異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
204 / 555
海産物を開拓する

市場を散策する

しおりを挟む
 俺たちはサンドロと別れてから、市場を見に行くことにした。
 日の入りまでもうしばらく時間があり、中の店は開いているそうだ。

 サンドロと話した場所は管理組合の事務所だったようで、市場まではそこから少し歩く必要があった。
 ロゼル領内の港町ということもあり、異国情緒を感じる町の中を移動して三人で市場に向かった。

「おおっ、これはすごい!」

 開口一番、思わずそんな言葉が飛び出した。
 市場の規模が想像していたよりも大きかった。
 それに鮮魚だけでなく、色んな種類の店があるみたいだ。

「わたし、こんなにたくさんお店が並ぶの初めて」

「色んな場所に行ったけれど、これは指折りの広さね」

 アデルとエステルもいい反応だった。
 回ってみるだけの価値がありそうなので、閉店まで時間が残っていてよかった。

「さあ、行きましょう」

「行こう行こう」

 大きな門のような入り口をくぐって、広い建物に入る。
 バラムでは露店が中心なのに対して、ここは屋内に店が並んでいた。
 管理組合があることもそうだが、市場に力を入れていることが分かる。

 中に入ってすぐに、どこからともなくスパイシーな匂いが漂ってきた。
 出所を探ってみると、軒先に色んな材料が並べられた店が目に入った。  

「種類が多そうなので、入ってみてもいいですか?」

「うん、入ろう」

「ええ、面白そうね」

 いくつもの店が立ち並ぶことで入り口はそこまで広くはない。
 俺たちは順番に店内へと足を踏み入れた。

「いらっしゃい!」

「品揃えがすごいですね」

「そうかい、そいつはありがとう。好きなだけ見てくんなよ」

「ではでは、お言葉に甘えて」

 バラムでは唐辛子は希少価値高めなのだが、ここでは山盛りに積まれている。
 単価はお値打ちなので、馬車で来ていれば買ってもいいと思った。

「すいません、この木の枝みたいなものは? とてもいい香りですけど」

「そいつはシナモンだね。うちのは品質がいいから、唐辛子みたいに安くはできないんだ。なかなかお目が高い、へへへっ」

 店主は愛想よく教えてくれた。
 転生前からシナモンは知っていたが、加工前の現物は初めて見た。
 このかぐわしい香りはデザートにもいけそうだし、焼肉のタレに合わせるのも面白いだろう。

 店内を物色していると、次から次へと気になる香辛料が出てきた。
 今回は荷物がたくさんになると困るので、店主にまた次回寄らせてもらうと言って、その店を後にした。

「黒胡椒の品質がピカイチだったので、次回は買いたいです」

「あれはなかなかのものだったわね。コスタの物流は侮れないみたい」

 俺たちは市場巡りを再開した。
 他にはどんな店が出てくるのか期待に胸が躍った。

 しばらく、同じように香辛料を扱う店と日用品店が続いて興味は惹かれなかったが、途中から野菜や果物を扱う店が中心になった。

「場所が変わると、扱う種類も変わるんですね」

「すごーい、見たことない野菜ばっかりだよ」

「俺も初めて見るものがたくさんです」

 歩きながら眺めているだけでも飽きがこない。
 同じように果物も珍しいものが並んでいる。
 
「マルク、向こうに精肉店があるみたいよ」

「……そうですか」
 
 見たら見たで楽しめると思うが、どのみちコスタでは魚介類を仕入れることになる。
 今回は精肉店よりも鮮魚店を見ておいた方がいいと判断した。

「とりあえず、鮮魚店を優先します」

「精肉ならバラムで仕入れた方が新鮮ね。異論ないわ」

「ランス城の料理人だったジェイクの話でも、バラムの牛肉は品質がいいみたいなので、わざわざここで買う必要はなさそうです」

 アデルと話していると、ふいに殺気のようなものを感じた。
 周囲を見渡してみるが、不審な人影は目に入らなかった。
 密集するほどの人通りではないので、何かあれば見逃す可能性は低い。

「マルク、何かあった?」

「……あっ、いえ、何でもありません」 
    
「それじゃあ、鮮魚を見に行くわよ」

「はい」

 精肉店のある一角には向かわず、鮮魚店の集まる方へ向かった。
 通路を歩いて進んでいくと、前方に活気のある店が並んでいた。
 海産物の流通が盛んな土地柄ということもあり、他のところ以上に賑わっている。
 きっと、俺たちと同じように周辺の各地から訪れる買いもの客もいるのだろう。

「これはわざわざ来た甲斐がありますね」

「海が近いと新鮮みたい。どれも美味しそうだわ」

「こんなに魚だらけなのも初めて」

 三人で目を輝かせながら店先を覗いていった。
 鮮度のよさそうな魚があちらこちらの店に並んでいる。

「サンドロと話したように、持ち帰るのは最短ルートが復旧してからですね」

「バラムからなら来やすいし、無理に買う必要もないと思うわ」

「当初は持って帰るつもりだったんですけど、傷んだりしたら勿体ないですから」

 馬車で戻るだけならいけると思うが、つまらない賭けのために食材を無駄にしたくはない。
 今回はできるだけ情報を集められたら、それで十分だと切り替えた。

 うちの店で一緒に出すことを考えたら、鉄板焼き向きな素材の方が適している。
 そう考えると、エビか貝の仲間がちょうどいいだろうか。

 魚は切り身を買ったとして、肉と一緒に出してしまうと、両方がメインになってしまう可能性がある。そうなってはどこかアンバラスな気がした。 
 それも踏まえつつ、サンドロは優先して何回か仕入れをさせてくれるみたいなので、こちらで固めすぎても変更が出てくる可能性もある。

「……あなたなら大丈夫だと思うけれど、基本的に焼肉と魚はミスマッチよ」

「はい、同じことを考えてました」

「魚のグリルは焼肉とは別の料理だし、鉄板が生臭いと牛肉の味が落ちるわ」

「教えてもらって助かります。やっぱり、そうですよね」

 サンドロに食材を卸してもらう際には、なるべく魚以外で頼むことにしよう。
 特にエビはけっこう絵になるので、生臭さの対策をしながら導入したいところだ。
 その場合、鉄板やお客用の焼き場の拡張も考えた方がいいかもしれない。
 焼く時の面積が広ければ広いほど、同時に焼くことも可能になると考えた。

「……これは壮大な話になってきたぞ」

 開店当初は焼肉がここまで上手くいくと予想しなかったのが、今では食材の充実に設備の拡張。
 自分の店を経営しているという実感が高まり、これまでになく充実した気持ちだった。
 同行してくれたアデルやエステルはもちろんのこと、食材を融通してくれる予定のサンドロにも感謝したいと思った。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

過労死して転生したら『万能農具』を授かったので、辺境でスローライフを始めたら、聖獣やエルフ、王女様まで集まってきて国ごと救うことになりました

黒崎隼人
ファンタジー
過労の果てに命を落とした青年が転生したのは、痩せた土地が広がる辺境の村。彼に与えられたのは『万能農具』という一見地味なチート能力だった。しかしその力は寂れた村を豊かな楽園へと変え、心優しきエルフや商才に長けた獣人、そして国の未来を憂う王女といった、かけがえのない仲間たちとの絆を育んでいく。 これは一本のクワから始まる、食と笑い、もふもふに満ちた心温まる異世界農業ファンタジー。やがて一人の男のささやかな願いが、国さえも救う大きな奇跡を呼び起こす物語。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。 しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて…… テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...