異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
180 / 555
高級キノコを求めて

閉ざされた採取地

しおりを挟む
 ハンクの促した方向に向かって、三人で歩き始めた。
 彼の表情が固く見えたのは束の間で、すでに普段の様子に戻っていた。
 テオはいつの間にか人の姿になっており、物静かに歩いているところだった。

 この辺りがデュラス領ということなら異国に来たわけになる。
 だがしかし、誰かとすれ違うことはなく、それを示すものがあるわけでもないので、いまいち実感が湧かなかった。

 ハンクの話ではハイキングを楽しむ人はそこそこいて、そのついでにコショネ茸を目当てに来る人が全体の何割かいるらしい。
 この瞬間には見る影もないものの、人の出入りを証明するように足元は踏み慣らされた形跡があり、山奥のわりには比較的足場がいい。

「そういえば、言ってなかったが、さっきの開けた場所が目的地から一番近くて、それでもあそこから多少歩く。本当は真上から直接行けたらいいんだが、木が覆い被さるような場所でテオがケガでもしたらよくねえからな」

 三人で適当な距離を保ちつつ歩いていると、ハンクが思い出したように口を開いた。
 その言葉を聞いたテオがわずかに反応を見せた。

「ふむ、我を気遣うとは殊勝な心がけだ。褒めてつかわす」

「そうか、ありがとな」

「むっ……」

 テオが素直ではないながらも感謝を述べたように聞こえたが、ハンクは何でもないというような返事をした。
 それを耳にしたテオは屈辱を受けたように表情をわずかに歪めた。

「……素直になれとか言ったら逆効果、だろうな」

 俺は二人に聞こえないよう、小声でぼそりとつぶやいた。
 テオのことを理解できるようになるまで、もう少し時間がかかりそうだと思った。

「それにしても、この森は明るいですね。木々の間が広い上に枝と枝が密集してない分、上から日光が入りやすいみたいで」

「ああっ、それはコショネ茸とも関係ある話だな。あれはキノコにしては珍しくて、じめじめしすぎる場所には育たないらしい。だからって、平地で生えることもないみたいで、この辺りでしか採れねえってわけだ」

「へえ、それは珍しい。キノコといえば日陰と湿気が適している印象です」

「もう少しすれば、コショネ茸が採れる場所に通じる門がある。そこに着いたら、その先はそこまで時間はかからねえはずだ」

 テオが着陸したところから、それなりの距離を歩いていた。
 空気がさわやかで歩いていて気分のいい道だが、今回の目的はコショネ茸を採取することである。
 店でお客に出すのもいいし、自分で食べてみるのも楽しみだった。  
 
 それからいくらか進んだところで、前方にある門のようなものが目に入った。
 そこには門番のように守衛の男が二人ほど立っている。
 さらに近づいてみるとその門が閉ざされていることが分かり、こちらの存在に気づいたように片方の男が顔を向けた。

「君たちは山歩きか? ここから先は通れないから、引き返しなさい」

 男の言葉そのものは丁寧だが、有無を言わせないような威圧感があった。
 この辺りは今回が初めてなので、多少はこの土地を知っていそうなハンクに対応を任せることにした。
 こちらが何かを言うまでもなく、ハンクは一歩前に出た。

「なあ、立ち入り禁止なんて、何かあったのか?」

「コショネ茸を密漁する者が現れて、当面の採取を禁ずることになった」

「いやー、そこを何とかしてもらえねえか」

 ハンクは怯むことなく、粘りを見せ始めた。
 腕っぷしに頼れば彼を倒せる者などいないはずだが、あくまで冷静に話し合うつもりのようだった。

「ここまで来てもらって悪いが、これも決まりなのだ。貴族の方々が資源保護のためだとおっしゃられたら従う他あるまい」

「おっ、そういうことか。貴族の連中が納得すれば、入って問題ねえってところだな」

「うん? そうなることも起こりうるだろうが。貴族の方々を説得などとは無謀だぞ。それと口を慎んだ方がいい。連中とは不敬ではないか」

 ハンクは軽い調子でいけねっと言って、頭をぽりぽりかいた。
 そこで意外な人物が一歩前に踏み出した。

「……ほう、不敬と抜かすか。我を通さぬこともまた不敬であると理解しての物言いだろうな」

「んっ? こちらの御仁は貴族? それともどこか名家のお方か?」

 古めかしい服装に厳かな物言いという組み合わせが功を奏したのか、ハンクと問答を続けていた兵士は首を傾けた。
 もう一人の兵士は二人もやりとりに必要ないと判断しているのか、持ち場を動かずに静観している。

「……テオ、ナイス」

「えっ?」

 ハンクはかすかに聞き取れるような声を出した後、テオと兵士に割って入るように話し始めた。

「この方は高貴な身分でな。今回はお忍びで身分は明かせねえ。デュラスのコショネ茸はさぞかし美味だと聞かれて、御自ら採取に足を運ぼうという優れたお心をお持ちの方だ」

「……うっ、ああっ……これは失礼しました。お前も知らん顔している場合か」

 静観していた方の兵士もまっすぐにテオの方を見て、兵士は二人とも頭を下げた。
 いやはや、これでいいのだろうかと思いつつ、うかつなことを口走ってしまわないように様子を見守ることにした。

「せっかく足を運ばれたのに申し訳ありませんが、無断で人を通したとあれば、我々の立場が危うくなります故」

 兵士の態度がぐるっと一回転して、敬語を使うようになっていた。
 テオが特別な存在だとしても、貴族ましてや王族でもないことを知っている身からすれば、半ばこっけいにすら見える光景だ。

「よしっ、そうだ。本来ならダメだろうが、貴族のれんちゅ……方々の許可があれば、中に入っても問題ねえだろ?」

「……それはもちろんです。正式な書状、もしくは貴族のどなたかが我々に顔を見せにいらしてくだされば」

「それで十分だ。じゃあ、おれたちはデュラスの街に向かうとするか」

「そちらの身分の高い方と引き返すなら、モンスターに気をつけた方がよいかと。人の出入りが少なくなって、普段は顔を出さないような種類が出歩くことがあります」

 兵士は気を配るような言い方だった。
 完全にテオが特別な身分だと信じてしまっている。
 せっかくの機会なので、楽しい茶番に乗っかっても悪くはないだろう。

「この男は護衛として雇われたSランク冒険者。並のモンスターなどものともしない」

「……何とそこまでの護衛がお伴とは。度重なる無礼をお許しください」

「……マルク、いや。この方は寛大だから、その程度のことでお怒りにはならねえよ。懐の深さに感謝してもいいのかもな」

「ありがとうございます」

 兵士は深々と頭を下げた。
 だましていることへの罪悪感はあるものの、面白さも半分以上ある。
 テオは兵士に身分の高い人と認識されたことで、どこかまんざらでもない様子だった。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

【完結】テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~

荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
 ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。  それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。 「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」 『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。  しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。  家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。  メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。  努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。 『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』 ※別サイトにも掲載しています。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

処理中です...