異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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異世界の南国ヤルマ

新たな目的地

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「それでおぬしたちはこれからどうするつもりだ。サクラギに滞在するのなら歓迎するぞ」

「今は旅をしている途中で、どこか面白そうな土地はご存じないですか?」

「ふむ、面白そうな……いにしえの魔王がいる町はどうだ? なかなか興味が引かれるだろう」

 ゼントクは腕組みをして自信ありげに言った。
 魔王という単語に好奇心と疑念が同時に湧いている。
 古い文献には残っているかもしれないが、日常会話に出てくるような話題ではなく、かつて存在したことを信じていない人も多い。

「……魔王ですか?」

「うむ、魔王だ。なかなか貴重な情報故、対価にわしの愛娘を置いていっても構わんのだぞ」

 ゼントクは冗談とも本気とも言える表情を見せた。
 ミズキはあんまり面白くないなーと言って、顔をしかめている。

「魔王がいるなんて信じていいのかしら。ただ、ゼントクが嘘を言うとは思えないのよね」

「ふふん、その通り。だがまあ、信じる信じないはアデル殿やマルク殿に任せよう。その魔王がいるところはヤルマという少し遠い国に行く必要がある」

「多少遠い分には気にしませんよ」

「私も問題ないわね」

 俺とアデルが納得していると、ミズキが会話に加わる。

「ヤルマは行ったことないから、あたしも行きたいな。魔王はあんまり興味ないけど」

「ミズキ……もう少しゆっくりしていってもいいんじゃないか」 

 ゼントクが急に弱々しい態度になった。
 ミズキのことになると弱体化するようだ。

「気が向いたら、また帰ってくるから心配なく。アカネも一緒だし」

「ううむ、そうか……。アカネよ、ミズキを頼むぞ」

「はっ、お任せください」

 ゼントクに声をかけられて、アカネがうやうやしく頭を下げた。

「……ミズキ」

「うーん、他に何か?」

 話に区切りがつきそうなところで、ゼントクが口ごもりながら名を呼んだ。
 ミズキは少しめんどくさそうに応じている。

「ヒフキ山の件、わしが不甲斐ないばかりに迷惑をかけた。宝刀が代々伝わる家宝とはいえ、火口に投げこむ決断をすべきだった」

「ああっ、そんなこと。あたしはサクラギを治める者だからね、人々にとって最善の選択をしないと」

 ミズキは自らを誇るように言った。
 惚れ惚れするような振る舞いに彼女を見ると、気負いのないまっすぐな目をしている。
 普段はお気楽にすごしているようでも心の内に芯があり、それは当主になることを決意している者の眼差しだった。

「しばらく見ない間に立派になったな。ぐすんぐすん……」

 ゼントクは人目を気にすることなく、泣き出してしまった。
 貫禄ある人の思わぬ様子に、こちらはおろおろするばかりである。

「当主様、ささっこちらをどうぞ」

「うぅっ、すまぬ」

 どこからともなく黒子のような人影が現れて、ゼントクにハンカチのような布切れを手渡した。
 それを目に留めたミズキはその人物に声をかけようとしている。

「レッカ、お父さんを頼むね」

「はっ、承知」

 彼女の呼びかけに応じた後、すぐにレッカと呼ばれた者はどこかに消えた。
 アカネとは服装が違うように見えたが、隠密のような役割を担っていることだけは何となく理解できた。

 ゼントクとの報告を終えた俺たちは部屋を出て、城の敷地から城下町へと移動した。
 
「ヤルマまでどれぐらいかかるんですか?」

「牛車なら一日とちょっとで着くんじゃないかな、アカネは行ったことある?」

「いえ、地名を聞いたことがある程度で行ったことはございません」

「あたしもあんまり詳しくないけど、ヤルマまでの道のりは危険はないはずだから、そんなに心配しなくてもいっか」

 ミズキは一人で納得するように頷いた。

「私も行ったことがないわ。どんなところかしら?」

 頃合いを見計らったように、アデルがミズキにたずねた。

「方角的にはサクラギの南東で、南国だからここよりも暑いみたいだね。モルネアは乾燥した暑さだけど、ヤルマの方はじめじめして暑いみたい」

「あんまり暑いのは好きじゃないのよね。とりあえず、魔王が本当にいるのか気になるところよ」

 アデルは魔王のことが気にかかるようだ。
 個人的にはミズキの目的を詳しく知りたいところである。  

「ミズキさんは何かヤルマでやりたいことはあるんですか?」

「うーん、見聞を広めたいのもあるし、ヤルマ方面は新鮮なマグロが食べられるから」

「おおっ、マグロ? そういえば、城下町の寿司屋で食べました」

「どうしても、こっちに運ぶまで時間がかかるから、鮮度が落ちやすいんだよ。ヤルマで水揚げしてて、新鮮なものが食べられるってわけ」

 彼女の言葉に俺とアデルは熱い視線を送っていた。

「……そんなに見つめられると照れちゃうな。とりあえず、魔王がいるかどうかは真偽が分からないし、まずはマグロを目的に行ってもいいかもね」

「そうですね。それでいきましょう」

 アカネはそこまで反応を見せていないが、少なくとも三人はマグロ目当てに一致団結できたようだ。

「マルクくんたちは旅の荷物があるからいいけど、あたしは準備が必要だから、出発は明日でもいい? どっちにしても今からだとすぐに日暮れになるし」

「それで構いませんよ」

「そうね、私も明日でいいわ」

 俺とアデルが提案に応じると、ミズキは微笑みを見せた。

「うんうん、これで決まりだね。今日の宿は事情を話してモミジ屋に泊まっておいて。宿代は払っておくから」

「ありがとうございます。それじゃあ、また明日」

「明日は宿に迎えに行くから、よろしくー」

 ミズキとアカネは方向転換して立ち去った。
 城下町の通りには夕暮れが近づき、徐々に日が傾いている。
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