312 / 555
和の国サクラギとミズキ姫
火山への進入
しおりを挟む
時間を忘れそうになるほど美しい光景だったが、アカネから早く戻るように言われていたことを思い出す。
ここまでたくさんの星々を見るのは初めてで、後ろ髪を引かれるような想いで踵を返した。
「――おっ、またか……」
民家へと引き返す途中で地面が小刻みに揺れた。
大きな地震ではないものの、猿人族が駆け引きのために火山活動をそのままにしているのだろう。
俺は足の運びを早めて、仲間のところへと向かった。
先ほどの部屋に戻ると、皆一様に険しい顔をしていた。
「おかえり。さっき揺れたの分かった?」
「はい、もちろん」
「猿人族は引く気ないみたいだね」
ミズキは複雑な表情のまま低い声を漏らした。
「姫様、そろそろ出るとしましょう。宝刀を火口に投げこむことができれば、全て丸く収まります」
「うん、そうだね。あたしがやらないと」
ミズキは決意をこめたように立ち上がった。
彼女がその気ならば、こちらも応えねばという気持ちになる。
「事前に見つかりにくい経路を見つけてある。二人とも、拙者の指示に従うように」
「もちろん、大丈夫です」
「私も問題ないわ。地面が揺れると気持ち悪くなるから、サクッと終わらせるわよ」
アデルはいつも通りの様子で力強く感じる。
「マルクくん、アデル……ありがとう。このお礼はしっかりするから」
「なかなか太っ腹ね? サクラギの高級食材をありったけ要求するわよ」
「それはちょっと……要相談でお願い」
アデルの冗談めかした言い方に場の空気が和む。
ミズキも彼女とのやりとりに慣れているようで、笑顔から余裕が戻ったように見えた。
「――では、参りましょう」
アカネが先導するかたちで、俺たちは民家を出発した。
村の中を歩き出すと、焚かれたかがり火に見送られるような心境になる。
最初は民家の影で気づかなかったが、軒先で村人たちが頭を下げていた。
ミズキは猿人族に目立たぬようにという配慮もあるのか、声は出さずに手を振って応えている。
やがて村の出口に至り、そこを抜けると暗闇が広がっていた。
反射的にホーリーライトを唱えそうになるが、猿人族の警戒網に意識が及んだ。
不自然に光っていれば、いくら離れていても見つかってしまう。
「足元が見えづらいのでご注意を」
先を進むアカネの声が聞こえた。
道の左右に林が広がり、本来は暗闇が深いはずだ。
しかし、火山の方から見える閃光の影響で、どうにか進める程度の明るさはある。
火山活動の状態が気にかかるが、今は気を逸らす余裕はない。
転ばないように気をつけながら、一歩ずつ前に進んでいく。
猿人族はいないようで、この道にいるのは俺たちだけのようだ。
やがて、途中から木々の数が減り、進んだ先で視界が開けると火山の麓に出た。
「この先、猿人族が見回りをしているため、拙者が探り当てた目につきにくい道を進みます」
「アカネ、案内は任せたよ」
「承知しました」
ミズキとアカネの気心が知れたやりとりを耳にして、少しばかり緊張がほぐれる。
火山の裾野から傾斜のついた道があり、山頂へと伸びていた。
自然にできた勾配を人工的に整えた様子が窺える。
前方を見上げれば火口付近は明るくなっており、熱くたぎる溶岩の存在を想像させた。
「――魔法が使えるお二人に再度お話が」
いざ火山へ上がろうという段になったところで、先頭のアカネがくるりと振り返った。
「猿人族は我ら以上に魔法に詳しくない。見つかりそうになった時は光の魔法でかく乱を」
「ええ、分かったわ」
「はい、その通りに」
「それと猿人族に不要な危害は加えたくない。危険があっても最小限の攻撃で回避するよう、お頼み申す」
アカネの言葉に俺とアデルは頷いて返した。
会話が済んだ後、アカネは素早い身のこなしで飛び出していった。
次に彼女の動きが止まると、裾野から少し上がったところに姿が見えた。
「……来ていいって合図を出してる。あたしたちも行こう」
続いてミズキが駆けていった。
お姫様というよりも手練れの武芸者のような足さばきだった。
「俺たちも行きますか」
「そうね、遅れるわけにはいかないわ」
二人で周囲を確認して、アカネのところへと走り出す。
近くに猿人族のかがり火は見当たらないが、火口付近が明るいことでこちらの姿が見つかる可能性がある。
「はぁっ、はぁっ……」
そこまで長い距離ではなかったが、一気に駆け抜けると少し息が上がった。
こちらと並走するかたちだったアデルも肩で息をしている。
一方、ミズキとアカネは平然とした様子で息切れを起こしていない。
「極力、拙者が猿人族を払うが、自分の身は自分で守られるよう」
アカネは俺とアデルに向けて言った。
ミズキには言うまでもないということなのだろう。
アカネが山頂に向けて歩き出し、それに続いて足を運ぶ。
離れたところにかがり火の気配が見られるが、近くに猿人族はいないようだった。
全員で息を潜めて、緩やかな坂道を登っていった。
アカネがあらかじめ言っていた通り、見回りが手薄なところを通っているようで、出くわすことなく進めている。
火山を登り始めてしばらく経ち、気が緩みかけたところで、その存在が目に留まった。
「……壁際に身を寄せて」
アカネが小さな声で指示を飛ばした。
それに従って、岩壁に沿うように身を寄せる。
「あれが猿人族ですか?」
「この距離なら問題ないはずだが、油断はできん」
アカネはこちらの質問には答えず、再度警戒を促した。
息を潜めているとわずかな瞬間目にした、黒い毛に覆われた人型の何かが脳裏をよぎる。
ここまでたくさんの星々を見るのは初めてで、後ろ髪を引かれるような想いで踵を返した。
「――おっ、またか……」
民家へと引き返す途中で地面が小刻みに揺れた。
大きな地震ではないものの、猿人族が駆け引きのために火山活動をそのままにしているのだろう。
俺は足の運びを早めて、仲間のところへと向かった。
先ほどの部屋に戻ると、皆一様に険しい顔をしていた。
「おかえり。さっき揺れたの分かった?」
「はい、もちろん」
「猿人族は引く気ないみたいだね」
ミズキは複雑な表情のまま低い声を漏らした。
「姫様、そろそろ出るとしましょう。宝刀を火口に投げこむことができれば、全て丸く収まります」
「うん、そうだね。あたしがやらないと」
ミズキは決意をこめたように立ち上がった。
彼女がその気ならば、こちらも応えねばという気持ちになる。
「事前に見つかりにくい経路を見つけてある。二人とも、拙者の指示に従うように」
「もちろん、大丈夫です」
「私も問題ないわ。地面が揺れると気持ち悪くなるから、サクッと終わらせるわよ」
アデルはいつも通りの様子で力強く感じる。
「マルクくん、アデル……ありがとう。このお礼はしっかりするから」
