異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
250 / 555
クレイフィッシュの誘惑

旬の味とガストンの報告

しおりを挟む
「じゃあ、そろそろクレイフィッシュを食べさせてもらいます」

「はい、どうぞ。おかわりは遠慮なく」

 ガストンはこちらへの気遣いを見せた後、漁師たちの集いに移動した。
 今、目の前の皿に焼き上がったクレイフィッシュが乗っている。

「では、いただきますっと」

 食器は用意されているが、アデルを真似てかぶりついてみる。
 ほくほくしたエビの味がして、ほどよい塩加減を感じた。
 殻は頑丈なため、身だけを吸い出すように食べる。

「これはすごく美味しい」

「いやー、来た甲斐があったぜ」

 俺とハンクの口からは感嘆の響きが漏れていたが、アデルは静かだった。
 カニを食べるのに夢中で無言の人みたいになっている。

「おかわりは頂けるかしら」

「はい、すぐに用意します」

 細身の身体のどこに吸収されているのだろうか。
 もしや、魔力に変換されているのではと考えてしまいそうなほど、彼女は体格に見合わない量を平らげることがある。

「マルク、お前も身体を張ったんだから、遠慮せずに食べようぜ」

「そうですね。今が旬みたいですし、もう少し」

 キンキンとまではいかないが、冷えたエールとクレイフィッシュの網焼きはいい組み合わせだった。
 舌鼓を打つことに満たされるような感覚がある。
 しかも、目の前がデール湖というロケーションも最高だった。

 一匹分のクレイフィッシュを完食したところで、漁師たちの焼き台に向かった。
 クレイフィッシュは美味しいのだが、食べているうちに飽きそうになった。

「マルクさん、どうしました?」

「焼き魚を少し分けてもらえますか」

「もちろんです。クロダイが焼き上がったところなので、よかったらどうぞ」

「ありがとうございます」

 ガストンはザ・焼き魚といった見た目のクロダイを皿に乗せてくれた。
 箸でもあれば食べやすいのだが、ここではフォークで身をほぐして食べる。

「これもいいですね。脂が乗っていて、ほとんど臭みがない」

「デール湖は水がいいので、魚の味も最高なんですよ」

「すぐ近くに湖があって、好きな時に食べられるのはいいですね」

 こちらがそう伝えると、誇らしげにガストンは微笑んだ。

「お三方とも楽しんで頂けているようで何よりです」

「地元の町はこんなに水産は盛んではないですし、きれいな湖もないので、今回は来れてよかったと思います」

「そうですか。何もないところですが、そんなふうに言って頂けるのはうれしいもんです」

 海の男――ここの場合は湖の男になるかもしれないが、ガストンは漁師頭という立場もあってか、接しやすい人柄で好感の持てる人だと思った。

 その後もエールとデール湖の地魚を味わいつつ、楽しい時間をすごした。

 夕方になる前に集まりは解散になり、ガストンが改まって声をかけてきた。

「お三方、今回は本当にありがとうございました。聞いて頂きたいことがありまして、少しよろしいですか?」

「俺は大丈夫ですけど」

「おれも問題ねえよ」

「私も聞かせてもらうわ」

 俺たちの承諾が取れると、ガストンはホッとしたような仕草を見せた。

「ありがとうございます。では、こちらへ」

 漁師小屋のような場所から、最初に話を聞くことになった部屋に案内された。

「あまり他の者たちに聞かれると、余計な心配をかけてしまうので……」

 全員が腰を下ろしたところで、ガストンは申し開きするように言った。

「そんで、話ってのはどんなことだ」

「エリクとシーマンティスの残骸を処分した際、尾の辺りに卵が見つかったのですが……やつは増えるんでしょうか」

 ハンクの問いかけにガストンは不安げに言葉を返した。

「そっか、それならアデルの方が詳しいだろ」

「うーん、どうなのかしら。魔物は厳密には生物ではないのよね。野生の生物なら二対――つまり、オスとメスということになるけれど、シーマンティスに必ずしも対になる存在がいるとは限らないわ」

「俺もアデルの見解に同意です。あれだけ危険な魔物が封印されていたとはいえ、もう一体いるのなら、どこかで見つかっているはずです」

 アデルと俺が話をすると、ガストンの緊張が和らいだように見えた。

「それを聞いて安心しました。どこかにもう一体いるのかと……」

「もちろん、絶対とは限らないわ。元々は海の魔物だし、ここは汽水湖。海のことはまだ知られていないことがたくさんあるもの」

「おっさん、そう辛気臭い顔すんなって。何かあれば、またおれたちを呼べばいいだけのことだろ」

 ハンクはガストンを安心させるように柔らかい笑みを浮かべていた。
 
「ええ、その時はまた皆さんをお呼びします」

「私にも任せてちょうだい」

「俺も駆けつけますよ」

「あと、そん時はエールとクレイフィッシュも頼む」

「もちろん、ご用意します。クレイフィッシュは時期が限られますが」

 ガストンが言い終えると、誰からというわけでもなく笑い声が上がった。
 和やかな雰囲気に心が洗われるような気分だった。

「ささやかなお礼ではありますが、帰りは馬車を用意してあります。それに乗っていってください」

「帰りの船を予約してあるから、船頭に断りを入れてくるわ」

「左様ですか。先にお伝えした方がよかったですかね」

「貸し切りの先払いだから問題ないわ。私たちを乗せずにバラムに帰るだけから」

 アデルはそう言って、一人で部屋を後にした。

 俺とハンクは先に馬車のところに案内されて、アデルを待つかたちになった。
 しばらく待っていると、彼女と合流することができた。

 三人揃ったところで、俺たちは馬車の荷台に乗りこんだ。
 そこまで高級ではないものの、バラムまでの距離を考えれば気にならない。

「よかったら、また遊びに来てください」

 ガストンが見送りをしてくれていた。
 いつの間にかエリクも一緒にいる。

「はい、また会いましょう!」

「何かあった時は助けを呼ぶんだぞ」

「クレイフィッシュ、美味しかったわ」

 ガストンたちと別れのあいさつを済ませた後、馬車はバラムへと動き出した。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~

荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
 ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。  それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。 「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」 『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。  しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。  家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。  メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。  努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。 『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』 ※別サイトにも掲載しています。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬
ファンタジー
白石悠真は、ある日突然異世界へ召喚される。しかし、特別なスキルとして授かったのは「牧場経営」。戦えない彼は、与えられた土地で牧場を経営し、食料面での貢献を望まれる。ところが、彼の牧場には不思議な動物たちが次々と集まってきて――!? 異世界でのんびり牧場ライフ、始まります!

処理中です...