341 / 555
異世界の南国ヤルマ
地元の民宿と穏やかな朝
しおりを挟む
翌朝、ヤルマの民宿で目が覚めた。
サクラギのモミジ屋は格式高い雰囲気だったが、ここは地元の人の家を間借りしたような部屋だった。
俺は布団を畳んだ後、身支度を整えてから部屋の外で顔を洗った。
二日酔いとまではいかないものの、頭がぼんやりしている。
だいたいのことは覚えているが、記憶がところどころ曖昧だった。
「昨日はオルスとミズキたちが盛り上がって、遅くまで飲んだからな」
すぐに移動しようという気にはならず、壁に背中を持たれかけて腰を下ろす。
これは楽な体勢だと思ったところで、開けたままの扉の近くに人影が見えた。
「おはようございます! 朝食を食べてないのはお客さんだけなので、食堂に来てくださいっす!」
「はい、今行きます」
「「……あれ?」」
お互いに顔を見合う。
見覚えのある人物はリンだった。
「もしかして、ここでも手伝いを?」
「この民宿はうちの実家っす。手伝いっちゃ、手伝いっすね」
「へえ、働き者で偉いなあ」
そう伝えると、リンは恥ずかしそうにもじもじした。
ミズキやアカネと同じく日本人に近い風貌をしているせいか、出会ったばかりでも話しやすい気がする。
「ささっ、食堂へどうぞ」
俺は申し訳ないと思いつつ部屋を出た。
廊下を歩いた先に食堂はあった。
壁際に大きな窓があり、朝のさわやかな陽光が差しこんでいる。
ここも一般家庭のような感じで、くつろげるような雰囲気だった。
「おはようございます。そこの席におかけください」
こちらの存在に気づいた女の従業員が声をかけてきた。
見た目の雰囲気がリンと重なるため、彼女が母親だと思った。
「お待たせしてしまって……俺が最後みたいですね」
四人で使う机の上に一人分の料理が置かれている。
あらかじめ用意しておいて、お客がやってきたところでご飯や味噌汁などを提供するかたちなのだろう。
「そんなお気になさらず。寝不足は身体に悪いですから、ゆっくりお休みになって頂いてけっこうですよ」
リンの母親はのんびりした口調だった。
ヤルマのゆったりした空気になじむような人柄のようだ。
俺が椅子に腰を下ろすと、すぐに茶碗が運んでこられた。
中にはお粥が入っており、中心にはカツオ節を炒ったようなものが乗っている。
「美味しそうですね。いただきます」
「どうぞ、召し上がれ」
お粥は温めてあったようで、湯気が浮かんでいる。
木製の匙ですくい上げてから、少し冷まして口に含んだ。
ほどよい塩加減で飲みすぎた後の朝にはぴったりな味だった。
お粥以外には焼き魚や細長いラッキョウの酢漬けたみたいなものがある。
それらを用意された箸でつまみながら、合間にお粥を口へと運ぶ。
「全体的にまろやかな味つけで食べやすいです」
「そんなふうに言って頂けて作った甲斐があります。もし足りなかったら、おかわりもご遠慮なく」
「はい、どうも」
リンの母親の申し出はありがたいが、用意された分で腹八分になりそうだった。
朝からサービス満点の食事を平らげて、食堂を後にした。
部屋に戻ってから荷物をまとめて、民宿の入り口に向かった。
ちょうど帳場にリンの母親がおり、支払いを済ませて民宿を出た。
日差しはやや強いが、今日はすがすがしい快晴だった。
民宿の敷地を離れると左右に路地が伸びていた。
仲間たちと集合時間を決めないまま解散になったので、いつ集まるかは特に決まっていない。
「とりあえず、少し歩くか」
リンの母親の話では、俺以外の三人はすでにチェックアウトしたようだ。
アデルは旅好きな性格なので、付近を散策しているかもしれない。
ミズキは水牛のところにいそうな気がして、アカネはそんなミズキの近くにいるような気がした。
道の両脇に石垣が続くのどかな道。
時折、地元民らしき人とすれ違うと会釈をして通りすぎていった。
観光客が訪れる土地柄だからか、他国の人間に慣れている様子だった。
穏やかな気持ちで歩くうちに、道の先に牛車を見つけた。
そのまま近づいてみると、ミズキが水牛に水を与えているところだった。
「おはようございます」
「おおっ、マルクくん」
「起きるのが遅かったみたいで、待たせてしまいましたか」
ミズキは水牛の傍らにしゃがんでいたが、立ち上がってこちらを向いた。
「それなんだけど、アデルがヤルマ観光をしたいって言って出発して。あたしは水牛の世話をしにきただけだよ」
「ああっ、そうでしたか。今日の予定ってどうでしたっけ?」
