試してみて」
「すごく助かる。フレヤもよく動いてくれてるみたいだ」
「当然でしょ。マルクの店なんだから、しっかり守っていかないと」
冗談めかして言う彼女の目は、どこか誇らしげだった。
朝の空気の中、タレの香りと新鮮な野菜の匂いが混じり合う。
久しぶりに店に戻った実感が、じんわりと体に染みていく。
ここでまた新しい日々が始まるのだ――そう思うと、自然と背筋が伸びた。
長旅の疲れはあったものの、身体は自然と早く動き出す。
バラムに帰ってきたという安堵感、久しぶりに自分の店に顔を出す期待感が眠気を上回るような状態だった。
出発の準備を整えて家を出る。
久しぶりの我が店ということで、持ちものを決めるのに時間がかかった。
朝の空気はひんやりと澄んでいて、鼻に抜ける風が心地よい。
街道を歩き慣れた足取りで石畳を進むと、目になじんだ店の前にたどり着いた。
焼肉屋の木製の看板は、俺がいない間も傷一つなく保たれている。
軒先に吊るされた灯りは消え、まだ眠っているように静かな佇まいを見せていた。
「……少し早く来すぎたな」
何気なく、声に出してつぶやいた。
まだ開店準備の時間には早い。フレヤもシリルも来ていないのだろう。
一人で切り盛りしていた頃の癖が自然に戻ってくる。
まずは掃除だな――そう思い、軒先にある掃除用具入れを覗きこんだ。
中は驚くほど整っていた。
ほうきも雑巾も、使いやすいようにまとめられている。
俺がいなくても、彼らがしっかり管理してきた証だろう。
「……大したもんだ」
思わず独り言が漏れる。胸の奥にじんわりとした温かさが広がった。
ほうきを手に取り、店の前を掃き始める。
乾いた音が石畳に響き、舞い上がる埃が朝の光に溶けていく。
通りを行く人々がちらりとこちらを見て、親しげな笑みを浮かべる人もいた。
俺が戻ってきたことを、言葉にせずとも気づいてくれているのかもしれない。
店の前を一通り掃き終えた頃だった。
背後から聞き慣れた声がした。
「えっ、マルクさん……?」
振り返ると、シリルが立っていた。
まだ眠そうな顔に驚きが混じっている。
「おっ、久しぶり。店を任せっぱなしにして悪かったよ」
「そんなことありません」
シリルは慌てて首を振った。
その仕草に、彼の真面目さがにじみ出ていた。
「お店のことを話したいんですが、日課があるので。よかったら一緒に来てください」
「えっ、日課?」
「はい、こちらです」
シリルに促されて店の裏手に回る。
そこで目にしたのは、木のテーブルに並べられた数種類の小鉢だった。
醤油や味噌、香辛料が調合されている。
シリルは匙を手に取り、真剣な顔つきで一つひとつ味を確かめていた。
「これは……」
「タレの試作です。毎朝少しずつ味を調えて、勉強してるんです」
照れくさそうに笑いながら説明するシリル。
その姿に自然と誇らしい気持ちになる。
「真面目にやってるな。何も言うことなんてないみたいだ」
「ありがとうございます」
シリルは深々と頭を下げたが、その目には自信の光が宿っていた。
顔つきも最後に会った時よりも引き締まっているように見える。
「よかったら、どうぞ」
勧められて試作のタレを少し口にする。
醤油ベースに香辛料の香りが重なり、舌の上で広がる。
まだ荒削りだが、確かに工夫の跡が感じられた。
「なるほど、だいぶ研究してるのが分かる味だ」
「ええ、でもまだ納得はいっていません。もっと味に深みを出せたらと思って」
シリルはそう言って肩をすくめる。
焼肉屋での日々が充実していることが伝わってきた。
話を聞くうちに、店の現状についても自然と会話が広がっていった。
売上は俺が留守の間も好調で、新しい客も増えているという。
「そういえば……マルクさんに報告しておかないといけないことがあるんです」
シリルの顔に少し影が差した。
俺が黙って先を促すと、彼は言いにくそうに口を開いた。
「実は……氷の魔導石の冷蔵庫を導入しました。無断で決めてしまってすみません」
申し訳なさそうに視線を落とすシリル。
その背筋には緊張が走っているのが伝わった。
「ああ、そんなことか」
俺は思わず笑みをこぼした。
「気にしなくていい。それぐらいの判断は必要だろう。むしろ助かるよ」
「ですが……」
「俺ならそう言うだろうって、フレヤが言ったんだろ?」
シリルは驚いたように顔を上げ、そして苦笑いを浮かべた。
「……はい。まさにその通りです。フレヤがきっと許してくれるし、むしろ喜ぶだろうって」
「さすがだな。フレヤの判断は正しい」
胸の奥に温かなものが広がった。
俺のいない間も、彼らはしっかりと考えて動いてくれていたのだ。
「ありがとう。二人がいてくれて、本当に助かる」
そう告げると、シリルは照れくさそうに頭をかいた。
だが、その瞳は誇らしげに輝いていた。
ちょうどその時、店の表から元気な声が聞こえてきた。
「おーい、シリル! あれ、マルクもいるの?」
フレヤだった。いつもの快活な笑みを浮かべながら、籠いっぱいの野菜を抱えている。
市場で仕入れをしてきたのだろう。
「戻ってきたなら言ってよ。朝一番で顔を見せに来るなんて、ほんと真面目なんだから」
軽口を叩きながら、俺に籠を差し出す。
その中には瑞々しい玉ねぎやピーマンがぎっしり詰まっていた。
「新しい仕入れ先を見つけたの。ちょっと変わった野菜もあるから、後で試してみて」
「すごく助かる。フレヤもよく動いてくれてるみたいだ」
「当然でしょ。マルクの店なんだから、しっかり守っていかないと」
冗談めかして言う彼女の目は、どこか誇らしげだった。
朝の空気の中、タレの香りと新鮮な野菜の匂いが混じり合う。
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