異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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飛竜探しの旅

マルクの異変とリムザンの町

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 町に近づいたところで、アデルに案内されて馬を係留するところに向かった。
 辺境すぎて馬泥棒などありえないのか、町の入り口から離れた場所にあった。

 フェルンの町と同じように馬の気配がなかったものの、ここは単純に使用頻度が低いだけのように見えた。
 ワイバーンのことを警戒する必要もないだろう。

 俺とアデルは馬を繋いでから、リムザンの町へと歩いていった。
 入り口まで来たところで、アデルの「町というより村」という言葉の意味を実感した。
 バラムと同規模のフェルンと比べると、ずいぶんコンパクトな広さだった。
 入り口から全体が見渡せるほど狭くはないが、辺境の田舎町という表現がぴったり合いそうだ。

「もう夕方だから、宿を確保しておこうかしら」

「その方がいいですね」

 アデルは土地勘があるようで、迷いのない足取りで歩いていた。
 彼女に続いて町の中を移動すると、小さな宿屋があった。

「この町はここだけなのよ」

「国境から遠くないとはいえ、需要は少なそうですからね」

 行商人や旅人なら馬か馬車で移動する。
 それならば、フェルンの町に滞在する方が何かと便利だった。
 それに隣国メルツ側の町にも宿があってもおかしくない。

 アデルと宿屋の中へと足を運ぶ。
 狭くはないものの、見た目の雰囲気からして部屋数は少なそうだった。 

「いらっしゃい。お客さんはお連れ同士で?」

「ええ、そうよ」

「今日は部屋が埋まってしまっていて、二名様で一つの部屋でもよろしいですか?」

 宿屋の主人の言葉を消化するのに時間が必要だった。
 アデルが相部屋を許すはずもない……これは俺だけ野宿の可能性もある。
 そんなことが頭をよぎったところで、アデルの声が耳に届いた。

「仕方がないわね。それなら、その部屋にするわ」

「い、いいんですか?」

 思わずおかしな言い方をしてしまった。
 確認するつもりのはずが、拒否しているように聞こえたかもしれない。

「ハンクは遅くなるだろうから、野宿してもらうわ。一晩ぐらいは平気よね」

 少し扱いが雑な気がするが、その通りではある。
 生きる野戦兵器ハンクは、外で一夜を明かした程度ではびくともしないだろう。

 宿の確保が済んだところで部屋に荷物を置いて、夕食のために町中の食堂に向かった。
 そこは家庭的な雰囲気の店だった。
 家族で切り盛りするような感じで微笑ましさを覚えた。

 俺たちは適当に料理を注文して、出てきた順に食べ始めた。
 よく言えば素朴な味、シビアに見れば大ざっぱな味。
 そんな印象の料理だったが、意外にもアデルは上機嫌だった。

 移動の疲れで味覚まで疲れているのか、よほど空腹だったのか。
 理由は分からないが、本人が気に入っているのならと野暮なことはたずねなかった。

 俺たちは食事が済んでから宿屋に戻った。
 すでに日は落ちており、特に見どころのあるような町でもなかった。
 小さい宿屋にもかかわらず男女別の浴場があり、そこで身体を流した。

 昨日はワイバーン、今日はベヒーモスに謎の魔法使い。
 連続して色んな出来事があったせいか、気疲れのようなものを感じていた。
 何か考えているわけではないのに、時折ぼんやりとするような感覚があった。

 明日以降も移動が続くため、アデルに一声かけてからベッドに入った。
 すぐに眠れると思ったが、予想に反して目が冴えてしまい寝つけなかった。

「……あれ、アデルはまだ起きてるのか」

 部屋の魔力灯はついたままで、隣のベッドで眠っているような気配はない。
 横になっていても眠れそうにないので、身体を起こした。

 部屋に置かれた椅子にアデルが腰かけているのが目に入った。
 こちらを向いたアデルと視線が交差する。
 彼女は曖昧に微笑んだ後、口を開いた。

「少し顔色が悪いわね」

「……あっ、そうですか」

 頭がぼんやりする。
 アデルの声がどこか遠くから聞こえるような気がした。

「あなたは疲れているのよ」

「まあ、移動続きですから」
  
 そう答えながら、何かがおかしいのに気づけないもどかしさを覚えた。

「…………」

 アデルは無言のまま、こちらに近づいた。
 それが何を意味するか分からずに戸惑いが生じる。

「……どうしたんですか?」

 いつものアデルらしくないと口にしようとした。
 しかし、それを彼女の唇が塞ごうとして――。

「いやいや、絶対ありえない! 気高いアデルがそんな大サービスするわけがない」

 まるで、何かにだまされているようで、どこか馬鹿げているように感じられた。 
 アデルがそんなことをするはずがない。

「あれ、視界が……」

 周囲の空間が現実とは思えないような歪みを見せる。
 そこに意識が向いた瞬間、意識が覚醒するような感覚を覚えた。

「――はっ!?」

「おおっ、目を覚ましたか」

「はぁ、よかった」

 頭に霧がかかったようにすっきりとしない。
 俺はベッドに横になっていたようで、すぐ近くにアデルとハンクがいた。
 二人は安堵するような表情でこちらを見ていた。

「……えっ、これは一体」

「お前は移動の途中で魔法使いに幻覚魔法をかけられたんだ」

「奇跡的に落馬しなかったけれど、もしも落ちていたら大ケガだったわ」

「まさか、そんなことが……?」

 二人の言葉はすぐに理解できなかったが、アデルが口づけを迫ったことよりも、今の方が現実に近いように感じられる。 

「まだ混乱しているので、順番に説明してもらってもいいですか?」

 俺がそう求めるとアデルとハンクは互いの顔を見合わせて、交互に説明を始めた。  

 怪しい魔法使いに二人が気づいた時、反応が遅れた俺は狙い撃ちされた。
 表面的には意識を失ったように見えた状態が続き、馬に乗せられたまま次の町に運ばれたそうだ。

 幸いなことにギルドから仕入れた馬同士は気が合うようで、ハンクが片方の馬に乗って先行すると素直についてきたらしい。

「……ということは、ここは?」

「リムザンの町よ。あなたが気を失っていては馬をそこまで走らせることはできないから、予定よりも時間がかかって夜に到着したわ」

 アデルは諭すような言葉の後、どこかを指先で示した。
 その先を視線で追うと、薄手のカーテンの向こうには夜の気配が漂っていた。
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