異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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王都出立編

ジェイクの料理とこれからの話

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 俺はジェイクと話しながらも、フォークを運ぶ手を止めずに食事を続けた。
 バラム周辺では稲作は行われていないため、残念なことに白米は手に入らない。
 牛肉の野菜炒めのセットにご飯がないことが惜しく思われた。

「完食しました。これならメニューに出してもいいぐらいです」

「そうか、それだけの出来ならよかった」

 ジェイクは口元を少し緩めて、かすかに微笑んだ。
  
「食事が終わりましたし、店の様子がどうだったかを聞いてもいいですか?」

「そうだな。少し待ってくれ」

 ジェイクはこちらに出した皿を回収して店の中に向かった。
 彼を待っている間、アデルたちの会話が続いているのが聞こえた。

 ジェイクはカップを二つ持って戻ってきた。
 彼はカップをテーブルに置いた後、俺の近くの椅子に腰を下ろした。

「その味つけだとのどが渇くだろう。よかったら飲んでくれ」

「おっ、こりゃどうも」

 カップにはアイスティーが入っていた。
 すぐに飲んでみると砂糖不使用でさっぱりした味だった。

「店のことだが、常連の人たちやエスカ、仕入れ先の協力のおかげで大きな問題はなかった」

「いやー、それを聞いて安心しました」

 俺は胸をなで下ろすような気持ちになったが、ジェイクは複雑な表情だった。

「ここはあくまであんたの店だから、自分でやりたいことをやるには物足りなくなってしまった。留守の間、この店のやり方を引き継いで営業する中で、焼肉の基本は身についた。今後は自分の店を持ちたいと思っている」

「この短期間でそこまでの域に達するなんてすごいですね。気が進まないかもしれないですけど、大臣とブルームが王都で焼肉屋をやらないかと言ってました」

 ジェイクは俺の話を聞くと、わずかに驚くような表情を窺(うかが)わせた。
 話の内容を嚙みしめるような間があった後、彼は口を開いた。

「……お二人はそこまでオレを認めてくれているのか」

「俺としてはここで学んだことを持ち帰って、王都で焼肉屋をやってもらうのは問題ありません」

「そうか、それは助かる」

 ジェイクの表情が明るくなっていた。
 焼肉の元祖は地球のどこかなので、自分が独占したいという気持ちはなかった。 
   
「騒乱の件も落ちついたので、安心して店を始められると思いますよ」

「そういえば、王都で何か起こったと人づてに聞いたが、どんな状況だったんだ」

「そうか、バラムまで詳しい情報は届いてないんですね」

 王都はジェイクの地元に当たると思い、大まかな流れを説明した。
 彼は戦いとは無縁の一般人なので、暗殺機構の部分はできる限り省いておいた。

「――ううむ、そんなことがあったのか」

「兵士に負傷者は出ましたけど、市民の被害はほぼなかったと聞きました」

「……いまいち現実味がないのだが、ランス城に賊が忍びこむことなどあるのだな」

「現場にいた俺が言うので、間違いありません」

 ジェイクは戸惑いの浮かぶ表情のまま静かになった。
 王都に所縁(ゆかり)のある者ならば、誰もが似たり寄ったりの反応を見せると思う。

 俺とジェイクの間に重たい空気を感じたところで、エステルが近づいてきた。
 どことなく物欲しそうな様子に見える。

「姉さんたちに聞いたんだけど、焼肉はすごく美味しいらしいね」

「まあ、美味しいですね」

「オレも同意見だ」

 エステルは俺たち調理担当の声を聞いて、何かを確信したように一歩踏み出した。 

「よかったら、食べたいなーなんて。もちろん、料金は支払うから」

「すまない。今日は店が繁盛して、焼肉に使えるような肉は品切れだ」

 ジェイクは少し申し訳なさそうな顔で言った。
 エステルには悪いが、店が好調だったことを聞いて喜びがこみ上げた。

「……えっ、食べられないの」 

「明日になれば新しい肉を仕入れるから、その後なら食べることができる」

「ふーん、それじゃあ仕方ないね。また明日、来ようかな」

 エステルは残念そうにこぼした後、アデルたちの輪の中に戻っていった。

「明日は俺がいるので、肉を仕入れに市場へ行きますよ」

「わりと量がまとまるから、セバスに配達を頼んである。何日かに一度は目新しいものがないか見に行ったりするが、配達を頼むことが多い」

「ここまで聞いた感じ、けっこう忙しそうですね」

「オレが王都の料理人ということが広まって、どんな味を出すのか気になった客が増えたことが大きいのかもしれない」

 ジェイク目当てのお客がいることで、これまで以上に繁盛したということか。
 経緯はどうあれ、客足が好調であることは幸いだった。

「ちなみに王都で店を出す話ですけど、いつぐらいに向こうへ戻りますか?」

「できれば、もう少しこの店で働いてからにしてほしい。味つけや料理の出し方は問題なくても、仕事の流れや店の経営についてはまだ自信がないんだ」

「必要なことがあれば状況に応じて教えるので、ジェイクの好きなタイミングで王都に戻ってください」

「了解した。それはとても助かる」

「ひとまず、話はこの辺で大丈夫ですね」

「ああっ、そうだな」

 俺はジェイクとの会話を終えて、アデルたちのテーブルに移動した。
 まだ、ハンクとしっかり話せていなかったので、彼に声をかけようと思った。

「元気でしたか?」

「おれは特に変わらないな。マルクは少したくましくなったんじゃないか」

「向こうで色々とあったので、その影響があるかもですね」

 ハンクの気さくな様子に肩の力が抜けるような感覚を覚えた。
 二人で話していると、エスカも加わって会話が盛り上がった。
 
 しばらくすると誰かが七色ブドウのワインを持ち出してきて、宴会のような雰囲気になっていた。
 根っからの料理人であるジェイクは会話を楽しむよりも提供係に徹して、美味しい小料理の調理を続けた。
 楽しい雰囲気のまま、バラムの夜は更けていった。
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