「なかなか太っ腹ね? サクラギの高級食材をありったけ要求するわよ」
「それはちょっと……要相談でお願い」
アデルの冗談めかした言い方に場の空気が和む。
ミズキも彼女とのやりとりに慣れているようで、笑顔から余裕が戻ったように見えた。
「――では、参りましょう」
アカネが先導するかたちで、俺たちは民家を出発した。
村の中を歩き出すと、焚かれたかがり火に見送られるような心境になる。
最初は民家の影で気づかなかったが、軒先で村人たちが頭を下げていた。
ミズキは猿人族に目立たぬようにという配慮もあるのか、声は出さずに手を振って応えている。
やがて村の出口に至り、そこを抜けると暗闇が広がっていた。
反射的にホーリーライトを唱えそうになるが、猿人族の警戒網に意識が及んだ。
不自然に光っていれば、いくら離れていても見つかってしまう。
「足元が見えづらいのでご注意を」
先を進むアカネの声が聞こえた。
道の左右に林が広がり、本来は暗闇が深いはずだ。
しかし、火山の方から見える閃光の影響で、どうにか進める程度の明るさはある。
火山活動の状態が気にかかるが、今は気を逸らす余裕はない。
転ばないように気をつけながら、一歩ずつ前に進んでいく。
猿人族はいないようで、この道にいるのは俺たちだけのようだ。
やがて、途中から木々の数が減り、進んだ先で視界が開けると火山の麓に出た。
「この先、猿人族が見回りをしているため、拙者が探り当てた目につきにくい道を進みます」
「アカネ、案内は任せたよ」
「承知しました」
ミズキとアカネの気心が知れたやりとりを耳にして、少しばかり緊張がほぐれる。
火山の裾野から傾斜のついた道があり、山頂へと伸びていた。
自然にできた勾配を人工的に整えた様子が窺える。
前方を見上げれば火口付近は明るくなっており、熱くたぎる溶岩の存在を想像させた。
「――魔法が使えるお二人に再度お話が」
いざ火山へ上がろうという段になったところで、先頭のアカネがくるりと振り返った。
「猿人族は我ら以上に魔法に詳しくない。見つかりそうになった時は光の魔法でかく乱を」
「ええ、分かったわ」
「はい、その通りに」
「それと猿人族に不要な危害は加えたくない。危険があっても最小限の攻撃で回避するよう、お頼み申す」
アカネの言葉に俺とアデルは頷いて返した。
会話が済んだ後、アカネは素早い身のこなしで飛び出していった。
次に彼女の動きが止まると、裾野から少し上がったところに姿が見えた。
「……来ていいって合図を出してる。あたしたちも行こう」
続いてミズキが駆けていった。
お姫様というよりも手練れの武芸者のような足さばきだった。
「俺たちも行きますか」
「そうね、遅れるわけにはいかないわ」
二人で周囲を確認して、アカネのところへと走り出す。
近くに猿人族のかがり火は見当たらないが、火口付近が明るいことでこちらの姿が見つかる可能性がある。
「はぁっ、はぁっ……」
そこまで長い距離ではなかったが、一気に駆け抜けると少し息が上がった。
こちらと並走するかたちだったアデルも肩で息をしている。
一方、ミズキとアカネは平然とした様子で息切れを起こしていない。
「極力、拙者が猿人族を払うが、自分の身は自分で守られるよう」
アカネは俺とアデルに向けて言った。
ミズキには言うまでもないということなのだろう。
アカネが山頂に向けて歩き出し、それに続いて足を運ぶ。
離れたところにかがり火の気配が見られるが、近くに猿人族はいないようだった。
全員で息を潜めて、緩やかな坂道を登っていった。
アカネがあらかじめ言っていた通り、見回りが手薄なところを通っているようで、出くわすことなく進めている。
火山を登り始めてしばらく経ち、気が緩みかけたところで、その存在が目に留まった。
「……壁際に身を寄せて」
アカネが小さな声で指示を飛ばした。
それに従って、岩壁に沿うように身を寄せる。
「あれが猿人族ですか?」
「この距離なら問題ないはずだが、油断はできん」
アカネはこちらの質問には答えず、再度警戒を促した。
息を潜めているとわずかな瞬間目にした、黒い毛に覆われた人型の何かが脳裏をよぎる。
22
あなたにおすすめの小説
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。
彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
【完結】テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~
にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。
「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。
主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。
35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~
月神世一
ファンタジー
紹介文
「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」
そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。
失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。
「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」
手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。
電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。
さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!?
森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、
罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、
競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。
これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。
……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる