異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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高級キノコを求めて

里帰りから戻った姉妹

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 翌朝。目が覚めると自室のベッドの上だった。
 ずいぶんと現実感のある夢を見た気がする。
 偉大なる者を名乗る老人と言葉を交わして、実はテオが竜神なのだと知った。

 前々からこの世界は普通ではないとおぼろげに感じていた。
 その理由がはっきりしたのかもしれない。
 もっとも、本当は夢だったという可能性も残るわけだが。

「……さてと、起きるとするか」

 俺はベッドを下りてから、顔を洗って身支度を整えた。
 今日は昼から店を営業するつもりなので、準備のために行かねばならない。
 出発できる状態になったところで、自宅を出て店に向かった。

 店の中に入って荷物を置いてから、敷地全体の掃除を始める。
 厨房周りと備品が置いてある店内はその都度きれいにしているので、そこまで目立つ汚れはない。
 一通りの掃除を終えると、下準備を行って開店の時に備えた。

 今回は店休日と営業を再開する日を入り口に掲示しておいたおかげなのか、昼頃になると少しずつ客足が伸び始めた。
 営業日が不定期でも来てくれるお客の存在をありがたく思った。
 再開一日目は何ごともなく終わり、自分一人でも切り盛りできる程度の忙しさだった。

 同じ日の夕方。店じまいと翌日の下準備を終えた後、敷地内の椅子に座って考えごとをしていた。
 昼間はいつもより暑かったので、市場で買ってきたミントを使ったモヒートに近いカクテルがお伴だった。
 ミントの香りと柑橘の口当たりがさわやかで、砕いた氷と混ざり合う蒸留酒は火照った身体を冷やすようだ。

「……ふぅ、この店をどうやって続けていけばいいのか」

 酔うほどには飲んでおらず、悩んでしまったのは酒のせいではない。
 夢のような場所で会った老人――偉大なる者――は好きにすればいいと優しそうに言っていた。
 それに転生前のことを思えば、今の状況は恵まれていることは間違いない。

「だからって、惰性で続けるのはどうかと思うんだよな……」

 この世界に焼肉が存在しないという点で、大きなアドバンテージがあった。
 だからといって、バラムの人たちが焼肉を飽きずに食べ続けるかとなれば決してそんなことはない。
 血の通った人間であり、自分の頭で考える以上、必ず変化は訪れる。

「よその町に店を出すというのもなあ……」

 焼肉の物珍しさからすれば、新規出店も可能性を見出すことはできるだろう。
 だが、品質の維持を考えた時に課題がたくさん出てくる。
 前世が日本人で細やかな品質管理の精神を有しているのは自分だけなのだ。
 この世界の人を雇って、同じ水準を求めれば軋轢が生まれる恐れもある。
  
「人集めも時間がかかりそうだし、レア食材確保を優先にするか」

 酒が入っているせいか、普段よりも独り言が多いことに気づいた。
 周りには誰もいないので、特に気にする必要もないのだが。

 グラスを傾けようとすると、氷が溶けて薄まった状態になっていた。

「……おかわりでも作るか」

 椅子から腰を上げて店内に向かおうとしたところで、人の気配を感じた。

「マルク、一人で寂しく飲んでいるのね」

 何げなく視線を向けると、そこにはいたずらっぽい笑みを浮かべるアデルがいた。
 傍らにはにこやかな表情のエステルも立っている。

「もしかして、里帰りから戻ったところですか?」

「そうね、そんなところかしら」

「へへっ、久しぶりだね」

「二人とも変わりないみたいでよかったです」

 自分の表情が自然と笑顔になるのが分かった。

「そうそう、これはお土産ね」

「これ、中身は何ですか?」

 アデルから渡されたのは立派な紙に包まれた胴長の瓶だった。
 大事に保存するだけの価値があるものに見える。

「それはハチミツ酒よ。珍しいものだから大事に飲んでほしいところね」

「たしかに珍しいですね。しまってくるので少し待ってください」

 アデルに断りを入れて、店内の棚に収めに行った。
 それから店の外に戻るとアデルとエステルはちゃっかり椅子に座っていた。

「ねえ、あなたが飲んでいたの美味しそうだから、私にも用意してくれる?」

「材料は残ってるので、まだ作れますよ」

「あと、エスにはアルコールがない飲みものにしてちょうだい」

「……分かりました」

 エステルは若そうに見えるからといって未成年ではないよなと思いつつ、再び店内に引き返して二人分の飲みものを用意した。

「はい、こっちはアデルの分で、もう一つはエステルの分」

 それぞれにグラスを差し出すとアデルは明るい顔だったが、エステルは渋い顔つきだった。
 
「あれ、エステルも蒸留酒の方がよかったです?」

「……気にしないで、わたしはお酒を飲まない方がいいんだから」

「えっ?」

 ついさっきまで元気だったエステル。
 しかし、今は悲壮感漂う表情になっている。

「あの、何かあったんですか?」  

 本人にはたずねにくかったので、そっとアデルに訊いてみる。

「そんな大したことはないのよ。里帰りした時にエスが悪酔いしただけで」

「……姉さん。お願いだから、それ以上は言わないで」

 エステルは今にも泣き出しそうだった。
 何をそこまでやらかしたのか気になるところだが、彼女のことを気遣うのなら深掘りしない方が賢明だろう。
 
「まあ、とにかく飲んでください」 

 出した飲みものを口にするように勧めて、お茶を濁すことにした。

「ところで、何か悩みでもあるのかしら。深刻そうな顔だったけれど」

「わたしたちでよかったら、相談に乗ってあげるよ」

 二人は協力的な空気を醸し出して、こちらを見ていた。
 
「最近、新しい食材を取り入れようと思ってるんですけど、店のことを色々と考えてしまって……」

「それなら、コスタの町はどうかしら? ロゼル領ではあるけれど、ここからわりと近くにあるし、新鮮な海産物が多いわよ。それにガルフールみたいに観光地化されていないから、落ちついて散策できるわね」

「なるほど、コスタですか。海産物は鮮度が気になって選択肢から除外してましたけど、試しに行ってみる価値はありそうですね」

「私たちでよければ、同行してもいいわよ」 

 アデルの申し出はありがたかった。
 エステルもそのつもりのようで、うんうんと頷いている。
 
「ハンクが大工仕事を手伝うようになってから、今度は資材確保まで始めたみたいで、遠征仲間がいなかったので助かります」

「海の幸、まぶしい海岸線、わくわくする」

 早くもエステルが盛り上がっている。
 アデルとは異なり、エルフの村ですごした期間が長いようなので、遠くに行くことが好きなように見えた。
 
 それから今後の予定について話した後、二人は帰っていった。
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