「昨夜(ゆうべ)は遅くまで飲んだから、覚えてなくても当然だよね。今日はリンちゃんに案内してもらって勇者に会いに行くよ」
ミズキは明るい表情で笑顔を見せた。
陽光に照らされて、さわやかで清潔感のある美しさを感じさせた。
「――マルク殿、姫様に邪(よこしま)な感情を抱いてはいないか?」
気づかないうちにミズキに見とれていたようで、いつの間にかアカネに目をつけられていた。
ゆっくりと背後を振り返ると、怪訝な表情でこちらを見ていた。
「腕っぷしの強さでは勝てる気がしないので、殺気を向けるのはやめてもらえませんか……」
「あれ、アカネがどうかしたの?」
ミズキが加わったところで、アカネは素知らぬ顔を見せた。
さすがに主君の前で先ほどの表情はできないようだ。
「姫様、近くでリンさんに会いまして、そろそろ勇者に会いに行くとのことでした」
「この子の世話も終わったし、みんなで会いに行こっか」
俺たちは三人で民宿の方へと引き返した。
サクラギのモミジ屋は格式高い雰囲気だったが、ここは地元の人の家を間借りしたような部屋だった。
俺は布団を畳んだ後、身支度を整えてから部屋の外で顔を洗った。
二日酔いとまではいかないものの、頭がぼんやりしている。
だいたいのことは覚えているが、記憶がところどころ曖昧だった。
「昨日はオルスとミズキたちが盛り上がって、遅くまで飲んだからな」
すぐに移動しようという気にはならず、壁に背中を持たれかけて腰を下ろす。
これは楽な体勢だと思ったところで、開けたままの扉の近くに人影が見えた。
「おはようございます! 朝食を食べてないのはお客さんだけなので、食堂に来てくださいっす!」
「はい、今行きます」
「「……あれ?」」
お互いに顔を見合う。
見覚えのある人物はリンだった。
「もしかして、ここでも手伝いを?」
「この民宿はうちの実家っす。手伝いっちゃ、手伝いっすね」
「へえ、働き者で偉いなあ」
そう伝えると、リンは恥ずかしそうにもじもじした。
ミズキやアカネと同じく日本人に近い風貌をしているせいか、出会ったばかりでも話しやすい気がする。
「ささっ、食堂へどうぞ」
俺は申し訳ないと思いつつ部屋を出た。
廊下を歩いた先に食堂はあった。
壁際に大きな窓があり、朝のさわやかな陽光が差しこんでいる。
ここも一般家庭のような感じで、くつろげるような雰囲気だった。
「おはようございます。そこの席におかけください」
こちらの存在に気づいた女の従業員が声をかけてきた。
見た目の雰囲気がリンと重なるため、彼女が母親だと思った。
「お待たせしてしまって……俺が最後みたいですね」
四人で使う机の上に一人分の料理が置かれている。
あらかじめ用意しておいて、お客がやってきたところでご飯や味噌汁などを提供するかたちなのだろう。
「そんなお気になさらず。寝不足は身体に悪いですから、ゆっくりお休みになって頂いてけっこうですよ」
リンの母親はのんびりした口調だった。
ヤルマのゆったりした空気になじむような人柄のようだ。
俺が椅子に腰を下ろすと、すぐに茶碗が運んでこられた。
中にはお粥が入っており、中心にはカツオ節を炒ったようなものが乗っている。
「美味しそうですね。いただきます」
「どうぞ、召し上がれ」
お粥は温めてあったようで、湯気が浮かんでいる。
木製の匙ですくい上げてから、少し冷まして口に含んだ。
ほどよい塩加減で飲みすぎた後の朝にはぴったりな味だった。
お粥以外には焼き魚や細長いラッキョウの酢漬けたみたいなものがある。
それらを用意された箸でつまみながら、合間にお粥を口へと運ぶ。
「全体的にまろやかな味つけで食べやすいです」
「そんなふうに言って頂けて作った甲斐があります。もし足りなかったら、おかわりもご遠慮なく」
「はい、どうも」
リンの母親の申し出はありがたいが、用意された分で腹八分になりそうだった。
朝からサービス満点の食事を平らげて、食堂を後にした。
部屋に戻ってから荷物をまとめて、民宿の入り口に向かった。
ちょうど帳場にリンの母親がおり、支払いを済ませて民宿を出た。
日差しはやや強いが、今日はすがすがしい快晴だった。
民宿の敷地を離れると左右に路地が伸びていた。
仲間たちと集合時間を決めないまま解散になったので、いつ集まるかは特に決まっていない。
「とりあえず、少し歩くか」
リンの母親の話では、俺以外の三人はすでにチェックアウトしたようだ。
アデルは旅好きな性格なので、付近を散策しているかもしれない。
