異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
118 / 555
魔道具とエスカ

アデルとの駆け引き

しおりを挟む
 ――アスタール山。
 バラムの町中から見えるわりと大きな山。
 その存在が日常に溶けこんでいるせいか、普段は気に留めることが少ない。

 山中に栗の木が生える一帯があり、それを目当てに山へ入る人がいる。
 野生動物が多く、時にモンスターも現れることから、入山にはギルドの許可が必要とされている。

 翌日の昼下がり。俺は一日の営業を終えた店でアデルと会話を始めた。
 ギルドで得られた情報を伝えるという目的があった。

「ギルド長の話ではアスタール山に不審人物がいるみたいです。野営をするような場所ではないのに、テントを張って占拠しているらしくて」

「山に魔道具を作るのに適した素材があって、調達しながら錬成を続けている、みたいなことはありえるかもしれないわね」

 アデルはジェイクが用意したアイスティーをすすりながら、気軽な雰囲気で話していた。
 特別な食材の話題ではないせいか、そこまでの熱気は感じない。
 昨日の感触では魔道具を作る者にいくらか関心がある、それぐらいのあっさりしたものなのだろう。 

「ギルドは平和慣れしていて、そこまで本気ではないんですけど、あんまり放置しておくのもどうかなと思うんです」

 ランス城で暗殺機構の手の者と対峙した影響が根強くあり、気がかりを見すごしてしまうことに抵抗があった。
 大した被害がなかったとはいえ、エスカが巻きこまれたことも無視できない要素だった。

「あなた、雰囲気が変わったわね。前はもう少しのんびりしていたと思うけれど、向こうで何かあった?」

 向こうというのは王都のことだろう。
 アデルにはまだ話していないことがいくつかあった。
 店の常連であり、旅の仲間である彼女には話しておいてもいいだろう。

「隠すようなことではないですけど、王都にいる間に暗殺機構らしき勢力と戦うことがありました。わりと危険なところまで追いつめられて……」

「えっ、王都で不穏なことがあったとは聞いていたけれど、そんなことがあったの」

「城内は物々しい雰囲気でしたよ」 

 長きに渡る平和な時代を思えば、なかなか想像できないような状況だといえる。
 あまり深刻な表情を見せないアデルが顔色を曇らせていた。
 
「あなたの事情はともかく、アスタール山に謎の魔法使いを拝みに行くだけというのは気が乗らないのよね」

 アデルは顔を横に逸らして、遠くに見えるアスタール山に視線を向けた。

「心惹かれるかは分かりませんけど、あの山は栗が取れるんですよ」

「へえ、栗ねえ。久しく食べていない気もするわ」

 途中まで彼女の関心は低めだったが、栗という単語に反応を示したように見えた。
 今こそプッシュしておくべきタイミングなのかもしれない。

「ここの鉄板で焼き栗をしてもいいですし、市場には美味しく食べられるように加工してくれる店もあります」

「まあ、そこまで言うなら行くとするわ。魔道具を目にする機会も多くはないでしょうから」

「では、明日の営業が終わったら出発しましょう。日帰りで戻れる距離なので、ジェイクを手伝ってからにさせてください」

 丸一日店を空けると言っても、ジェイクは首を縦に振ってくれるかもしれない。
 しかし、店主の自分が彼に頼りっきりというのは好ましくないと思った。
 俺とアデルの話に区切りがついたところで、ふらりと店に立ち寄る人影が見えた。

「――あっ、姉さん」

 明るい様子で現れたのはエステルだった。
 ジェイクの話では昨日の遅い時間に焼肉を食べに来たらしい。

「あら、エス。見合いの件が済んだなら、村に戻った方がいいんじゃないの?」

「姉さんこそ、見合いのために戻ったら?」   

 姉妹の小競り合いが勃発するかと思ったが、それ以上はエスカレートしなかった。
 エステルは何ごともない様子で、俺とアデルの近くの椅子に腰を下ろした。

「おやっ、今日も来てくれたのか」 

 店の中からジェイクが出てきた。
 
「焼肉を食べに来たんだよ。一人前出してよね」

「もしかしたらお前が来るかもしれないと思って、肉を少し残しておいた」

 ジェイクは店の中に戻っていった。
 エステルはうれしそうに笑みを浮かべている。

「あれから、バラムに残ったんですね」

「村に急いで帰ってもいい返事はできないから。せっかくだし、この町に滞在しようと思って」

「王都に比べたらそこまで都会ではないんですけど、この町が気に入ったんですね」

「焼肉も美味しいし、姉さんやマルクたちがいるから安心だもの」 
 
 エステルに頼りにされるのは悪い気がしなかった。
 三人で話していると、ジェイクが肉の乗った皿や食器を運んできた。

「今日はいくつかの部位を少しずつ盛り合わせたものだ。タレは昨日のものより辛めの味つけだが、辛いものは苦手ではないか?」

「あんまり食べたことはないけど、多分平気かな」

「それはよかった。オレは店の中にいるから、何か用事があれば遠慮なく声をかけてくれ」

 初対面の時に比べると、ジェイクの愛想は飛躍的によくなっているようだ。
 相手がエステルであることを差し引いても、安心して見ていられた。

「俺はそろそろ帰るので、ごゆっくり」

「うん、またね」

「アスタール山の件はさっき話した通りでお願いします」

「ええ、また明日」

 アデルとの話が終われば、やることは残っていなかった。
 俺は椅子から立ち上がり、店から自宅に向けて歩き出した。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

【完結】テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~

荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
 ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。  それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。 「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」 『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。  しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。  家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。  メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。  努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。 『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』 ※別サイトにも掲載しています。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

処理中です...