異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
377 / 555
発展を遂げた国フェルトライン

ここまでの日々を思う

しおりを挟む
 フレヤたちに休暇をもらってから、店のことを考えることはなかったか?
 そう問われた時、考えなかったと答えればウソになる。
 彼女やシリルが息抜きをするようにとくれた休みなので、なるべく考えないようにしていた。

 それでも旅先で目新しい食材を見かけた時、自分の焼肉屋で使えないかと考えることは何度もあった。
 フレヤたちを信頼していても、不測の事態が起きないか気にかかることも。
 とはいえ転生前の記憶を加味すれば、バラムのような町でそういったアクシデントが起きる可能性は低いことも分かっていた。

 俺は牛車の外を流れる景色を見ながら、そんなことを考えていた。
 御者台越しに見えるのは街道を行き交うフェルトライン王国周辺の行商人や旅人で、今自分がいるのは異国であることを実感する。

 移動中は乗っているだけで身体を動かしていないが、朝食から時間が経過して空腹になってきた。
 おもむろにバスケットを開けて、ロミーがくれたサンドイッチを頬張る。    

 食べながら多めに用意してあると気づいて、近くにいるアデルやミズキに分けた。
 食いしん坊キャラのアカネにもお裾分けしようとしたところ、今は空腹ではないから後で食べると返ってきた。

 それにしても、この辺りの街道は平和である。
 フェルトライン王国は発展していて、デックスなどの例外を除けば平和だし、反対側のヤルマは穏やかな南国なので、二つの国の街道は治安が保たれているようだ。

 帰り道では和風国家のサクラギに寄れるのを歓迎できる一方で、モルネア方面を通るのは気が進まなかった。
 安全のためにもサクラギでハンクと合流しておいた方がいいだろう。 
 彼は災害で壊れた民家の補修をしていたが、元気でやっているだろうか。

 アカネは口数が少ないため、時折アデルやミズキと世間的をしながら手持ち無沙汰な時間をすごす。
 何もすることがないせいか、取りとめのないことばかり考えていた。
 レイランドでは落ちつかない状況が続いたので、こうしてのんびりできることを歓迎したい気分だ。
  
 やがて停泊するためにヤルマへ到着した。
 ここでは勇者クーデリア、魔王オルス、宿屋の娘リンと再会を果たし、再び出会えたことを祝うように皆で食事をした。
 彼らに歓迎されることで、この世界に第二の故郷ができたような気持ちになった。
 
 翌日に地図のお礼に転生者のカイルに会いに行くと、レイランドの印象がどんなだったかを気にしていた。
 彼は都会よりも田舎を好んでいるよう人物なので、ネガティブな感想が聞きたかったのだと思った。
 空気を読まずにあの街を気に入ったと伝えたため、カイルの反応はいまいちだった。
 
 それから中継地点での停泊を終えた俺たちは、牛車に乗ってヤルマを出た。
 レイランドに向かった時と同じように、クーデリアとリンが見送りをしてくれた。
 今回もオルスは来なかったわけだが、彼はどっしりと構えているようで別れが寂しいらしいというのは勇者談である。

 意外といえばもう一つ印象に残った出来事があった。
 往路ではヤルマの手前で不可思議な旅籠に出くわしたわけだが、天真爛漫に見えるミズキでもあの時は肝を冷やしたらしい。
 クーデリアたちとの食事の席でミズキ本人は笑い話にしていたが、アカネは真剣な顔で聞いていた。

 その結果、アカネはクーデリアやリンに同じところを通らないルートはないかたずねたりしていたが、最終的に勇者の加護で「数日だけ晴天にする」という離れ業が行われることになった。
 通り雨の多い地域で雨が降らない日が続けば地元の人たちは不思議がったはずだが、主君思いの従者を許してあげてほしいと思った。

 ちなみに俺自身はミズキを笑うことはできない。
 あの旅籠の謎は残ったままで、できることならば近くを通りたくない。
 幸いなことにそれらしきところを通った時には目印がないことで、どの辺りだったか気づくことなく通過することができた。

 実際問題、バラムで幽霊を見たことは一度もないし、冒険者時代のでオカルトめいたものがあったこともない(怪しげな洋館や夜な夜な現れる怪しい人影とか)。
 古びた遺跡に足を運べば、グールやボーンナイトなどのアンデッドはいるものの、それらは実体を持っているため幽霊とは違うと思う。

 とにかく、クーデリアのおかげで水牛は快足を飛ばすことができて、往路よりも短い時間でサクラギへと戻ることができた。

 牛車が城下町の近くまで来たところで、ミズキは水牛を厩舎に預けに行った。
 彼女はこの国のお姫様であるため、戻るのを待って町へと足を運んだ。
 
 夕暮れのサクラギの町は風情を感じる。
 瓦屋根に当たる橙色の夕日と和服を着た町の人たち。
 転生してバラムのマルクになっても、そうした感性が残っていることに喜びと感慨を抱いた。

「あたしたちはお城に戻らないといけないから、二人は好きにしてて。モミジ屋ならあたしの紹介って伝えたら泊まれるから」

「ありがとうございます」

「長旅の後だし、すぐにバラムへは行かないでしょ? 明日、また合流しようね」

「はい、ではまた明日」

 ミズキは俺とアデルに手を振り、アカネは小さく一礼して去っていった。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

1歳児天使の異世界生活!

春爛漫
ファンタジー
 夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。 ※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

処理中です...