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王都出立編
ブルームへの回答
明けて翌日。自宅を出ていつものように店に向かった。
敷地の一角ですでに待っているジェイクの姿があった。
「おはようございます。今日も早いですね」
「気になったんだが、王都に行く件はどうするつもりだ?」
「行くことに決めました。俺が留守の間、店を頼もうと思います」
「そうか、任せてくれ」
ジェイクはしっかりした声を出し、頼もしい様子だった。
ぶっきらぼうなところはあるが、積極的な姿勢はいい方に作用するはずだ。
「どれぐらいで店のことを覚えられそうですか?」
「三日ほどあれば問題ない。調理の作業とここに来る客についても学びたい」
「分かりました。それでいきましょう」
俺の言葉にジェイクはまっすぐな瞳で見つめ返した。
お客について関心を示していることはいい兆候だろう。
重要なことがまとまって、ホッとするような気持ちになる。
「今日はそんなに落ちてないですけど、まずは掃除から始めますか」
「承知した」
前回と同じようにジェイクにほうきを渡して、自分はテーブル周りの手入れから始めることにした。
始める前に様子を見てみると、そこまで汚れは目立たなかった。
店を開く日には開店前と閉店後にきれいにしているからだろう。
手が空いたのでジェイクの方に戻ってみると、掃きそうじを終えるところだった。
「あっという間に終わってしまったが、こんなものでいいか?」
「ゴミが少ないに越したことはないので、これでよしとしましょう」
二人で集めたゴミを片づけてから、今日の仕込み作業をすることにした。
俺とジェイクは店の外から店内の調理場に向かった。
簡易冷蔵庫を覗けば熟成させるために置いてあった肉が目に入る。
セバスに勧められて仕入れた牛バラ肉だった。
電動の冷蔵庫ほど低温ではないので、そろそろ使いたいところだ。
俺は牛バラ肉のブロックを取り出して、まな板の上に置いた。
「今日はこの肉を使いたいと思います」
「なかなかの脂身だ。よかったらオレに切らせてほしい」
「そうですね。慣れるためにもどうぞ」
ジェイクは店の包丁を手にして、まな板の前に立った。
その視線は肉に向けられており、真剣な様子が伝わってきた。
「焼肉に合わせた大きさに切ればいいか?」
「はい、好きなように切ってみてください」
ジェイクはブロック肉をいくつかの塊に切り分けると、その塊を一枚ずつ切り身に仕上げていく。
彼の包丁捌きを見るのは二度目だったが、手際のよさに目を奪われた。
自己流でやっていた俺とは異なり、型があるような安定感がある。
ジェイクの動きを観察していると、驚きの速さで作業が完了した。
「こんなところか。確認を頼む」
「はい」
ブロックだった牛バラ肉が切り分けられて、等間隔で皿に並んでいた。
断面は滑らかできれいに整っている。
「スピードと正確さの両方とも完璧ですね」
「それはよかった」
ジェイクは自分の技術に自信を持っているのかと思ったが、俺の言葉を聞いて安心するような表情を見せた。
「肉の厚さは火の通りとタレの絡みやすさが重要ですけど、この厚さならばっちりです」
「オレの計算で合っていたようだな。この肉を美味しく食べるにはこれが最善だと思った」
「もう少し厚くしてしまうと、歯ごたえが強すぎますよね。二回目でここまで考えられるのはすごいです。残りの塊も同じように頼みます」
俺はジェイクに肉を切り分ける作業を任せて、タレの準備をすることにした。
昨日は甘さと辛さが中間のタレを出したが、今日は別のものにしたい。
店内のタレが入った壺の中身を一つずつ確かめながら、メニューを考える。
積極的にタレを選ぶ気分にならず、何か別の食べ方にした方がいいかもしれない。
塩で食べる塩焼肉はバラ肉と相性がいいものの、何回も続けたら、お客を飽きさせてしまう。
それならば、塩と香辛料を混ぜたスパイスソルトみたいな調味料はどうだろう。
俺は細かく砕いた岩塩を少し掴むと、取り皿に使っている小皿に散らした。
それから、完成形をイメージしながら、いくつかの香辛料を足していく。
「うん、これならいけるか」
試しに味を確かめてみると、程よい辛味が食欲を刺激する味わいだった。
完成した調味料の感想をジェイクにたずねてみることにした。
「今日はこれでいこうと思うんですけど、味を見てもらえますか」
「ああ、問題ない」
ジェイクは作業の手を止めてから、俺が用意した小さじで調味料を口にした。
「この肉に合いそうだ。ほのかに香る柑橘のような風味がいいな」
「乾燥させた果皮が少し入っているからですね」
「辛味だけでなく、味わいにアクセントがあるのは優れた工夫だ」
ジェイクのような一流の料理人に認められるのはうれしかった。
今日はこの調味料をつける食べ方でいこう。
ジェイクが肉を切り、俺が味つけの部分を決める分業方式で進めたので、仕込みは短い時間で完了した。
店を開くまでに時間の余裕があるので、残りの時間はジェイクに仕事の流れを説明するとしよう。
それから、お客との接し方、店の普段の様子など、必要だと思うことを説明していると、すぐに昼時になった。
俺とジェイクが店内から外に出ると、通りの向こうからブルームが近づいてくるのが見えた。
ブルームの姿を目にした後、自然と緊張感を覚えていた。
彼への答えで王都へ行くことが決まる、そう考えると期待と不安の両方が脳裏をよぎった。
「一晩かけて、答えは出せたかね」
ブルームは俺たちのところまでやって来ると、開口一番にそう切り出した。
「……はい。王都に行こうと思います」
「そうか、大臣は焼肉を食べることができればきっとお喜びになる」
俺の返事を聞いて、ブルームは満足そうな表情を見せた。
敷地の一角ですでに待っているジェイクの姿があった。
「おはようございます。今日も早いですね」
「気になったんだが、王都に行く件はどうするつもりだ?」
「行くことに決めました。俺が留守の間、店を頼もうと思います」
「そうか、任せてくれ」
ジェイクはしっかりした声を出し、頼もしい様子だった。
ぶっきらぼうなところはあるが、積極的な姿勢はいい方に作用するはずだ。
「どれぐらいで店のことを覚えられそうですか?」
「三日ほどあれば問題ない。調理の作業とここに来る客についても学びたい」
「分かりました。それでいきましょう」
俺の言葉にジェイクはまっすぐな瞳で見つめ返した。
お客について関心を示していることはいい兆候だろう。
重要なことがまとまって、ホッとするような気持ちになる。
「今日はそんなに落ちてないですけど、まずは掃除から始めますか」
「承知した」
前回と同じようにジェイクにほうきを渡して、自分はテーブル周りの手入れから始めることにした。
始める前に様子を見てみると、そこまで汚れは目立たなかった。
店を開く日には開店前と閉店後にきれいにしているからだろう。
手が空いたのでジェイクの方に戻ってみると、掃きそうじを終えるところだった。
「あっという間に終わってしまったが、こんなものでいいか?」
「ゴミが少ないに越したことはないので、これでよしとしましょう」
二人で集めたゴミを片づけてから、今日の仕込み作業をすることにした。
俺とジェイクは店の外から店内の調理場に向かった。
簡易冷蔵庫を覗けば熟成させるために置いてあった肉が目に入る。
セバスに勧められて仕入れた牛バラ肉だった。
電動の冷蔵庫ほど低温ではないので、そろそろ使いたいところだ。
俺は牛バラ肉のブロックを取り出して、まな板の上に置いた。
「今日はこの肉を使いたいと思います」
「なかなかの脂身だ。よかったらオレに切らせてほしい」
「そうですね。慣れるためにもどうぞ」
ジェイクは店の包丁を手にして、まな板の前に立った。
その視線は肉に向けられており、真剣な様子が伝わってきた。
「焼肉に合わせた大きさに切ればいいか?」
「はい、好きなように切ってみてください」
ジェイクはブロック肉をいくつかの塊に切り分けると、その塊を一枚ずつ切り身に仕上げていく。
彼の包丁捌きを見るのは二度目だったが、手際のよさに目を奪われた。
自己流でやっていた俺とは異なり、型があるような安定感がある。
ジェイクの動きを観察していると、驚きの速さで作業が完了した。
「こんなところか。確認を頼む」
「はい」
ブロックだった牛バラ肉が切り分けられて、等間隔で皿に並んでいた。
断面は滑らかできれいに整っている。
「スピードと正確さの両方とも完璧ですね」
「それはよかった」
ジェイクは自分の技術に自信を持っているのかと思ったが、俺の言葉を聞いて安心するような表情を見せた。
「肉の厚さは火の通りとタレの絡みやすさが重要ですけど、この厚さならばっちりです」
「オレの計算で合っていたようだな。この肉を美味しく食べるにはこれが最善だと思った」
「もう少し厚くしてしまうと、歯ごたえが強すぎますよね。二回目でここまで考えられるのはすごいです。残りの塊も同じように頼みます」
俺はジェイクに肉を切り分ける作業を任せて、タレの準備をすることにした。
昨日は甘さと辛さが中間のタレを出したが、今日は別のものにしたい。
店内のタレが入った壺の中身を一つずつ確かめながら、メニューを考える。
積極的にタレを選ぶ気分にならず、何か別の食べ方にした方がいいかもしれない。
塩で食べる塩焼肉はバラ肉と相性がいいものの、何回も続けたら、お客を飽きさせてしまう。
それならば、塩と香辛料を混ぜたスパイスソルトみたいな調味料はどうだろう。
俺は細かく砕いた岩塩を少し掴むと、取り皿に使っている小皿に散らした。
それから、完成形をイメージしながら、いくつかの香辛料を足していく。
「うん、これならいけるか」
試しに味を確かめてみると、程よい辛味が食欲を刺激する味わいだった。
完成した調味料の感想をジェイクにたずねてみることにした。
「今日はこれでいこうと思うんですけど、味を見てもらえますか」
「ああ、問題ない」
ジェイクは作業の手を止めてから、俺が用意した小さじで調味料を口にした。
「この肉に合いそうだ。ほのかに香る柑橘のような風味がいいな」
「乾燥させた果皮が少し入っているからですね」
「辛味だけでなく、味わいにアクセントがあるのは優れた工夫だ」
ジェイクのような一流の料理人に認められるのはうれしかった。
今日はこの調味料をつける食べ方でいこう。
ジェイクが肉を切り、俺が味つけの部分を決める分業方式で進めたので、仕込みは短い時間で完了した。
店を開くまでに時間の余裕があるので、残りの時間はジェイクに仕事の流れを説明するとしよう。
それから、お客との接し方、店の普段の様子など、必要だと思うことを説明していると、すぐに昼時になった。
俺とジェイクが店内から外に出ると、通りの向こうからブルームが近づいてくるのが見えた。
ブルームの姿を目にした後、自然と緊張感を覚えていた。
彼への答えで王都へ行くことが決まる、そう考えると期待と不安の両方が脳裏をよぎった。
「一晩かけて、答えは出せたかね」
ブルームは俺たちのところまでやって来ると、開口一番にそう切り出した。
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