異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
84 / 555
王都出立編

仕込みの最終段階 その2

しおりを挟む
 周囲には小さなテーブルがいくつかあるものの、調理の際に使ったものが一番大きい。
 カタリナに肉を焼いてもらうことを考えたら、同じテーブルが適しているだろう。 

 フランシスが戻るまでに時間がかかりそうなので、カタリナが来た時に備えてテーブルの上を整理することにした。

 まずは使い終わった調理器具や皿などを別のテーブルに移動する。
 これで最初のテーブルは必要な食材と食器、焼き台のみが置かれた状態になり、カタリナを迎えられるようになった。

「あとはタレが完成すれば、間に合いそうだな」

 テーブルの上を整頓できたところで、フランシスが小走りで戻ってきた。
 彼は何かの入った紙袋を抱えている。

「お待たせしました。いいのもらってきましたよ」

「お疲れ様です。調理場の人たちは協力的なんですね」

「みんな、焼肉がどんな料理か興味ありまくりですよ。マルクさんの邪魔になるといけないから、ここに来れないだけで」

「へえ、そんなことになってたのか」

 俺の知らないところで、情報が出回っているようだ。
 もしかしたら、ブルームが助手を探す時に料理人たちに説明したのかもしれない。

「それで、持ってきたスパイスはシナモンの粉末、刻んだホースラディッシュ、黒コショウの三つです」

「これはありがたい。三種類もありがとうございます」

「自分の感覚で合いそうなものを選んじゃったので、どれもいまいちだったら言ってください。時間ぎりぎりまで間に合わせます」

 たとえ若手でも料理人の勘というものだろう。
 初対面にもかかわらず尽力してくれる彼を信じたい。

「むしろ、三つに絞ってもらって助かりましたよ。すぐに試してみましょう」

「はいっす」

 味見用の小皿は移動済みなので、別のテーブルで再開した。
 まずはタレにシナモンを振りかけて、肉の切れ端を口に運ぶ。

「これはいいですね。甘めのタレとマッチする」

「自分も同意見です。十分、合格じゃないっすか」

 続けて、ホースラディッシュをタレに混ぜて、同じように肉の切れ端に漬ける。
 口に運んだ瞬間、さわやかな辛味と清涼感のある香りが広がった。

「ああっ、これはもったいない。タレが甘くなければ、これ一択でしたね」

「そうっすね。甘くないのは用意できないんです?」

「市場まで買いに行けば……。時間が読めないので、これはパスにしましょう」

 ホースラディッシュはやめておくことにした。
 十分な時間があれば、もう少し試してみたい味だった。

 最後に挽いてある黒コショウをタレに振りかけた。
 こちらに来る前に挽いたばかりのようで、新鮮な香りが鼻に届いた。

 俺とフランシスは味を確かめてから、それぞれの感想を口にした。
 
「うん、これはありか」  
 
「シナモンと甲乙つけがたいっすね」

「そうなんですよ。強いて言えば、これだと少し刺激が強い」

「二つ用意するのはどうっすか? それかカタリナ様に選んでもらうか」

「あっ、それがあったか。それにしましょう」

「マジっすか。採用ですか」

「いいアイデアだと思いますよ」

 フランシスは驚いているが、食べる時にカタリナの好みで選んでもらうとしよう。
 塩、タレとシナモン、タレと黒コショウがあると考えれば、三種類の食べ方が用意できたことになる。

「よしっ、これで準備は完了だ」

「あのー、このまま見てたいんですけど、大丈夫っすかね……」

 フランシスは遠慮がちに言った。
 これに関してはブルームに確認した方がいいだろう。

「ブルームに確認してくるので、片づけをして待ってください」

「うっす」

 外庭で休憩中のお年寄りみたいなブルームに声をかける。
 椅子でくつろいでいるようで、普段よりも穏やかな表情だった。

「フランシスが大臣に焼肉を出すところを見たいみたいですけど」

「そうか。一人ぐらいなら問題ない。彼なら礼儀を弁(わきま)えているだろう」

「ありがとうございます」

 俺はブルームのところを離れて、フランシスのところに戻った。

「よかったですね。いいみたいですよ」

「やった! ありがとうございまっす」
 
「それじゃあ、片づけを終わらせて、あとは大臣を待つとしますか」    

 ブルームの雰囲気からして、すぐにカタリナが来るわけではなさそうなので、使い終わった皿などを片づけておくことにした。

「ふぅ、二人で片づけると早いですね」

「マルクさんの役に立ててうれしいっす」

「こちらこそ、助かりました」

 外庭は開けた場所なので、食事をする場所と洗い場を区切る壁はない。
 使い終えた食器などを見える場所に置きたくなかったので、早めに片づけを済ませておいた。

「あとは皿の位置や盛りつけの最終確認をしましょうか。俺よりもフランシスの方が得意だと思うので、引き続き力を貸してください」

「パッと見た感じ、盛りつけは問題ないっす。カタリナ様が食べやすいように、皿の並びを調整してもいいですか?」

「お願いします」

 フランシスは素早い動きでナイフとフォークの位置を直したり、皿の並ぶ順番をずらしたりしていった。
 何か作法があるのかもしれないが、門外漢の自分には分からなかった。

 彼の手が入った後は、洗練されたような配置に変わっていた。
 謙遜して「調整」と言っていたが、見事な技術だと思った。

「これなら、大臣が来ても安心です」

「光栄っす」

 カタリナに食べてもらうのはこれからだが、作業に区切りがついたことで達成感があった。
 ブルームにカタリナを呼んでもいいと伝えておこう。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

【完結】テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

処理中です...