ミズキは水牛のところにいそうな気がして、アカネはそんなミズキの近くにいるような気がした。
道の両脇に石垣が続くのどかな道。
時折、地元民らしき人とすれ違うと会釈をして通りすぎていった。
観光客が訪れる土地柄だからか、他国の人間に慣れている様子だった。
穏やかな気持ちで歩くうちに、道の先に牛車を見つけた。
そのまま近づいてみると、ミズキが水牛に水を与えているところだった。
「おはようございます」
「おおっ、マルクくん」
「起きるのが遅かったみたいで、待たせてしまいましたか」
ミズキは水牛の傍らにしゃがんでいたが、立ち上がってこちらを向いた。
「それなんだけど、アデルがヤルマ観光をしたいって言って出発して。あたしは水牛の世話をしにきただけだよ」
「ああっ、そうでしたか。今日の予定ってどうでしたっけ?」
「昨夜(ゆうべ)は遅くまで飲んだから、覚えてなくても当然だよね。今日はリンちゃんに案内してもらって勇者に会いに行くよ」
ミズキは明るい表情で笑顔を見せた。
陽光に照らされて、さわやかで清潔感のある美しさを感じさせた。
「――マルク殿、姫様に邪(よこしま)な感情を抱いてはいないか?」
気づかないうちにミズキに見とれていたようで、いつの間にかアカネに目をつけられていた。
ゆっくりと背後を振り返ると、怪訝な表情でこちらを見ていた。
「腕っぷしの強さでは勝てる気がしないので、殺気を向けるのはやめてもらえませんか……」
「あれ、アカネがどうかしたの?」
ミズキが加わったところで、アカネは素知らぬ顔を見せた。
さすがに主君の前で先ほどの表情はできないようだ。
「姫様、近くでリンさんに会いまして、そろそろ勇者に会いに行くとのことでした」
「この子の世話も終わったし、みんなで会いに行こっか」
俺たちは三人で民宿の方へと引き返した。
30
あなたにおすすめの小説
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。
彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
【完結】テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~
にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。
「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。
主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。
35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~
月神世一
ファンタジー
紹介文
「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」
そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。
失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。
「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」
手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。
電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。
さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!?
森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、
罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、
競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。
これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。
……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる